教えてあげる



「バッカお前、何でこんなことも分かんねぇんだよ」

ジャンが嬉しそうに言った。

「分かんないからあんたに教えてもらってるんじゃんね!」

なまえは涙目で訴える。


夕食後、食堂の外のデッキに腰掛け、ジャンは食堂の明かりと月明かりを頼りに、なまえの課題を見てやっていた。
食堂の中からはまだ訓練兵たちの談笑が聞こえてくる。
二人のほかに、まだ外に出てくる者はいなかった。

課題を目の前に頭を抱えるなまえを見、授業ん時何聞いてたんだよお前、とジャンはなまえを嘲り笑った。
ぼんやり浮かぶその得意げな顔に、なまえは少しのいらつきを覚える。

「いいよね、頭のいい人はさぁ・・・」

ちょっとした厭味のつもりだったが、ジャンは全く気にしていないようだ。

「・・・あっ、ミカサ!」

ジャンは瞬時になまえの視線の先を向いた。
しかし、ミカサはいない。

「やーい、引っ掛かった。まじ単純!」
「お前なぁ、もう課題見てやんねーぞ!」
「可愛いね、ジャン。顔真っ赤にしちゃってさぁ・・・」

ジャンは顔を赤くして怒ったが、なまえは一矢報いたと得意げに喜んだ。

「ジャンはさ、一途だよね。望みなんかいっこもないのに」
「うるせーよ、お前」

彼は拗ねたようにあさっての方向を見た。
今夜は暑い。
ジャンは胸元のシャツをパタパタと動かした。
その仕草を見て、なまえは悪そうな笑みを浮かべた。

「ねぇ、ジャン・・・私もさぁ、一応、“オンナ”なんだけど・・・」

なまえは前かがみになって、隣のジャンに迫った。
ジャンが振り向くと、前かがみになった彼女の着ているタンクトップの胸元がたわみ、その谷間がちらりと覗いている。

「ジャンって・・・オンナノコの、どんなこと、知ってる?」

なまえはジャンにゆっくりと顔を近づける。

「なまえ、な、何言ってんだよ」

ジャンは無理に笑おうとしたが、顔が引き攣っている。
なまえの顔とその胸元を交互にちらちらと見、さっきのように顔が真っ赤だ。
次第に、互いの息がかかるような距離までなまえは迫ってくる。

「・・・ばっ、バカなまえ、やめろっ」


ふっ


「!!!!!!!!!!!!!!!」


なまえは顔を離すと、我慢していたものを吐き出すようにぎゃははははと甲高い声で笑った。
耳にふっと息を吹きかけられたジャンは、まだその耳を覆い、真っ赤な顔でなまえを見つめている。

「おっ・・・おまっ、まじぶっ殺すぞっ・・・!!!」

「何なに、何やってんだよ二人ぃー」

食堂から訓練兵たちががやがやと出てきた。
ジャンは真っ赤な顔のまま、あたふたと周りを見ている。

「うふっ。イ イ コ ト!」

なまえがわざと意味深に答えたので、二人を囲んだ訓練兵たちはおぉ〜〜〜っとひやかし声を上げた。

「そっ、そんなんじゃねーよ!」

ジャンは慌てて事態の収拾に努めたが、皆、誰もジャンの言うことなど聞いていない。

「あっ、ミカサだ!もういーや、ジャンってば意地悪して教えてくんないからさぁ、ミカサに教えてもらおーっと」

なまえはニヤリとジャンに笑うと、立ち上がり、ミカサの方へ歩いていった。

だから、違うんだって、お前らまじあいつに騙されてるんだって!とジャンは弁解するが、誰も聞く耳持たずニヤニヤとしている。
まだ顔が真っ赤なジャンはなまえの背中を見送りながら、クソッと言い、あぐらをかくと、頬杖をついた。


おわり