兵長と守銭奴/10


長い口づけをしながらリヴァイにベッドへと横たえられたなまえは、いつも程強硬に抵抗しない。
それは官能に痺れていたというよりも、どういう訳かいつもより甘く感じるリヴァイが自分に向ける瞳に、言葉に、触れかたに、戸惑っていたのかもしれないし、却ってそれに抵抗できなかかったのかもしれなかった。
いつものようにリヴァイが皮肉の一つでも吐きながら迫ってきていれば、きっぱりと拒絶できていたのかもしれない(たとえ彼が松葉杖を必要とするような怪我をしていたとしても)。

熱い吐息と一緒に離されたリヴァイの唇は、なまえの首筋へと顔を埋められた。
既にブラウスの裾は引き上げられ、彼女の素肌に触れるリヴァイの手がなまえの腰から胸へと向かっていく。
ねっとりと自分の首筋をなぞる彼の舌と下着の上から受ける敏感な先端への刺激に、彼女は甘い声を上げた。
リヴァイが彼女の胸に触れた時、なまえはその手をどけようと多少の抵抗をしたのだが、彼に首筋を舌でなぞられぞくぞくとさせられた上にその手を優しく退かされてしまったので、もう彼女は何もできなくなってしまった。
次第に彼は下着を上へずらし直になまえの胸に触れる。
彼女はそれが待ち遠しかったかのように感じる自分に心底嫌になった――――リヴァイの細い指先で先端を擦られ摘まむように刺激されて、なまえは思わず甘い声を漏らしていた。

「――――っ、ん、、あ・・・」

なまえは声を漏らさないようにと手で口を覆い、顔を反らす。
リヴァイはお構いなしに彼女のブラウスを捲し上げると、僅かに届くランプの灯りにその胸を露にした。
抵抗する間も無く、そこへリヴァイの唇が落とされる。
濡れた舌の生々しい感触に彼女は背をしならせる。
彼の舌先が彼女の胸の先端を弄ぶように甘い刺激を与えれば、なまえはますます漏れる声を我慢できなくなってしまった。
視界の端には自分の胸へ舌を這わせるリヴァイの濡れたように黒い頭が映っている。

(――――ああ、私は一体また何をしてるの、、何でリヴァイ兵士長にはいつもこうやって流されちゃうんだろう・・・)

悲しくなる程の羞恥心と自己嫌悪でなまえは顔を覆う。
いつもと違うリヴァイの彼女に対する少しだけ甘くさえ感じられる態度が、そして、今日の昼間内地で彼女が上官との会話で彼らとの(ひょっとしたら)遠くない別れを意識した事が、今こうしてまた“流されてしまう”一因だったのかもしれない。
ただ彼女の名誉の為に言えば、なまえはそもそもこうした事で男性に流されて曖昧な関係を持ってしまうような質ではないし、ガードも固い(ともすれば堅物とも形容できる)女性である、はずだった―――――少なくとも、リヴァイと出会い、事故のような肉体関係を持ってしまうまでは。

(またこうやって私は懲りもせずリヴァイ兵士長に流されちゃうのか・・・こんな人、嫌いなはずなのに)

そう、リヴァイはなまえが最も苦手とするようなタイプの男性なのに、何故いつもこうなってしまうんだろう。

(・・・この人だってきっと、私みたいな女は嫌いなはずなのに)

リヴァイはどうやら周囲の話によると女に不自由している訳ではないようなのに、わざわざよりによって一番性格の合わなさそうな自分にこうしていつも迫ってくるのは一体何故なんだろう。
なまえは以前彼に「俺たち体の相性は最高だろ?」と言い放たれた事を思い出してますます気分が滅入った。

「――――はぁ、、なまえ・・・」

唇を離したリヴァイは彼女の名を呼び、その身体をぎゅっと抱きしめる。
――――まるでそれは、とても愛しいものを抱きしめるかのようで。
なまえの心は何か言い知れぬ気持ちでいっぱいになって、ヒリヒリとした。

(・・・快楽が目的なら、こんな風に優しくしないでほしい――――)

いま彼女の胸がヒリヒリと痛むのが一体何故なのか、なまえは分からなかった。

リヴァイは細い指を彼女の下肢へと伸ばしていく。
肌に手を滑らされていくその感触になまえがぞくぞくとしてしまったのは、きっと仕方のない事なのだろう。

「触らなくていいくらいだな」

びく、と身体は反応してしまう。
ぬるりとした手触りでリヴァイにニヤリと笑われ、なまえは更に赤面した。
そう、結局自分も彼を求めているには違いないのだ。

普段は粗暴そのもののリヴァイは、驚くほどやさしく彼女の敏感な部分に触れる。
慣れた風に「ここがいいんだろ?」と言いながらなまえの敏感な部分を丁寧に刺激するので、彼女はますます身体を甘く震わせ、声を上げた。

「・・・・・・、、」

リヴァイもまた甘く身体を震わせながら、なまえの中へ自身を挿れる。
ゆっくり動けば2人からは甘い吐息が漏れた。
痺れるような快楽に、なまえはただ身を委ねる。
薄目を開ければ同じものを感じているらしいリヴァイの切なげな顔がすぐそこにあり、彼女の胸は更に甘く痺れた。

「?!」

急にぐるりと景色が回る。
リヴァイがなまえの身体を起こすとそのまま彼が横になったので、彼女は驚きのままに目を見開いた。

「おい、なまえ・・・分かっているかと思うが俺は今怪我をしている」

唐突に話し出した彼が何を言いたいのかがすぐに分かったので、無理です絶対に!となまえは激しく首を振った。

「オイオイ・・・お前、怪我人に無理をさせて酷くなったらどう責任を取ってくれるつもりなんだ?てめぇが気持ちイイように動きゃいいんだ。やってみろよ、ほら」

言葉とは裏腹に、彼の表情は戸惑う程柔らかい。
リヴァイはなまえの腰に手を添えて、ゆっくり前後に動かす。
彼女自身が擦れる感じがして確かに“気持ちイイ”。
それでも彼女は頑なに首を振った。

「無理です、そんな恥ずかしい事できません、、」

しおらしく断られても、リヴァイは聞き入れない。
ほら、こうやるんだ、と引き続き彼女の腰を前後に動かしてやれば、なまえからは甘い息が漏れた。

「どうだ?なまえ。気持ちイイだろ?」
「、、ん、はぁ・・・、、き、気持ち、いい、です・・・、」

最初は抵抗していたものの、観念したように少しずつ、ぎこちなくなまえは自分で腰を動かしていく。
羞恥と快楽に戸惑う彼女の表情を、リヴァイは満足気に眺めていた。
遠慮がちな彼女の腰振りはいつものような刺激的な快楽をもたらすものではなかったが、恥ずかしさを滲ませながらも自分に奉仕するなまえの姿は彼の支配欲を十分に満たすものだったからだ。

「気分がいい景色だ・・・なぁなまえ、もっとイイ顔を見せてくれよ」
「!!や、み、見ないでください、、!」

反射的に顔を覆おうとした彼女の腕をリヴァイは掴んで、それを許さない。
代わりに下から強く突き上げれば、なまえは大きく甘い声を上げた。
突き上げられる度に彼女の胸が上下に揺れる。
なまえが女性特有の柔らかなシルエットをしならせる姿をまじまじと見上げ、リヴァイは満足気に口の端を上げた。
そしてもっと、彼女を鳴かせたくなる。

名残惜しいが・・・、とリヴァイは徐に上体を起こすと、戸惑うなまえを横にして、再びその腰を深く彼女へ挿し入れた。




翌日、リヴァイが件の書類をなまえの部屋へ持ち込んだのは昼過ぎのことだった。
言葉も発さずツカツカと彼女の立派なデスクの前へと進むと、バサ、と書類を(彼女が感じるには大層)不躾に、置く。
提出期限を守らなかった癖に彼が不服そうな顔をして自分を見下ろしてくるので、なまえもまたムッとして彼を睨み返した。
それでも彼女は言葉を発さなかったのだが、リヴァイはやはり不服そうに口を開いた。

「オイ、クソ守銭奴・・・大体だ・・・てめぇがいねぇ日に提出期限を決めるヤツがおかしい、そうは思わねぇか?提出先の人間がいる日に出しゃそれでいいじゃねぇか」
「・・・私は自分が朝執務室に来たその時から仕事を始めたいんです。だから前日までに必要書類が集まっている状態にしておきたかったのですが、それのどこに問題が?そもそもそう仰るあなたがこの書類をお持ち下さったのが朝なら理解もできますが、今は既にお昼を過ぎています」

そう言ったなまえにリヴァイは聞こえるよう大きく舌打ちをしたので、彼女は更に分かりやすく不快感を表し、もう結構ですのでお引き取りくださいと続けた。
リヴァイは一層その眉間の皺を深くしてなまえを睨み付けると、先程部屋へ入って来た時と同じようにツカツカとドアへと歩いて行く。
ドアノブに手を掛けると彼が、そういえば、と再度口を開いた。

「昨日お前の部屋から1枚下着が失くなってるはずだ。その書類に挟んで返しておいてやったからせいぜいよく見て探すといい」
「は?!?!!?」

なまえは目を見開き思わず席を立つ。
考えてみればそんな事ある訳ないのだが。

「なまえよ、この世にはお前をからかう事ほど愉快な事はないな」

立派な椅子に腰掛ける部屋の主を立ち上がらせた事にご満悦らしい。
フン、といやらしく笑うと、リヴァイはドアを開け、部屋を出て行った。
立ち尽くしたままのなまえは未だ赤くなったままの顔で物も言えず、怒りのやり場を失っている。
一瞬の間を置いて再び、ふいに、ドアが開けられた。
当然覗くのは、なまえが今この世で1番見たくない顔だ。
ちょうどその憎たらしい表情が覗くだけの隙間を開けて、何故か勝ち誇った表情のリヴァイが、付け足しにしては前から用意していたかのように再び口を開く。

「昨夜のお前の“仕事ぶり”はなかなか良かったぜ・・・さすが中央のエリートは一味違う。・・・なぁ、なまえ」

らしくなくますますカッとなったなまえは、思わず手元にあった卓上用の羽はたきをドアへ向かって投げた(もちろん彼女の広い執務室で届く訳がない)。
リヴァイは羽はたきが床へ落ちたのを得意気に見届けると、見たこともないような満面の笑みで、再びそのドアを閉めるのだった。


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