兵長と守銭奴/4*parallel


▼兵長と守銭奴/4のエスコートがエルヴィンでなくリヴァイだったら…というキワモノ話です…!


なまえはとても気の進まない顔で自室の大きな鏡をじっと見つめていた。
映る自分の姿はそれなりに着飾って、パーティという華やかな場所に出ても恥ずかしくはない格好をしていると思う。
その場にふさわしく華やかで、でも上品なドレス。
胸元にはいつもしている小さな石とは違い、少しだけ派手なネックレスをした。
その飾りを指でなぞりながら、時計を確認する。
あと一つ針が動けば、彼が迎えに来るだろう。
ため息をついたと同時に針は約束の17時を差す。
ドアベルが鳴った。

「・・・今日は素直にドアを開けたな」

挨拶すらせずに早速悪態をつく覗いた顔に、なまえは早速気が滅入った。

「・・・わざわざお迎えありがとうございます。リヴァイ兵士長」

彼の言葉は、たまに彼女をこのアパートまで送るようになった彼が、なかなか自分を部屋に上げ“もてなし”てもらえないことへの不満を表しているらしかった。
取り合うつもりのないらしい彼女は、さっさと部屋を出て鍵を掛ける。
部屋の中を彼に見られることさえも抵抗があるらしい。

いつもと違う髪型、いつもと違う服装、いつもと違う雰囲気。
戸締まりを終えたドアの前で改めてリヴァイの姿を見た時、なまえは妙に改まった気分になった。
彼の着ている外套はきっとオーダーメイドで作られたものなのだろう。
小柄でもがっしりとしている特殊な彼の体型にもピッタリと合って、とても見栄えが良い。
やがて彼と目が合うと、二人はほんの少し、見つめ合う。
リヴァイは片腕を軽く曲げると、彼女に差し出した。

「・・・・・・・・・」

彼女が素直にその腕に手を添えられないのは仕方ないことだ。
その仕草はお世辞にもエレガントとは言えない。
むしろいつもの彼の態度の通り、ぶっきらぼうだ。
それでも女性をエスコートしようとするその仕草に、なまえは不思議な戸惑いを覚えた。
リヴァイの顔色を窺い見ると、彼はいつも通りの仏頂面で彼女をじっと見つめている。
少しの間の後彼女がゆっくりとその手を彼の腕に添えると、リヴァイは黙ったまま、歩き出した。



本部の中に独立して建てられている、こうしたパーティなどに使うための大広間には、ちらほらとゲスト達が姿を現し始めていた。
決して華やかではないが、堂々たるその佇まいは荘厳で、美しくも感じられる。
良くも悪くも自分の仕事に関わることでなければ関知しない主義の彼女はもちろんこの建物を見るのは初めてのことだ。
まじまじと建物を見つめながら出迎えを受けると、なまえはリヴァイにエスコートされている自分を他人に見られることがどうにも気恥ずかしくなり、途端に足下しか見られなくなってしまった。
ロビーに入りクロークへ辿り着くと、リヴァイもなまえも羽織っていた上着を預けた。
パートナーがドレスアップした姿をようやく見た彼らは、図らずも、お互いをまじまじと見つめた。

正直なまえはリヴァイの正装なんて想像ができなかった。
あんなにも粗暴で礼儀知らずな男が、それにふさわしい正装が板に付くものだろうかと。
どうやら彼女の予想は外れていたらしい。
リヴァイの正装は、外套を着込んでいたときと同じく、彼にとても良く似合い、様になっていた。
ショールカラーが質の良さを証明するように上品な艶を出し、真っ白な立て襟には黒タイが行儀良くなされている。
タキシードと同じ、見るからに良い生地でしつらえられた側章のついたスリムなスラックスも、彼のスタイルを良く見せていた。
なまえは思わず彼の足下から頭の先までをじろじろと見てしまっていたようだが、目の前の人間も同じであったらしい。

「・・・何ですか」
「・・・別に」

それは何とも妙な間だったはずだ。
目が合いいつもの調子で言葉を交わした時、二人の間に流れたいつもとは違う雰囲気が彼女をそうさせたのかもしれない。
クロークに背を向けようとした彼女は、久しぶりに履いたパーティ用の靴のヒールのせいか、体勢を僅かにカクッと崩した。

「――――!」
「――――おっと」

今日は露出されているその華奢な肩を後ろから何者かに支えられたなまえは、慌てて振り返る。
見上げると、やはりいつもと違い正装をした今日のホスト―――エルヴィンが、穏やかに微笑んでいた。

「大丈夫か?なまえ」
「す・・・すみません」

やはり体格の良いエルヴィンが正装をすると、普段から彼が漂わせている品ある雰囲気や貫禄が更に増して、何とも格好良く見えてしまう。
顔を赤らめ急ぎ体勢を直すと、なまえはエルヴィンに会釈をした。

「いや。今日は幸先がいいな、こんな美人にぶつかるなんて――――とても綺麗だ」

エルヴィンがそう言い笑ったので、リヴァイは呆れ顔を浮かべた。

「おい、エルヴィン。守銭奴にゴマをすったところでウチに利することなどない・・・下らねぇ機嫌取りは損するだけだ」
「何言ってるんだ、リヴァイ。お前だって今、彼女に見とれてたんじゃないのか?」
「フン・・・オレと物好きなお前を一緒にするな」

なまえは自分について語られる彼らの真逆の言葉にどんな顔をしたらいいのか分からない。
やがてエルヴィンが「今日はよろしく」と言ってこれまたエレガントに手を差し出してきたので、彼のにこやかな顔に押されるように、なまえは握手を交わした。


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