兵長と守銭奴/3



「・・・そう、ですか」

何となく落ち着かず、彼女はリヴァイから目を反らした。
ガランとした暗い事務室に自分と彼の二人だけがいることが、急に意識される。

「クソ守銭奴の憎たらしいツラをまた拝めただけでもありがたいもんだ」

そしていつも通りの悪態をついたリヴァイに少し安心したようにため息をつき、そのままなまえはしゃがみこむと、再び床をきょろきょろと見渡し始めた。

「・・・何してる」
「・・・昼間こちらで打ち合わせしていた時に、たぶん落し物をしたんです」
「ほっとけよ、そんなもん明日でいいだろうが」
「大切な物なんです。家に代々伝わる、小さなネックレスで・・・明日の朝掃除でもされれば知らずに捨てられてしまうかもしれないので」
「・・・・・・それは、これか?」

なまえが驚き顔を上げると、リヴァイが足元から手に小さな光る物を拾い上げるところだった。
急いで彼の手元に近付く。
華奢な細いゴールドのチェーンに、小さく光る石。

「そ・・・それです!ありがとうございます・・・!」

彼女がそれを手に取ろうとすると、リヴァイは手品でもするように、ネックレスをパッとその手の中に握り締めた。

「誰がお前にやると言った?」
「・・・は?」
「これが欲しければ―――――」

握り締めた拳を、不敵にニヤリと笑う顔の横にやる。

「・・・・・・!」

その彼の意地悪い笑みを見て、なまえは彼の意図するところが分かり、顔を赤面させて怒りの表情を浮かべた。
リヴァイは身に着けていたマントを外し、側にあった事務机にそれを置いた。

「過酷な壁外から帰ってきたんだ。労ってくれてもいいだろう・・・?」
「・・・あ、あなたって・・・本当に最低な人ですね!一体何を―――――」

彼に軽蔑の言葉を投げてやろうとした時、はっとした表情のリヴァイに人差し指を自分の唇に押し付けられ、なまえは言葉を失った。

(静かにしろ)

リヴァイは小声でそう言うと、廊下に面した窓の方を見た。
足音と一緒に、人影が近付いて来る。
窓にはカーテンが引かれているし事務室の方が外よりも暗いから、灯りが机の下に隠してある今は外からこちらはよっぽど見えないだろうが。
唇にリヴァイの人差し指を押し付けられたままのなまえは、ゴクリと唾を飲みそちらを注視した。
その人影は、次第に事務室のドアに近付いて来る。
そして、ドアから死角になる彼らの視界から姿を消すと、その足音が止まった。
リヴァイはなまえの手をすばやく引き床に机の影に隠れるようにしゃがみ込むと、先程彼女が事務机の下に隠したランプを脇に寄せ自分のマントをかぶせるようにした。

ガチャリ、と音がした。
事務室のドアが確かに開かれた。
なまえは息を潜めようとするが、緊張のあまり呼吸が荒い。

「・・・あれ、声が聞こえた気がしたが」

ドアの方から、年配の男の声が聞こえてきた。
恐らく事務室の中を見渡しているのだろう。
ドアが閉じられる音はまだ聞こえない。

(――――お願い、どうか早く行って・・・!)

ペタリと座り込んでいる石造りの床の冷たさが、極度の緊張で熱くなっている体にじんわりと伝わってくる。
どうか、死角になっているこのミーティングテーブルまで彼が覗きに来ませんように。
死角になっている分ここまで彼が様子を見に来れば逃げ場がない。
彼が早くドアを閉じてどこかへ行ってくれますように。
彼女の必死の願いも空しく、再び彼の声が聞こえてきた。

「―――――おお、お疲れ」

どうやらドアを開けたままの状態で、彼の知り合いの兵士がやってきたらしい。
彼らはそのまま話し出す。

“まだ残ってたのか”
“ひどいもんだ、今回も”

何故いまこんなところでどこでもいつでも話せるような会話を始めるのだ、となまえは泣きたい気分になった。

(早く行って、お願いだから中に入ってこないで―――――)

なまえは激しく脈打つ心臓に身を壊されそうになりながらそう強く願ったが、ふいにまた自分の唇にリヴァイの指が押し付けられたので、別の意味で心臓を跳ね上げ彼を見る。

「・・・・・・・・・」

彼女と二人身を寄せて息を潜めていたリヴァイは、事務室の入り口の様子を必死に窺うなまえをじっと見つめていた。
今ははっとして自分を見つめている彼女の唇に押し付けた人差し指を、ゆっくりと右へとなぞらせる。
端までなぞったら、次はまたゆっくりと左へ。
なまえはその感触に、ゾクゾクと小さく肩を動かした。

(あ・・・)

彼の熱っぽく自分を見つめる表情と、その指の動きに悲しい程にゾクゾクとさせられる。

(まただ・・・)

リヴァイはなまえの唇の左端までをなぞりきると、また彼女の唇の真ん中へと、ゆっくりとその指を滑らせた。
すると、彼女の唇の真ん中で、上唇を少し押し上げるように、指を動かす。
なまえは無抵抗に、ほんの少しだけ唇を開けた。
彼の細い指が少しだけ、戸惑う彼女の唇の中へ入ってくる。
ニヤリとしたり顔で笑うと指を離し、リヴァイはそのまま彼女の唇を奪った。

“まぁ生き残れただけでもありがたいもんさ”
“そうは言ってもねぇ、家族に毎回泣かれちゃかなわんよ”

身を潜めていなければいけない今は、どうしても声を上げて抵抗するわけにもいかない。
リヴァイになされるがまま、彼女は早く打つ心臓の痛みに耐えながら、彼のキスを受け入れていた。
二人の兵士の会話が聞こえる中、二人は静かな事務室の隅に小さな吐息を立てる。
巧みに絡められるリヴァイの舌に甘い痺れを感じながら、なまえは心底彼が憎たらしく思えた。

(何でいつもこうなっちゃうんだろう・・・)

彼のことなんて好きではないし、どちらかというと嫌いなのに(恐らく彼だってそうだろう)。
それに、自分はこうしたことに対して積極的という訳でもない。
それなのにいつも彼に向けられる熱と誘惑に負けてしまう。
ふと、前に彼に言われた「体の相性は・・・」という言葉が頭に蘇る。
なまえは諦めたように、その目を閉じた。

いつもは彼女が“触れて欲しい”とおねだりをするギリギリまで体に触れないリヴァイだが、今日は違った。
なまえの唇を味わいながら、彼女の腰に回していた片手を腰から胸へとゆっくりと上げていく。
彼女は彼がこれからその手をどこにやろうとしているかが分かったので、余計に身を硬くし、首を振った。
リヴァイは彼女から少し顔を離しその狼狽した顔をしげしげと見つめると、意に介さない風にニヤリと笑った。
もう一度唇を重ねなまえの唇を食むようにしながら、緊張で大きく呼吸している彼女の胸を手で包む。
服の上から胸を揉まれ、彼女はその甘い刺激に顔を歪めた。

“前回よりも犠牲者が増えたんじゃないか?”
“ああ、そのようだ”

ようやくバタン、とドアが閉められた。
それでもドアの外からは彼らの声が聞こえてくる。
リヴァイは変わりなく彼女の胸を揉み続け、たまにその先端を引っかくように刺激しながら、なまえの舌を吸い、歯列をなぞり、上あごをなぞり。
ひとまず大きく安堵したなまえの目には、快感と緊張からのほんの少しの解放とで、うっすらと涙が浮かんでいた。
キスをしたまま彼に手を引かれ、今度は事務机を背に立ち上がらされる。
またドアが開かれたらどうしようかと思いながらも、なまえはリヴァイに促されるがままに事務机に体を預けた。
彼は彼女の華奢な腰にもう片方の腕を回し、自分の体にもう既に硬くなっている彼自身を擦り付けるようにしたので、なまえは頭に血が上ったように熱っぽくなり、心臓はますます激しく脈打った。
声が漏れないようにしなくてはと思っていたのに、彼から与えられる刺激に彼女は思わず、「んっ」と小さく声を漏らす。

(声を出すな・・・気付かれてもいいのか・・・?)

耳元でリヴァイに吐息を掛けられるようにそう言われ、なまえはますます背筋をゾクゾクとさせられた。
服の上から彼女の胸の先端に甘美な刺激を与えながら、再び彼はなまえに濃厚なキスを浴びせる。
なまえは事務机に置いている自分の手を小さく震わせていた。
彼女に浴びせられているその快感に耐えかねているのだろう。
リヴァイは彼女の胸に触れていた手で彼女のブラウスの腰の辺りを引っ張り上げた。
そしてその下に手を入れ、片方の手で彼女の襟元のボタンに手を掛ける。
なまえは彼の手が直に自分の腹に触れた官職に驚き目を見開いて咄嗟にその手を止めようとしたが、リヴァイはその力ない手をもろともせず、ボタンを外していく。

“うちの班は1人の犠牲で済んだが・・・次はどうかも分からんね”
“うちは班長ともう1人が・・・全く浮かばれないよ”

彼女は甘い刺激に痺れながらも外の声に必死に耳を傾け、もしここでリヴァイとこうしていることが見付かってしまったらどうしようかと冷や汗を垂らしていた。
赴任先の事務室に夜に忍び込んだどころか、男との痴態を見られては財務官としての立場がない。
リヴァイはとっくに自分のブラウスのボタンを全て外し、下着に手を掛けているところだった。
不安げな顔で、なまえは小さく顔を横に振りリヴァイに「もうやめて」と訴える。

(やめろって顔には見えねぇよ)

小声でそう言うと、彼はためらうこともなくそのまま彼女の下着を上にずらし、露になったその胸に舌を這わせた。

「・・・っ・・・!」

“エルヴィン団長を信じてはいるんだけどね”
“もう少し間を空けてくれたらまだ―――――”

外の二人はまだ話をしている。
自分の声が漏れないように。
決して気付かれてはいけない。
その不安と緊張が、リヴァイに与えられる刺激をますます敏感に感じさせているのかもしれない。

「っ、っ、・・・!!!」

なまえは快感に身を小さく震わせながら、両手で顔を覆っていた。
リヴァイは満足気に、彼女の腰に回していた手で彼女の淡いベージュのパンツのホックを外し、ファスナーを下ろすとそれをずり下げ、するすると彼女の下半身へ手を伸ばす。
彼女はやはりそれに抵抗するように彼の手を掴んだが、ひょっとしたら抵抗の意思よりも快楽に身を任せたい衝動の方が勝っていたのかもしれない。
いとも簡単に、彼の手の侵入を許してしまった。
内ももにさわりと触れられ、彼女はまた小さく身をびくりとさせる。
リヴァイが意図的に「そこ」に触れてこないのは明白だった。
彼女を誘惑するように、その内ももに触れる手をゆっくりと腰まで上下させる。
乱れた息が事務室に響いていた。

(・・・どうしてほしい?)

胸から顔を離したリヴァイが舌で自分の唇を舐めながら挑発的にそう囁いたので、なまえは拳で自分の口を押さえたまま、涙がうっすら浮かんでいる瞳を大きく揺らした。
そんなこと言われたって、となまえは思った。
だって、触れて欲しくてたまらないけれど、こんな場所でそんなことを言えるはずもないし、するわけにもいかない。
真っ赤になった顔で彼女が困惑するのを楽しむ風にリヴァイは小さく笑うと、中腰だった背を伸ばしなまえに再びキスをした。

(分かった。お前の好きなようにしてやるよ)

キスの合間に、彼は囁く。
そして、彼の手はなまえのそこへと滑り込んでいった。








「良かったな、ヤツらが早々にあの場を去って。あのままドアの前にいられたらバレてただろうな。お前の喘ぎ声で」

本部からの帰り道、リヴァイがずけずけとそう言ったので、激しい自己嫌悪にさいなまれていたなまえは顔を真っ赤にして睨んだ。

「もう、本当にあなたって最低です!」
「何を言ってる、したくなければ拒めばいいだろう――――まぁ尤も、オレは全く隠れる必要なんてなかったんだがな」
「・・・!!!!!!」

そうだ、何故あの時それに気付かなかったのだろう。
兵士がドアを開けた時にリヴァイだけ彼に顔を見せてその場をやりすごしてくれれば、何の苦労もなかったはずだ。

「あ、あ、あ、あなた、わざとあの時隠れて――――――!!!」
「さぁ?」

彼は悪びれもせず彼女に言った。

「大体あなたが、――――――あっ、そうです!返してください、私のネックレス!」

大切なことを忘れていた。
彼女はそのネックレスを探す為に、危険を冒して事務室に忍び込んだのだ。
リヴァイは立ち止まり、バレたか、とでも言いたげにチッと舌打ちをすると、パンツのポケットから彼女のネックレスを取り出した。

「両手を出せ」

彼がそう言ったので、なまえは怪訝な顔をしながらも両手を差し出す。
リヴァイは彼女の手の下に自分の片手を添えるようにして、ネックレスを彼女の両手にゆっくりと落としながら、そのまま彼女の両手を上から挟むように握った。

「・・・・・・?」

握られた手を見つめていたなまえがその間を不思議に思い、彼の顔を見上げると―――――――

ちゅ、と音を立て、リヴァイがキスをした。

「!!!!!?」

「今夜もドウモごちそうさま......

鼻がくっつきそうな距離のままいつものように意地悪く笑うと、顔を真っ赤にして立ちすくむなまえを尻目に、リヴァイは再び歩き出した。



おわり


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