兵長と守銭奴/2 *R-18




会計を終えたリヴァイが店の外に出てくると、なまえは「おいくらですか」と尋ねた。

「いらねぇよ、そんなもん」

リヴァイがそのまま自分の前を通り過ぎたので、なまえは財布を手に彼に詰め寄った。

「困ります、接待なんて」
「接待じゃねぇってエルヴィンから聞いてねぇのか、守銭奴が」
「そうです、だから――――」
「だからオレが出したんだろうが」
「!」

彼がそう言ったので、なまえは急に自分の顔が熱くなるのを感じた。
接待じゃないから自分が出したという彼のせりふが、どうしても意味深に感じてしまって―――――

「お前、家はどっちだ」
「あ・・・こっちです」

リヴァイはなまえが指差した方向へさっさと歩き出した。
二人が食事をしたレストランは高台にあるので、階段を下ってゆく。
酔って少し火照った体にさわやかな夜風が当たるので、なまえはそれが心地よく感じた。

「あの・・・ごちそうさまでした。気を遣っていただいて、すみませんでした」
「ほう・・・てめぇもそんなセリフが言えるんだな」

2段下を歩くリヴァイは、前を向いたまま答えた。

「それから、さっき・・・失礼なことを言ってすみませんでした」
「・・・別に何とも思ってねぇよ、元々中央のやつらが俺たちのことを駒としか思ってないことはよく分かってる」

それからしばらく二人は黙ったまま階段を下りていたが、最初の踊り場まであと数段に差し掛かった時リヴァイが突然立ち止まり振り返ったので、なまえはそのまま彼にぶつかってしまった。
リヴァイに両腕で体を支えられ、なまえは慌てた。

「す、すみません」

足場の悪い階段で彼女を抱きとめても全く体が動かないのは、彼の体の頑丈さをよく表していた。

「・・・・・・?」

リヴァイが自分を抱きとめたまま動かないので、なまえは顔の見えないリヴァイの様子を窺った。
体を離そうとしたところ、リヴァイは彼女の背中に腕を回し、しっかりと彼女を抱きしめた。
なまえの心臓はドキリと音を立て、胸が痛いほどに急に鼓動が早くなる。
息が上手くできずに、胸が小刻みに上下しているのが分かる。
たぶん、リヴァイも気付いているだろう。

「あ、あの、リヴァイ、兵士長――――――」
リヴァイは何も答えず、なまえをそのまま抱きしめていた。
小柄なのに、たくましく感じるその腕と、体。
生温かい彼の体温と、ほのかに感じる彼の香り。
リヴァイも彼女のそれを味わうように、ただ黙っていた。
風がざわめき、彼女の髪が揺れ顔にやさしく当たる。
目の前には遠くの町の明かりの眺めが大層きれいに見えたのだけど、なまえの目には全くそれは入ってこなかった。

「―――――俺の部屋、来いよ」
「・・・・・・・・・」
「・・・いいだろ」




リヴァイが部屋のドアを閉じた瞬間、彼はなまえを激しく抱き寄せると、そのまま彼女の唇を貪るようにキスをした。

「・・・ちょ、ちょっと待ってくださいリヴァイ兵士長―――――」
「何を待つ」

彼がなまえのカーディガンを脱がせようとしたので彼女はささやかな抵抗をしたが、それは簡単に脱がされてしまった。
尤も、彼女も心から抵抗しているようには見えなかったのだが。
リヴァイは彼女の腰に手を回し、情熱的なキスを続ける。

自分からそうしておきながら、玄関先で待ちきれないようにこんなキスをするなんて、まるで自分は盛っているガキのようだとリヴァイは思った。
それでも、それくらいに彼が彼女を欲していたことも事実で――――――

あの階段道でリヴァイに抱きしめられてからこの部屋に着くまで、なまえはリヴァイの背中を追いながらもうずっと心臓が飛び出そうな程に緊張をしていた。

(私、何してるんだろう)

こうなることが分かっていたのに、大人しく男の部屋に着いて行くなんて。
それでも裏腹に、彼に与えられる久しぶりのキスは、余りにも彼女の胸を官能的に痺れさせる。

(この人のことなんて、好きじゃないのに)

彼の薄い唇、サラッとした舌、そのくせ情熱的なキスと、その吐息。
そのどれもを今、悲しい程に自分は求めている。
彼に入れられた舌を味わうように、なまえも自分の舌を絡ませた。
やっぱり彼とのキスは気持ちいい。
それも、悔しいくらいに。

「・・・っ、ひゃ・・・!」

リヴァイがおもむろに彼女の背中を撫で下ろした感覚にゾクゾクしてなまえは声を上げたのだけど、「サービス過剰だな」とリヴァイは笑った。

「ち、がいます、いつもは、こんなんじゃ・・・」
「・・・いつも?」

リヴァイに意地悪く返され、墓穴を掘ってしまったとなまえはますます赤面した。

彼はこんなにも情熱的なキスをするのに、焦らしているのかというくらいに、首から下には触れてこない。
だから、ふとした体への刺激に思わず声を上げてしまった。
気を良くしたのか、リヴァイはそのままなまえの耳にそっと指で触れる。
ゾクゾクとして、なまえはまた小さく声を上げた。
キスしながら彼女の耳に触れた手を、リヴァイはなまえの頬へ、そして首筋へ、そして彼女の華奢な鎖骨へと滑らせる。

「は・・・、あぁ・・・―――――」

(もっと、触れてほしい)

上手く息ができない程に、なまえはリヴァイとのキスに夢中だった。
彼は何故こんなにも自分を快楽に溺れさせることができるのだろう。

(自分に触れてほしいなんて、思ったこと・・・)

こういう行為に対しては、どちらかというと苦手だと思っていたというのに。
それが、誰でもない、あの“リヴァイ兵士長”だなんて。

リヴァイはキスを続けながらなまえのうなじの辺りを探った後、ワンピースの背中のファスナーを下げ始めた。
彼女はその感覚に、悦びと、緊張と、期待と、不安とが入り混じった気持ちで、リヴァイの背中にしがみつくように手を回した。
ワンピースを肩の辺りまで下ろしたリヴァイは、そこへ唇を落とす。
デコルテに幾度もキスをされる感覚に、なまえは目を閉じて胸をますます高鳴らせた。
腰に回されていた手をリヴァイが少しずつ胸に近付けて来たので、彼女の緊張は極度に達した。

「あっ・・・あの!」

突然彼女が大きな声を出したので、リヴァイはピタッと手を止める。

「シャ・・・シャワー使わせて頂いても・・・いいでしょうか」

彼女のデコルテに口づけていたリヴァイはなまえの顔を見上げ、一瞬の間の後、「ああ」と言った。

「こっちだ」

リヴァイは彼女を簡単に解放すると、さっさと部屋の中へと歩みを進めた。

シャワーブースになまえを招き入れタオルを渡すと、リヴァイは何事もなかったかのようにバスルームから出て行った。

バスルームのドアが閉められたのを確認すると、なまえは緊張した面持ちで周りをきょろきょろと見ながら、脱ぎかけの(脱がされかけの)ワンピースを脱いだ。
下着も脱ぎ、タオルの上に置くと、慣れない様子でシャワーの蛇口をひねった。

(まずかったかもしれない・・・シャワー浴びた後、一体どんな顔して外に出てあの人と顔を合わせればいいんだろう)

体に泡立てたボディーソープを広げながら、なまえは早くもリヴァイにシャワーを要求したことを後悔していた。
大体、この後服を着て外に出るべきか?(それではあまりにもデリカシーがない)
それとも、タオル一枚を巻いて出るべきか?(それではあまりにも準備OKと主張しているよう)
自分の体をちゃんと洗えているのか、洗えていないのかも分からないくらいになまえは頭をぐるぐると悩ませていた。

「!」

ふっと、バスルームの明かりが暗くなる。
驚き振り向くと、裸のリヴァイが立っていた。

「わぁああああああ!!!!」

ちょっと、ちょっと、となまえは叫び、両手で上半身を隠すとリヴァイに背を向けた。
彼はパニック状態のなまえには目もくれず、ボディーソープを手に取る。

「ちょ、ちょっと、あなた、勝手に・・・!!」
「俺はな、待つのがキライなんだ」

狼狽するなまえを尻目に、リヴァイは落ち着いた様子で体を洗い始めた。

(しっ・・・信じられない!!何てデリカシーのない人なの!?)

なまえは恥ずかしくて、泣きたい気分になった。
ちらりとリヴァイに目をやると、はっとするほど美しいとも言えるたくましい、けれどしなやかな体つき。
この間彼と体を重ねたときは彼は服を着たままだったので、彼はこんな体をしているのだと、なまえは初めて見るリヴァイの体に息を飲んだ。

「何見てやがる」

虚をつかれたなまえは、体をビクっと飛び上がらせた。
リヴァイは彼女の方に振り向いた。
彼女は何と言おうとしたのだろうか。
口を開いた瞬間、リヴァイは彼女の口を塞ぐようにキスをした。
彼は何度も角度を変えて、なまえの唇をゆっくりと味わう。
突然シャワーブースに乱入され怒っていたはずのなまえは、すんなりとそれを受け入れ、むしろ、待ち遠しかったように感じた。
リヴァイはさっきの玄関での続きをするかのように、彼女の腰からゆっくりと、その胸へと手を近付けていく。

(はぁ・・・早く、触れてほしい)

自分は何て淫乱なんだろう、となまえは意識の奥で思った。
だけど、今までを思い返しても、こんなことを感じてしまうのは彼だけで。

リヴァイの手はとうとうなまえのバストに触れる。
彼女は悦びに身を震わせるようにして、甘い声を上げた。


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