団長とブラジャー



やっとたどり着いた我が家のドアノブを回した時、どっと疲れが体にのしかかってきた。
明日も早朝からこの疲れた体にムチ打って訓練だ。私はがっくりと頭を垂れて部屋に入った。

寝室に直行した私はその光景に目を疑った。
よく知る金髪の穏やかな顔をした大男が私のベッドに腰掛け、見覚えのあるブラジャーを頭にかぶっている。

「だ・・・団長・・・、な、何してるんです、・・・か・・・?」
「ああ、おかえりなまえ。これは君のかな?」

私の寝室で勝手にブラジャーを引っ張りだしておいて「君のかな」もなにもないだろう。
団長は恐らく首が回らない程の多忙さと恐ろしい壁外に慣れすぎて頭がおかしくなったのだ。

「あ、あの、団長。そ・・・それは、カチューシャとかじゃ・・・ないですよ・・・?」
「ああ、知ってるよ」

知ってる?!
ならば何故あなたはそれを頭に身につけているというのですか・・・!
(カチューシャか何かだと思って着けてるにしても変態ですがね!)

「さあなまえ、今日もよく頑張ったね。そろそろ一緒に寝ようか」
「えっ、えっ、えっ?!」

ブラジャーをかぶったまま私の手を引く団長に、全く状況が掴めず私はただ困惑する。
だって、団長は私の恋人でもなければこの部屋に来たことすらないのだから。

「逃がさないよ、・・・ほら、つかまえた」

彼の分厚い手は私をそのまま彼の腕の中へと引き寄せる。

「だ・・・団長・・・!そんなカッコイイ顔で女殺しな素敵なセリフ、ブラジャーを頭に乗っけられたままで言われてもですね・・・!!!」
「はは、照れてるのか?可愛いなぁ、なまえ」

確かに私は照れてるけど、頭をブラジャーに乗っけている人が言って説得力のある口説き文句などこの世にはどこにも存在しない。
やっぱり団長は完全に頭がおかしくなったんだ。
これを一体誰にどうやって伝えてこれからどうすればいいんだろう。
兵長に相談するのか?いや、団長に全幅の信頼を寄せている彼だから、私がこんな突拍子も無いことを報告・相談したってお前は妄想野郎の変態野郎だと相手にしてもらえないだろう。
ハンジさんに相談するのか?いや、面白がって根掘り葉掘りこの状況を聞かれて「それって最高だね!!」と爆笑されるだけだ。
ミケさんに相談するのか?いや、鼻で笑って終わりだ。
考えてみればこの調査兵団のトップで頼れる人格者など存在していないことに気付かされて、本来の悩みとは別の悩みまで頭に浮かぶ。
ということは、職場悩み相談室にでも相談すればいいのだろうか。神様!



「――――――はっ!!?!?!」



私は驚き飛び起きた。
部屋には朝日が差し込み、鳥のさえずりが聞こえてくる。
いつも通りの私の朝だ。

(あ…あぁ、夢か。)

あんな変態的な夢を見てしまうなんて、私はかなり疲れてるんだ。
なぜあのジェントルマンを体現したような存在である団長に夢の中とはいえあのような仕打ちをしてしまったのだろう。
団長、本当にすみませんでした。

心から団長に懺悔をして、はぁ、と大きくため息をつきふと視線を横にやる。


「!!!!!?!?!」


私は座ったままベッドのスプリングいっぱいに跳ね上がった。
寝てる。
確かに寝てる。
本当に寝てるのだ。

私のとなりに、裸の、団長が………。


完(ホラー色で終わる)

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