*メイド趣味な兵長が許せる方しか無理な内容です。ご注意ください・・・! (いつか絶対にセクハラで訴えてやる・・・!) 着替えの為に借りた兵長の家のバスルーム、鏡に映る自分の姿を見て、私は兵長を呪った。 白い丸襟に、ひざ下丈の長袖の、黒いワンピース。中にはパニエが入ってスカートに可愛らしい丸いラインを作り、裾からはさりげなくレースが覗く。上にはもちろんフリルのついた白いエプロン、頭にはシンプルめのヘッドドレス。 スカートの丈が普通からすればやや短いが、とても正統派で清楚なメイド服だ。これがきっと兵長のお好みなのだろう。 あの難しい顔をした人が一体どのツラ下げてどうやってこのコスチュームを手に入れたのだろう。 サイズが私ぴったりなのが恐ろしい。 ふるふると恥ずかしさと怒りと情けなさに身を震わせながらも、それでも私は兵長の申しつけ通りにこのメイド服を着てここに立っている。 ―――兵長とのゲームに負けたからだ。 この間暇つぶしに兵長とみんなでやったババ抜きを繰り返した結果、最後、兵長と私でババの取り合いになった。 「おい、なまえよ・・・ババ抜きなんざ普通にやっても面白くねぇ。こういう茶番はどうだ。お前がオレに勝ったら一つだけ何でも言う事を聞いてやる、オレが勝ったらお前に一つだけ、何でも命令できる。どうだ」 兵長に何でも命令できる。その魅惑的な提案に、安易に首を縦に振った私がいけなかった。 私は負けた。しかも、その提案に首を縦に振ってすぐ兵長にカードを引かれた瞬間に、負けた。大いに盛り上がる周りをよそに、がっくり肩を落とす私を兵長は鼻で笑い見下した。 その場では兵長から私に課せられる“命令”は伝えられなかった。 だから私はてっきり兵長の言葉は私を心理的にうろたえさせる作戦だったのか、場を盛り上げる為の方便だったのかと思ったのだ。 しかし、それは違った。恐らく兵長は自らの妖しげな趣味をその場で発表できないから、後から私に伝えてきたのだ。「おいなまえ、例の件を忘れちゃいねぇだろうな」って・・・! その罰ゲームが、そう。私が1日だけ、兵長の家のメイドさんになるというものだった。 1往復、2往復、3往復。 重たい足取りを引きずって何とか辿りついたリビングで待ち構えていた兵長は、私の姿を足のつま先から頭につけているヘッドドレスの先まで舐めるように何度も見た。 「ほう・・・悪くない。なまえ、オレはこれから1度家から出る。ドアを開けたところから始まりだ。すべては手筈通りに―――くれぐれもしくじるな・・・いいな」 何が悪くないだよ、と私は思ったけれど、今日は反論しない。 今日、すべては兵長の意のままに振舞わなくてはいけない。 いかに下らないことをいつもの難しい顔と低いテンションで命令されようと、その通りに従わなくてはいけないのだ。 とてもアホくさいが、玄関のドアから出て行った兵長は30秒程間を置いてから、ドアを開けた。 「おかえりなさいませ!ご主人様」 私は満面の笑みを浮かべて兵長を迎えた。その笑顔が硬くなってしまったことは否めない。 だけど、元気良く笑顔で、メイドらしく精一杯できたと思うのだ。 「・・・全然なってない。やり直せ」 ベストを尽くしたはずの私に、いかにも根暗そうなその目の窪みに怒りを湛えて、兵長は言った。物凄い迫力だ。 「で、でも、兵長・・・ちゃんと打ち合わせ通りに――――」 「全然なってないと言ってるだろう、何度も言わせるな。語先後礼でお辞儀は30度、手は前でこう組むんだ!それから、今日のオレはお前にとって兵長じゃない。“ご主人様”だ」 とてつもなく下らないことを、普段いかにも気だるげな瞳をしている彼に血走った目で指導されては私はもう何も言えない。 返す言葉もなく「はい」と返事をしたが「“かしこまりました、ご主人様”だ」とおまけのダメ出しをされて、私はますます辟易した。 本当は「おかえりなさいませ!ご主人様」を何度も聞きたかっただけなのではないかと私は思うのだ。 結局やり直したものの何度もあれこれケチをつけられて、20回以上はご主人様の出迎えを繰り返させられた(つまり兵長は無意味に20回以上ドアから出入りした)。 最後はもうヤケクソになって、最早訓練兵時代の自己紹介並みの勢いで私はご主人様をお出迎えした。 兵長は「まぁいいだろう」としょっぱい台詞でOKサインを出したが、その顔はかなり満足気だ。また後でやらされかねないと私は思った。 長い出迎えが終わり兵長に続いてリビングに入ると、兵長は私に雑巾を差し出して、そこの棚を拭け、と言った。 この棚をですか?と私は思わず聞き返してしまった。 だって、兵長の部屋だけあってそこらじゅう全てピカピカで、掃除の余地などどこにもないように見えるからだ。 そして、自分の部屋の掃除を他人にさせるとは思えないし、それで兵長が満足するとも思えない。 この命令はお仕置きプレイに持ち込みたいが為の前フリなのだろうかと、ぞわぞわ、と私は背筋を凍らせた。 「ああ、拭いてくれ。下から上までだ。上には届かんだろう・・・この椅子に乗って拭くといい」 「わ・・・分かりました」 「何度も言わせるな・・・“かしこまりました、ご主人様”だ」 「か、か、かしこまりました、ご主人様!!」 その時私は力が入りすぎたのか思わず心臓を捧げるポーズをしてしまったので、もう一度やり直しをさせられてから、兵長から雑巾を受け取った。 恐る恐る棚を拭く。 兵長は棚の前にある椅子に座って私を凝視している。 決してお仕置きプレイにならぬよう私は棚の前に甲斐甲斐しくしゃがみ込み、自分にできうる限り丁寧に、棚の下から拭き始めた。 そして兵長の座っているものと同じ椅子を持ち出し、そこに乗って手に届かないところも拭く。 棚と天井の間にも埃すらない。雑巾の拭いた面を見てみても、真っ白のままだ。さすがは兵長の部屋だ。私がこの棚を拭いた意味など全くないように感じられる。 今のところ兵長からのダメ出しはない。怖いほどに。 「兵ちょ・・・ご主人様、あの、棚と棚の間は――――」 ダメ出しされないよう先手必勝で、雑巾では拭けない棚と棚の間の掃除について聞かなければと兵長を振り向くと、椅子に座っていた兵長は身を逸らして低い角度を作り、下から私を凝視していた。 視姦、という言葉が思い浮かぶ。 スカートの中はパニエで決して見えないだろうが、彼は確かに椅子に立って掃除をしている私のスカートに起こるこのチラリズムを狙い、そして今存分に堪能していたのであろう。 だから棚を拭けと言ったに違いない。 ぞわわ、と私は再び背中に寒気を感じた。 私と目が合った兵長は何事もなかったかのように椅子に座り直すと、フンと鼻を鳴らした。 「棚の掃除はもういいだろう。それよりオレは腰が痛い・・・マッサージしてくれ」 「!!!」 あの潔癖症の兵長が、小姑並みに掃除に執拗にこだわる兵長が、中途半端な拭き掃除で“もういいだろう”と! 私は猛烈に驚いた。 リヴァイ班の皆さんにこれを伝えたら一体どんな反応をされるだろうか。天変地異の前触れかと騒がれるかもしれない。 「おい・・・返事がないぞ、なまえ」 「かっ・・・かしこまりました、ご主人様!」 私は急ぎ雑巾と手を洗うと、リビングに戻った。 兵長は寝室へと私を招きいれ、うつ伏せで横になる。 「ご主人様、私には人様にマッサージをした経験がないのですが・・・」 「構わん、お前の思うようにやってみろ」 はぁ・・・と不安な返事をすると、私は恐る恐る兵長の腰に触れてみた。 兵長が他人に自分の体を触れさせるなんて、普段の兵長からすればとても考えられないことだ。 彼にとってはこのメイド姿がそれほどアドバンテージになるようなものなのだろうか。 マッサージとか、よく分からないし。ほんとにこんなので気持ちいいのだろうかと思いながら、恐々マッサージをしてみる。 小柄だから普通の男の人よりは細い腰なんだろうけど、手触りはとてもがっしりとしていて、筋肉質だ。 「もう少し強くしてくれ」と兵長が言うので腕が痛くなるほど力いっぱい押してみるが、まだ強くしてくれと兵長は言う。 何度も繰り返していたので、ヘッドドレスもずれてきてしまった。 「これが精一杯です、ご主人様・・・」 「それならベッドに乗ってオレを跨いで体重を掛けてやってみろ。まだマシになるだろう」 「へ・・・兵長を跨いでですか!?」 「“ご主人様”だと何度言えば分かる」 「も、申し訳ありません、ご主人様・・・!し、しかしですね・・・」 「さっさとしろ、グズ野郎」 「か・・・かしこまりました、ご主人様!」 兵長の家。寝室。ベッドの上。兵長を跨ぐ。よく分からないマッサージの命令。そして、私のコスチュームは兵長好みのメイド服。 (これ、やばいでしょ・・・) それは既に、マッサージと言われた瞬間に分かっていた。兵長はもうこれ以上のセクハラ展開を狙っているとしか考えられない。 冷や汗を垂らしながら、普通ならば兵長以外の生きとし生ける者は上ることを許されないであろう兵長のベッドに、私は乗った。 そして、うつ伏せの兵長を跨いだ。 兵長の哀愁漂う刈り上げから続くそのうなじを削ぐ絶好の機会だと言えるだろう。 ゴクリ、とつばを飲み、私は兵長の腰にもう一度、恐る恐る手を伸ばす。 「気持ちいいですか・・・ご主人様」 「・・・あぁ」 私が兵長の腰を押す度に、純白のシーツが掛けられている兵長のベッドがキシキシ、と音を立てる。 (・・・何か・・・、すごく・・・) あれ、おかしい。 セクハラされてるのは私の方なのだ、絶対。 それなのに今、何だか後ろから馬乗りになってる兵長に対して、私は少しやましい気持ちを浮かべてしまっている。 私に無防備に背中をさらして腰を触らせている兵長の姿が、何故かとても色っぽいものに見えて、私の胸はざわめく。 だって、この体勢で、こういう感じって・・・。 ――――あまり、いい感じじゃない。あまり、いい状況じゃない。 兵長の変態趣味に付き合わされて、私までおかしくなっているのだ、きっと。 「あの・・・ご主人様、そろそろ・・・!!」 そろそろいいでしょうか、とお伺いを立てようとした瞬間だった。 私に大人しく跨がれていた兵長はゴロンと体を返して、仰向けになる。 目が合い、私は思わず赤面、して、しまった。 「おいお前、何いやらしい目でオレを見てる」 「はっ・・・そ、そんなこと、ないです!――――わっ・・・!!?」 痛いところをつかれて激しく動揺して、隙ができてしまったのだ。 急に兵長にぐいっと手を引かれ、彼の上にどさっと、倒れる。 ほら、やっぱりこうなったと思った。 折り重なって顔を間近にした兵長は、そのまま私の唇を奪った。 「はぁっ・・・へ、兵長・・・!」 「―――“ご主人様”、だ」 ・・・そんなにメイドがいいのだろうか。 兵長は、何てエロいキスをするんだろう。 そればかりかまだ兵長はメイドごっこを続けている。いや、兵長はきっと、いや絶対、メイドプレイをしようとしているのだ! 貞操の危機だ。これはもうセクハラでは済まされない。 頭の中では、とてつもなくヤバイ事態になった、何とか抵抗しなければと思うのだけれど、メイドを手篭めにしようと興奮している兵長のキスは情熱的で、私の体には力が入らない。 「ご・・・ご主人様・・・いけません、いけません・・・、こんなこと――――」 その時、確かに兵長の鼻息が荒くなった。 しまった、と思った。 制止しようと言ったはずの台詞は、私が兵長のご希望通りに“ご主人様”と言ってしまったばかりに、兵長を余計に喜ばせるような台詞になってしまった。 兵長は嬉々としてメイドごっこを続ける。 「初奴め・・・オレは構わない、主人とメイドであろうと」 「!!!へ、兵長、私、もう本当に――――あぁ・・・っ、」 私はびくりと身を縮めた。 兵長は私の耳に舌をつぅっと這わせ、耳元で囁く。 「なぁ・・・なまえ、“お前が”、今オレの上に乗ってるんだぞ―――嫌なら力尽くで身を起こせばいい。お前は簡単に逃げられるはずだ。違うか?」 「やっ・・・、ん・・・!」 ぞくぞく、と身が甘く震える。 そう、確かにがむしゃらになれば抵抗できる体勢なのだ。 何しろ私が兵長の上に乗っているのだから。 私の腰に回されている兵長の手は、決して強くはない。 それなのに私の体は今、確かに兵長になされるがままで、抵抗しようとしていない。 兵長は私のズレかけたヘッドドレスを几帳面にセットし直すと、そのまま兵長は体を転がして、今度は私が兵長の下になる。 形勢逆転で目が合い兵長はニヤリと笑うと、私の唇にまた、キスを落とした。 「ふっ・・・んんっ・・・!」 キスはやっぱりとろけるように情熱的で、兵長の手は私の胸をしっかり鷲掴みして、揉み始めている。 (どうしよう・・・こんなの、嫌なはずなのに) ・・・ちゃっかり気持ちいいなんて、思ってしまっている。 兵長は恐らくこのメイド服を完全に脱がせるつもりはないのだろうが、私の背中をまさぐり、ボタンを外し始めた。 やがて上半身がウエストまで捲られる形になって、下着が露になる。 さらけだされたバストラインに、兵長は吸い付くように唇を這わせた。 スカートの中には手を入れて、太腿をいやらしく触っている。 「ん、・・・あっ、・・・兵、長っ、・・・、私――――」 「とことん学習しないヤツだ・・・“ご主人様”だと言ってるだろう」 「で、でも、もう・・・!」 「なまえ、お前は今日オレのメイドなんだ。お前がオレのメイドでありたいと思うのなら、今オレはお前をもっと気持ちよくしてやろう・・・さぁ、どうする」 ぐらぐらと、私の理性が揺れる。 この誘惑に負けては、私はメイド趣味の男とメイドプレイをしてしまったという十字架を一生背負って生きなければいけない。 でも、悔しいけど、兵長に触れられる体はこんなに気持ちいい。 うっすらと視界が滲んでくる。 兵長は下着の間から滑り込ませた指で私の胸の先端を刺激して、舌では鎖骨をなぞっている。 もう私は憚ることなく喘ぎ声を上げている。 あぁ、神様。私はなぜこんな変態趣味に付き合う、淫らな女になってしまったのでしょうか。 もう、後戻りできない。・・・だってこんなに、気持ちいい。 「・・・・・・お、お願い・・・します、・・・ごっ・・・ご主人様・・・!」 ああ、言ってしまった。もう後戻りはできない。 ぴくっと兵長の動きが止まった後、兵長は顔を上げて、私の額にキスをした。 「・・・・・・!」 そのキスがあまりにもやさしかったから、私は驚き兵長を見つめる。 「いい子だ、なまえ。存分に可愛がってやろう・・・但し、お前もオレにちゃんと奉仕するんだ。メイドの本分は、ご主人様へのご奉仕だろう」 さっ、と自分の顔が青くなったのが分かった。 ご奉仕。兵長に。 一体私は、何をさせられ―――――― 「・・・おい、返事がないぞ、なまえ」 「はっ・・・はい、かしこまりました、ご主人様ぁ・・・っ!!」 半ばヤケクソに、私は叫んだ。 おわり*素敵なクリスマスプレゼントをくださった、くまこさんへ back |