兵長と守銭奴/8


リヴァイは一瞬でガチャリとドアの鍵を回すと、それぞれの腕でなまえの腕を掴み、ドアに張り付けた。
うすく不安を映した彼女の瞳になど構わず、リヴァイはなまえにキスを迫る。
当然彼女は首を捻りそれを避けようとしたので、力強さの欠片もないなまえの身体に自身の身体を押しつけるようにして、リヴァイは彼女の耳に吸い付いた。
軽く音を立て少しずつ場所を変えながら、リヴァイはなまえの耳へ次々と口づける。
次第にそれには彼の舌も加わって、彼女の耳をなぞるようになった。
それがまた両腕を拘束して及んでいるのにも関わらず、荒々しいというよりは情熱的なものであるように感じられて、なまえは逆に戸惑った。
そんな風にされると、今こんなにも彼に嫌悪を感じているというのに、悲しいかなそれに、なまえの身体はぞくぞくと反応してしまう。
それに分かっていてか、リヴァイは耳から首筋へと、その対象を広げていった。
拒もうとする彼女から吐息が漏れ始めるのに、時間はかからなかった。

「――――は・・・っ、や、・・・めて、ください」

浴びせられる誘惑に頭をクラクラとさせながらも途切れ途切れに、それでも何とか、こんなところで一体何を考えてるんですか、と苦しそうになまえは訴えた。
リヴァイは何も答えない。
代わりに、言葉を話そうと開いた彼女の唇に、食い付くようにキスをした。
今度はなまえも、避けられなかった。
しっかりと唇を塞ぎ彼女の口の中へ侵入したリヴァイの舌は無遠慮に動き回る。
歯列をなぞり上顎を執拗に刺激してやると、とうとうなまえの口からは甘い声が漏れ始め、リヴァイに抑えつけられていた腕からも、固くしていた身体からも、力が抜けていった。
彼女の抵抗を物ともせず自分の思うまま舌を絡めて吸い、とうとう屈伏したらしい彼女に、リヴァイに突然沸いたなまえに対する歪な支配欲は、幾分か和らいだようにも思えた。
けれどリヴァイは、思うまま走らせ始めた衝動を止めようとはしない。
思う存分好き勝手した彼女の唇を解放すると、今度は貪るようになまえの細い首に再度口づけ、更に彼女の身体を甘く震わせた。
リヴァイは抵抗を諦めたらしいなまえの腕を解放すると、だらりと彼女の腕が落ちるより速く、その身体を持ち上げた。
驚いたなまえは思わずあっ、と声を出したが、身動ぐ前に先ほどまで彼女が掛けていたソファに下ろされると、リヴァイはそのまま彼女の膝を割り、なまえに覆い被さった。

「やっ・・・やめて、ください!」

リヴァイは彼女の耳の後ろへ唇を押し付けながらパンツに差し入れていたなまえのブラウスを引き上げだしたので、リヴァイはいよいよ行為に及ぶつもりなのだと、彼女は息を吹き返したように再度抵抗を始めた。

「やめて、下さい・・・!本、当に、無理です!!」

そもそもなまえはリヴァイにいい様にされて抵抗ができなくなっていただけで彼の行為を受け入れた訳ではなかったし、就業時間中、しかも、こんな明るい場所でそういった行為をするのは、どうしても耐え難いことだった。
なまえが自由になった両手で彼の手を止めようと必死に抑えもがくので、いつも綺麗に整えられている彼女の髪は思いきり乱れている。
逆に彼女の手を振り切ろうとしながら、リヴァイは舌を打った。

「おい守銭奴・・・たまには素面で大人しく抱かれてみろ」
「わ、訳の分からないことを言わないでください!大体あなたは、仕事中にこんなことをしていいと思って―――――」

必死になまえがそう叫ぼうとした時、なまえの口はリヴァイの手で塞がれた。
その手に抵抗しようともがもがと口を動かす彼女に、彼は静かにしろ、と小声を落とす。
そして不意に部屋に響いたノック音で、なまえはリヴァイの言う通り、全く静かになって、棒のように硬直した。

「リヴァイ兵長、エルドです――――あれ?」

3回のノック音の後、名乗った声は不思議そうにノブをガチャガチャと回す。
動かないノブは、まだ彼を納得させない。

「さっき部屋に戻ってきたと思ったのに」

リヴァイは彼がこの部屋に近付いてくる気配を察知していたのだろうか。
彼女の口を塞いだ割には余裕の表情で、なまえを見下ろしている。

「・・・良かったらこの状況を見てもらうか?」

そう言って鳴らした鼻になまえはぶんぶんと首を振ったので、リヴァイはニヤリと笑うと、彼女の唇を押し付けていた自身の手を外し、今度は彼の唇でなまえの口を塞いだ。

「、・・・ん・・・、」

兵長?と外からはまだ諦めない彼の部下らしい男の声が聞こえてくる。
扉一枚を隔ててこんなこと、と不安に思う自分の気持ちとは裏腹に、自分に向けられる熱を帯びたリヴァイのキスに、なまえの身体は甘く震えていた。

―――――ああ、本当に駄目だ、私って―――――

彼を拒まなくてはいけないことなんて、分かっているのに。
ここは自分の赴任先である調査兵団で、そこのNo.2である兵士長の執務室で、就業時間中に、しかも部屋の外にいる彼の部下の目を欺いて、立場あるその部屋の主とこんな行為に及んでいる。
きっとさっきまでいたエルヴィンの部屋では、まだ彼とルートヴィヒが仕事の話をしているのだろう。
一体自分は何て常識が無く、だらしなくて、ひどい女なんだろう。いや、女というより、公の立場にある人間として―――――

小さく耳に届く足音によると、やっと諦めたらしい扉の外の男は、この部屋から遠ざかっていったようだった。
唇を解放されると、ひどい自己嫌悪に苛まれていたなまえは顔を両手で覆い、暗くなった視界の中で更に自分を責める。
けれどそれはすぐに、明るくなってしまった。
目を開けると、自分の手を取っているリヴァイと目が合う。
それはさっきと違ってちっとも意地の悪い顔をしていなかったので、なまえはひどく戸惑い、不服を訴えることも、抵抗をすることも、できなかった。


「―――――なまえ。お前は今、俺だけを見てりゃいいんだ」


――――何故だろう。
なまえは一切の動きを止めたまま、まともに彼を見ることができない。
それでもリヴァイはじっと彼女を見つめている。
しばらくの沈黙の後、この気まずい沈黙を何とかしなければ、となまえは至極動かし辛そうに、口を開いた。

「・・・い・・・、意味が、よく――――分かりません」

リヴァイは呆れたように、そのくせ、とても柔らかく、笑った。
それがずるいと、なまえは思う。

「―――――お前は本当に頭の悪い女だ」

そう言って再び降りてきた彼の唇に、なまえはリヴァイから催眠術か何かをかけられたかのように、静かに、瞳を閉じた。


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