どきどきしたの








訓練兵にも、たまの休みがある。
なまえは今朝まで徹夜で行われた演習に疲れきって、今日は一日一人でのんびりすると決めていた。
うまい具合に大きな木の下に、宿舎の反対に向かう木陰を見つけ、ごろんと横になる。

今日はさわやかな陽気で、そよそよと、そよ風が気持ちいい。
明け方こちらに戻ってきて、宿舎で昼まで眠ったけれど、それでもまだ眠たい。

元気の有り余る訓練兵たちが無邪気に遊ぶ声が遠くに聞こえてくる。
なまえは、その元気がどこから出てくるのだろう、とぼんやり思い、そのまますうっと眠りに落ちた。

眠たい時に眠れる、何ともいえない幸福感に包まれて、なまえはどれくらい眠っていたのだろうか。
寝返りをした瞬間に、ふと薄目が開く。

(………………)

すぐ目の前に、ぼんやりと人影が見える。

(エレンか……)

寝ぼけていたなまえは隣で眠っているらしいエレンを特に気にも留めず、再び眠りに落ちた。



さわ…と自分の髪が優しく引かれるのを感じて、なまえは瞳をゆっくりと開けた。


「……………!!!!!」

エレンが、額同士がくっつきそうな距離で、なまえの髪を自分の鼻に押し当てていた。

「…あ、なまえ」
「エ、エレン…」

目を白黒しているなまえを見ても、エレンの表情はいつも通りだ。

「お前、こんなところで何時間寝てるんだよ。もう日暮れだぞ」
「…な、何してるの!?」
「え?」
「私の、髪…」
「あぁ」

なまえは混乱し通しだが、エレンはきょとんとしている。

「隣で寝てたらお前の髪からいいにおいがしてたから、かいでた。」

なまえは、急に顔が燃えるように熱くなった。

「…よっ…よく恥ずかしげもなくそんなことが言えるね!」

何で?とエレンは言うと、もうすぐ食事だぞ、と立ち上がった。
うん、と、なまえはエレンに掴まれていた髪を整えながら、真っ赤な顔のまま起き上がる。

「先行くからな」

エレンが食事へ向かう背中を見送りながら、なまえは(天然てこわい)、と思った。


おわり

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