兵長と守銭奴/12


― get under my skin ―


二階回廊の窓から階下を眺めれば、兵士や馬が集まり始めている。
なまえの目にも、どの顔も独特の緊張感に包まれている様に思われた。
壁外へ発つ時間が近付いているのだろう。
大きな窓枠の中になまえが無意識に探す姿は、なかなか見当たらない。

「・・・よう、調子はどうだ・・・クソ守銭奴」

掛けられた声に彼女がはっとして前を見れば、探していた姿がすぐ目の前にあった。
兵服に濃緑のマントを着込み、しっかりと立体機動を装着してそこに佇んでいる。
リヴァイの表情や雰囲気は階下に集まる兵士たちと違って平素と何ら変わりは無いが、その格好からは出発が間近である事がありありと感じられた。
数日前に部屋で会って以来だというのに、真っ直ぐに彼を見るのは随分久しぶりな気がする。

「普通・・・ですけど」

ぎこちなくなまえが答えれば、そりゃ何よりだ、とリヴァイは言った。

「お前に返さなきゃいけない物がある」

彼は胸ポケットに手を入れると、見慣れた鍵を取り出し、なまえの前に差し出した。
リヴァイに渡してあった、彼女の部屋の合鍵だった。
反射的に彼女は受け取る手を出し掛けたものの、そのままきゅっと、胸の前でそれを握った。

「・・・あの、、持っていて頂けませんか」

彼がとても意外そうな表情を浮かべたので、なまえはやや早口で続けた。

「私に何かがあった時、あなたにそれを持っていて頂いた方がいいと思うんです。その、、守衛さんもあなたの顔なら覚えている訳ですし、、」

彼女にしてはたどたどしい説明に三白眼をやや丸くしたリヴァイは、差し出した鍵を握り直す。

「・・・ああ、分かった。何も起こらない事が前提だが・・・お前がそう言うなら預かっておく。俺たちが不在中の警護についてはエルヴィンから聞いたが・・・用心しろよ」

そしてリヴァイは歩き出し、簡単に彼女を通り過ぎる。
なまえは振り返り、彼の背中へ言った。

「壁外の皆さんの方がずっと危険なのに、、すみません。・・・どうかお気を付けて」

遠ざかっていくリヴァイは振り返る事なく、片手を軽く挙げた。
なまえは彼がやがて階段に差し掛かりその姿が見えなくなるまで、その背中を見送っていた。

―――― 一段、二段、三段。
階段を降りながら、リヴァイは手にしていた鍵を見つめ、左の胸ポケットに入れ直す。
そして軽く右手で拳を握ると、トン、とそこを叩いた。
やがて壁を発つ際に、兵士たちが敬礼をする様に。


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