「・・・なぁなまえ、お前本当にバカじゃねぇ?」

月明かりに照らされたジャンの顔はややひきつっている。
いつものようにバカにした顔をしてくれたらまだ良かったのに、となまえは思った。

「分かってるよ、分かってるから何とかしてよジャンっ・・・!」

なまえは今、呆れ顔を浮かべて立つジャンの目の前にある木にぶら下がっている。
訓練兵団の消灯時間はとっくに過ぎているこの時間、兵舎を抜け出そうと裏側にある窓から木に飛び移ったなまえは、不幸にも足を滑らせてしまったのだ。
太い枝に何とか捕まったものの、ぶるぶると震えている彼女の腕は、もう限界が近いことを分かりやすくジャンに伝えていた。

「ヤだね。教官に見つかったらどうすんだよ。お前が何をしようとしてたかは知らねぇけどよ、オレはただ通りかかっただけで、お前とは何の関係もねぇ。大体2mやそこらを訓練兵がサッと飛び降りれないでどうすんだよ」
「ひ・・・人でなしっ・・・!」

全く自分を助ける気がないらしいジャンにそう声を振り絞ったなまえの目には、涙が浮かんでいる。

「だ、大体ジャンだって何でこんな時間に外にいるの?あんたたちの怪しい噂、聞いたことあるんだから・・・!あることないこと尾ひれつけて、皆にバラすよ・・・?!」
「ハ・・・ハァ?!訳分かんねぇこと言ってんじゃねぇよ!」

ジャンは一瞬で顔を真っ赤にして、小声であるものの、なまえに叫んだ。
ムキになるのも仕方ない。
そもそも彼がここにいるのは、とてもやましい理由があるからだ。
オトコノコ特有の“処理”を開放的に行える場所を求める途中、彼はここを通りかかったのだった。
なまえは何となく、男子の中にはそんなことをする者がいることを聞いていたから、特別教官からの評価を気にするジャンがこんな時間に外をうろついていることを不審に思った。
窮地にある彼女の直感は、全く当たっていたことになる。
ジャンとなまえは他の何人かを加えて何回か、嘘か真かも分からぬ下ネタで盛り上がったこともあった。
だからなまえのジャンに対するイメージは、すこぶる「下ネタ好き」が強い。

「な・・・何をムキになってんの・・・、ど、どうせエッチなことでも考えてたんでしょ・・・?!とにかく、早く、・・・!!!!」

ずるっ、となまえの手が滑り、彼女の身体がまた少し、ずり落ちる。
その時、ジャンの目は彼女の身体に釘付けになった。
なまえの着ているカットソーの裾が枝に引っかかってずり上がり、下にいるジャンからは彼女の下着が丸見えになってしまったからだ。
覗く彼女の丸みを帯びた胸は、(ジャンが思うには、)意外と大きい。
見開かれたジャンの目は血走って、なまえの下着を食い入るように見つめている。
それが分かったなまえは、恥ずかしさとパニックに、教官に見つからないような小声で最大限、叫んだ。

「み、見ないでよジャン!!」
「み・・・見るなって、お前、オレに助けてほしいんだろ?!」
「それはそうだけど、とにかくみな――――!!!!」

そう言った瞬間、何とか枝を掴んでいたなまえの両手は何とも無情に力尽き、彼女の身体を落下させた。
ドッ、という音で落下が止まる。
同時に身体には鈍い痛みが走った。

「痛って・・・、」

痛みに歪めた顔で目をうっすら開けると、そこには意地の悪い顔を彼女と同じように歪めたジャンが、彼女の下に、いた。

「ジャ・・・ジャン」
「早くどけよ・・・重てぇな・・・あ、」

何ということだろう。
あんなことを言っていた薄情者のジャンが、いざ木から落ちたら自分を助けてくれただなんて。
驚き感謝しつつも慌ててどいたなまえは、「あ、」と不思議な声を上げたジャンの視線の先を見る。
彼女がそちらに視線をやってしまったのは、ごく普通のことだ。
そこが、ジャンのテントを張っている下半身だったとしても。

「・・・わ、わぁ・・・」

思わずそう口から出たなまえの顔は思いきり青ざめて、引いている。
さっき彼女を呆れ顔で見つめていたジャンよりも、ずっと。
ジャンはというと、真っ赤な顔でひきつり笑いを浮かべていた。

「ハ・・・ハハ・・・何か、勃っちまったじゃねぇか・・・」

同じくひきつった顔のなまえは、愛想笑いを返すこともできない。
ジャンの顔は見たことがない程に、バツが悪く恥ずかしそうな、けれど、希望の隠れた、甘えたような顔をしていた。
しばらく不思議な空気を漂わせて見つめ合った後、何を思ったかジャンは少し声をひっくり返しながら、(なまえが思うには)気持ち悪い、甘え顔で言った。

「お・・・おい、オレもお前を助けてやったんだ・・・なまえ、お前も何とか手伝ってくんねぇか、コレ・・・」
「え、絶対無理」

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