兵長と守銭奴と怪しいジュース




ハンジの研究室近くで偶然彼女に捕まってしまったリヴァイは、半ば引きずられるようにして彼女の部屋へ招き入れられていた。
間近に控えた壁外調査の件で確かに彼女と話さなければいけないことはあるのだけれど、できれば立ち話とか他の兵士もいる会議だとかの、早めに解放してもらえるようなシチュエーションで話をしたかった。
彼女はいまモブリットに経過を見させていた実験で問題が発生したとかで、「少し待っていて」とリヴァイを4人掛けのミーティング用のテーブルに座らせて彼をしばらく待たせていた。
リヴァイは隙あらばこの部屋から抜け出そうとパーテーションの向こうでバタバタと動くハンジとその部下たちの様子を窺っていた。

不意に研究室のドアがノックされる。
リヴァイはしめた、と思った。
他の客が来れば自分もこの部屋から抜けやすくなる。
バタバタしているハンジたちはそのノックに気付いていないようだったので、リヴァイは席を立ちドアを開けた。

「!」

無言だったものの、覗いた顔に、訪問者も、迎えたリヴァイも少しだけ目を見開いた。
お互い現れた顔に驚いたに違いない。

「・・・なぜ、あなたがこちらにいらっしゃるのですか」

意外な訪問者は明らかに現れたその顔に身構えた後、少し眉間に皺を寄せて静かに言った。

「守銭奴様にこんなところで会うとはな」

リヴァイは鋭い目を意地悪く細めると、彼女を部屋に入るように促した。

「ハンジ分隊長に伺いたいことがあって来ました。・・・ハンジ分隊長は」
「手が離せねぇんだとよ・・・クソメガネの長話をわざわざ自分から聞きに来るなんざ物好きなヤツもいるもんだ」

彼の言葉にため息をつくとなまえは手にした書類を胸に持ち直し、躊躇いながら部屋の中へ入った。

「あぁ!なまえ。ごめん、今少し手が離せないんだ・・・悪いんだけどもうすぐ手が空くから、少しそこに掛けて待っててくれるかい?」

戸口に立っていたリヴァイに気付いたハンジが、リヴァイの後ろからなまえを出迎えた。
彼女をそちらへ促すようにリヴァイが座っていたテーブルの方へ手をやる。

「忙しそうだからオレは戻るぞ、クソメガネ。オレも忙しいんだ」
「なまえの話はキミの話とも関係があるんだ、ちょうど良かった!だからちゃんと待っててよ、リヴァイ」

なまえと目を合わせたリヴァイはチッと舌打ちをした。
どうやら彼はなまえを生贄に自分はこの部屋から抜けるつもりだったらしい。
ハンジは二人がテーブルの方へ気の進まない様子で向かうのを確認してから、慌ただしくしている部下たちの方へ向かった。
尤も、気の進まない理由はリヴァイとなまえでは大きく違う。
リヴァイはハンジの研究室から逃げるチャンスを逃してしまったことが理由で、なまえはリヴァイと同じテーブルに掛けていなければいけないというのが理由だった。

渋々再び座っていた椅子に腰掛けたリヴァイは「自分の隣の椅子に座れ」という風になまえに顎で合図をした。
その偉そうな態度にムッとしつつ、なまえは4人掛けのテーブルのリヴァイの隣の椅子を置かれていた距離の倍くらい彼から離して座り、自分の持参した資料を再度確認するように目を通し始めた。
そうすればリヴァイと話をしなくて済む。

「悪いね、なまえ。これ飲んでてよ。特製の健康ジュースだからね」

ハンジは駆け足で研究スペースから濃い緑色の液体の入ったコップを持ってきた。

「自信作。効くよ!」

普通、ジュースを勧める時には「おいしいよ」とか「絞りたてだよ」とかの飲んだ時の味を想像させるような言葉で紹介をするのではないだろうか。
“効くよ”という言葉になまえは首を傾げたが、ハンジは急いであたふたと動き回る部下たちの方へ戻っていった。
よく見てみると、リヴァイの前にも同じジュースと見られる液体の入ったコップが置かれている。
なまえは彼の意見を伺うようにリヴァイの顔を見た。

「・・・すごい色ですね」
「・・・あぁ」

どれくらいリヴァイがここにいるかは知らないが、コップを見る限り彼がそれに口を付けていないことは明白だった。

「クソ眼鏡が言うには、健康にいいらしいぜ。飲んでみたらどうだ」
「・・・あなたは飲まれたことがあるんですか」

ある、と言ったきりリヴァイは黙ったので、なまえはそれに手を付けないことにした。
持っていた資料に再び目を落とそうとしたとき、不意に横から顎を掴まれた。

「!!!!?」

んんっ、となまえは目をぎょっと見開き苦しそうに驚きの声を上げた。
強引に唇を奪われたリヴァイの口から液体がすぅっと勢いよく流れ込んできて、何ともいえない鋭い刺激を問答無用で口の中へ与えられる。
今まで全く味わったことのない味、というか、感覚だ。
ジュースの驚くべき刺激とリヴァイの行動を嫌がり口を離そうと彼女は抵抗するが、リヴァイは片手をなまえの腰に回して捕まえていたので離れない。
なまえはリヴァイに無理矢理ハンジの怪しげな健康ジュースを飲まされながら、パーテーションがあるとはいえハンジやその部下にこれを見られてしまうのではないかと間近にあるリヴァイの顔とハンジたちのいる方を交互に、目を白黒とさせながら見た。
普段は憎たらしい程にクールな彼女があたふたと動揺しているのを、そして何人もの兵士が右往左往しているこの部屋で頼りない壁一枚を隔ててなまえをしっかりと抱き寄せ(曲がりなりにも)キスをしているこの状況を、リヴァイは楽しんでいた。
ごくり、と彼女の喉が動いたとき、それを確認したようにリヴァイは彼女の唇と体を解放した。

「どうだ・・・うまいか?オレの口には合わんがな」

なまえは顔を真っ赤にしてげほげほとむせながら苦しげに腰を曲げた。
「お待たせ〜」とハンジの暢気な声がパーテーションの向こうから聞こえて、足音が近付いてくる。

「?どうかしたの、なまえ」
「・・・い、いえ・・・何でも、ないんです・・・」

顔と一緒に真っ赤にした涙目で激しくむせたまま、なまえはハンジに苦しそうに答えた。

「さっさと終わらせろよ、オレは忙しいんだ」

リヴァイは頬杖をついてやっと現れたハンジとは正反対のドアの方を眺めると、ニヤリと笑った。
この後隣でむせているこの女をどこかに連れ込んでやろうかと考えながら、リヴァイは口の中に残るハンジの激しいジュースが早くなくなるよう口の中を舐め回した。

「あれっ、初めてじゃない。キミが私の健康ジュースに口をつけるなんて」
「あぁ。てめぇの作った得体の知れねぇ気持ち悪い飲み物でも、多少うまく感じる飲み方を思いついたんだ」
「・・・!!!」

なまえは唖然とした。
さっき彼は飲んだことが「ある」と答えたではないか。

半分程残っているリヴァイのコップをニコニコと眺めながら、ハンジは「さぁ始めようか」と持ち出してきた資料を机に揃えながら言った。


おわり
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