きゅんとしたの



その日は最高にツイてなかった。
ちょうどそのタイミングで「やってはいけない」と教官に言われたことを間違えてしてしまい、みんなの前で教官に烈火のごとく怒られた。
教官の怒りは冷めやらず、演習が終わってからもグラウンドの隅でまた怒られた。
もう、本当に反省してるからそれくらいにしてくれたっていいのに、と、半べそをかきながら私は「すみませんでした」を繰り返していた。
ずっと立ったままうなだれて怒られていたのだけど、教官の後ろに人の近付く気配がしてちらっと視線をやると、エレンが近くにある木に演習中に置き忘れていたのだろう、タオルを取りに来たところだった。
・・・教官に見付からなくて本当に良かった。
気まずそうな顔をしたエレンと目が合ってしまったので、私はますます悲しくなった。
みんなの前であれだけ怒られていたのだからエレンだって私が教官に怒られていたことなんて知ってたのだろうけど、私はものすごく恥ずかしくて、余計に泣きたくなった。
エレンだって、空気読んで後から取りにきてくれたってよかったのに・・・。


30分くらい怒られていただろうか。
ようやく教官に解放されて、私はその場に座り込んだ。
教官が行ってしまった後に、一人で泣いた。
怒られてる時に泣いちゃいけないことくらい分かってる。

怖かったなぁ。運が悪かったなぁ。反省だってしてるのに。


コツン


後ろから頭を小突かれて、私は涙を隠すのも忘れてバッと振り返る。

「エレン!」

エレンが、軽いゲンコツで私の頭をつついたようだった。
さっきのことで気を遣ってるのだろうか。
ちょっとだけ、バツの悪そうな顔をしてる。

「なまえ」

名前を呼んだくせに、何でそっぽ向くかな?
そっぽを向いたままのエレンが私の頭を小突いた手を開くと、中にはお菓子が。
・・・あれ?
ひょっとして気を遣ってくれてるんだ・・・?

「こ、これ・・・お・・・お前に、やるよ。・・・だから、元気だせよ、な!」

「・・・・・・あ、・・・ありがとう・・・」

エレンはそのまま私の隣に腰を下ろした。
彼は特に何を話すわけでもなく、足を伸ばしたり周りを見回したり。

私はまだ流れてる涙を拭きながら、ゆっくりと、エレンのくれたお菓子の包みを開けて、口に入れてみた。
お菓子は焼き菓子でパサパサで、演習後に食べると口の水分を一気に持っていかれちゃって。(顔の表面にならいっぱい水分があるのに!)
しかも泣きながら食べたから、ちょっとむせてしまった。

「・・・エレン、気ぃ遣わなくていいよ。私なら大丈夫だから」
「ん?別に・・・。オレがここにいたいからいるだけだし」

一瞬間を置いた後、そっか、と私は言って、もう一度顔を伏せた。
泣くのを隠したいんじゃなくて、赤くなった顔を隠したかったからなんだけど。


おわり

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