「おいなまえ・・・キスさせろ」
「・・・は?」
「キスさせろと言ってるんだ」
「は!?!」

周りはすっかりできあがって、真っ赤なだらしない顔をした大人組ばかりだ。
目の前には空のジョッキがテーブルいっぱいに並んでいる。
店は酔っぱらい達の陽気な熱気でものすごく暑い。

ついさっき私の隣に移動してきたリヴァイが、いつもの仏頂面で私に突拍子も無いことを言い出した。
いや、いつもより更に、目が据わって悪人面をしているような―――――

「ねぇハンジ、リヴァイの頭がとうとうおかしくなったよ」
「え?!」

向かいに座るハンジは、聞き取り辛そうに身を乗り出した。
この騒がしい宴会の最中だから、無理も無い。

「リヴァイがね、キスさせろっていきなり―――――」
「え、何?よく聞こえ――――」
「何がおかしい。なぁハンジ」

リヴァイは私の方に中腰になって身を乗り出していたハンジの顎をがしっとその手で掴むと、机を挟んでぶちゅっと彼女にキスをした。

「!!?!?!?!!」

私は愕然とした。
ハンジとリヴァイは付き合っていないはず。唇を離すと、彼は「な?」と自分がおかしくないことを主張するかのように私の方を見た。

「あ、ああわわわ・・・い、一体これは何がどうなって」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよお前は」

狼狽する私に構わず、リヴァイはハンジにしたのと同じように私の顎を力任せに掴むとくるっと自分の方を向かせ、やっぱりぶちゅっと私にキスをした。

「!!!!!!!」

強引にねじ込まれた彼の舌が、べろべろと乱暴に私の口の中を動き回る。
一通り私の口の中を舐め回すと、リヴァイは私を解放した。

「――――リ、リヴァ・・・!?!」
「なまえ、落ち着いて。ほら、見てごらん」

私の口回りはリヴァイの唾液でベタベタだ。
逆隣に座っていたナナバが、女神の彫刻のような穏やかな顔をして私の肩を叩いた。

「おい、モブリット・・・キスさせろ」
「・・・は?」

リヴァイから見て私とは反対側に座っていたモブリットは、やはり彼の突然な言葉に目を点にしている。
彼の答えを待たず、リヴァイは彼にキスをした。
塞がれた彼の口からは、うぅっ・・・!と何とも言えないうめき声が聞こえてくる。

「アハハ、久しぶりに見た!」

彼女の部下に突然訪れた悲劇にも、ハンジはケラケラと笑っていた。

「リヴァイは昔からウォッカを飲むとこうなるんだよ・・・だから気を付けてたはずなんだけどね。どうしたんだろう。今日は間違えて飲んじゃったのかな」

モブリットの受難を呆然と見つめる私に、ナナバが冷静に解説する。
親交の深い幹部組にしか知られていない彼の秘密だったのだろうか。
知ってたら私だってリヴァイのグラスにウォッカを注いだりしなかったのに。

酔いが覚めたらめちゃくちゃ怒られるんだろうな。
まぁ、知らなかったんだし許してもらおう(むしろキスしたことを謝ってください)。


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