*こっそりいただきました
*ふつうじゃないのと繋がってますが、読んでなくてもだいじょぶです。




見せ合いっこしよう



自室になまえを呼び寄せたリヴァイは、神妙な表情で言った。

「なまえ。お前は知ってるか?エルヴィンの秘密を。」
「・・・エルヴィン団長の、秘密ですか?」
「ああ。誰も知らないんだ、ヤツの真実を・・・」
「・・・・・・」
「知りたいと思わないか?」
「え?」
「興味はないのか?」
「・・・どんなことによるかと、思います」

リヴァイとなまえの会話は、いつも風変わりだった。
普段あまり口数が多いとはいえないリヴァイは、自分からはあまり話さない(けれど内気というわけではない)なまえの前では、わりかし雄弁だった。

「あまり大きな声では言えない。耳を貸せ」

なまえは少し訝しむような表情を見せたが、リヴァイに言われた通り、彼の口元へ耳を近づけた。
彼はなまえの肩に手を回し、その耳へ吐息を掛けるように囁いた。

「・・・あいつはな・・・ヅラなんだ・・・」
「・・・・・・・・・!!」

リヴァイはなまえを解放した。

「驚いたか?」
「・・・それは、大変な秘密ですね」

彼と同じようになまえもまた、神妙な面持ちで言った。

「それは、大変な秘密です!」

興奮した様子でなまえは繰り返した。
リヴァイは小さくそれに頷いた。

「ああ・・・これは、誰も知らない重大な秘密なんだ」
「そうでしょうね・・・」
「ヤツがそれを外しているところを見た者はいない」
「・・・エルヴィン団長がそのような隙を見せるとは思えません」
「そこでだ・・・お前に頼みがある」
「・・・まさか・・・」
「その、まさかだ」
「い、いえ、兵長。私にはそのような重大なミッションは遂行できそうにありません・・・!」
「いや、お前ならできる。なぜなら、あいつはお前のことを全く気に掛けていないからだ。お前のことなんか、空気と同じようなものだと思ってる。事実、お前とエルヴィンに何か係わりがあるか?」

なまえは、つい先日、初めて団長室へ行った時の事を思い出した。

「そうですね、全く何も・・・あえて言うなら、先日、笑った拍子につばをかけられたくらいです」

ほお・・・とリヴァイは相槌をうった。

「何しろ、これには相手に身構えさせないことが大切だ。それには、適役はお前しかいない。分かるな?なまえよ」
「・・・・・・・・・」
「お前も知りたいと思わないのか?エルヴィンの、真実を。俺たちは探求者だろう?」
「・・・・・・・・・」

なまえはしばらく黙っていたが、そのうち真剣な表情で決心したように、小さく頷いた。

「兵長・・・わたし・・・やってみます」
「よし、頼んだぞ、なまえ」

リヴァイはなまえを団長室へと送り出した。




「なまえ、何の用だ」

突然のなまえの来訪に、エルヴィンは首を傾げた。
何しろ、先ほど彼らが言ったとおり、彼と彼女の間には上官と部下であること以上には何の係わりもない。
あえて言うならば、先日彼女が彼に書類を運びに行った、ということくらいである。

「いえ・・・今日は、教えていただきたいことがあって・・・ここに来ました」

なまえのただならぬ表情に、エルヴィンは先日のような笑いの予感が頭を掠めた。

「何だ、言ってみろ」
「・・・あの・・・、」
「・・・?」
「あの・・・エルヴィン団長の、秘密を見せてください」
「・・・は?」

エルヴィンは既に吹き出しそうになったが、なまえの真剣な顔に、とりあえず合わせてみるかと思った。

「どういう意味だ、それは」
「え、ええと・・・エルヴィン団長が秘密にしている、とても、大事なものがありますよね。それを、見せてほしいんです」

エルヴィンは、もう堪えることができなかった。
口を咄嗟に手で覆うと、顔をなまえから逸らし、こっそり笑った。
彼女は、他ならぬ「誰か」の差し金で、からかわれ、ここまで自分にこんなことを言わされに来たのだ。
そして彼女は、それに全く気付いていない。
彼は、至極真面目な顔をして、なまえに向き直った。

「・・・いいだろう。但し、なまえ。おまえの大事なものも見せるんだ」
「・・・えっ・・・」
「お前が私に見せてほしいのは、私の大切な一部だろう?だから、私にもお前の大切な部分を見せてくれ」
「・・・・・・・・・」
「さぁ、どうする?」
「・・・・・・・・・・・・いいですよ」

エルヴィンは少し面食らった。
さすがの変人の彼女も、拒んだり、恥ずかしがったりするそぶりを見せるだろうと思ったのだ。

「・・・じゃあ、見せてもらおうかな」

エルヴィンは徐になまえに近付いた。
そして、彼女のジャケットに手を掛けた。
驚くことに、なまえはそれを素直に受け入れた。
彼女のジャケットは、簡単に、エルヴィンの手によって脱がされた。
そして、エルヴィンは、彼女を試すかのように、固定ベルトに手をかけた。
彼女は全く怯まないし、拒まない。
エルヴィンは驚きつつも、少し遠慮がちに、ゆっくりと上半身の固定ベルトを外していった。
上半身の固定ベルトがすっかり外されると、次に、なまえのシャツのボタンに、手を掛けた。
一つ目のボタン、二つ目のボタン、三つ目のボタン・・・。
それでもなまえは拒まない。
彼女は、自分の手元をじっと見ているだけである。
エルヴィンは、ある種の興奮を覚えながらなまえのシャツのボタンを開ける手を進めつつ、不思議がった。

「・・・いいのか?」
「・・・え?」

彼女はきょとんとしていた。
この間、ここで彼女にキスができそうな程顔を近付けた時のように、全くの無防備だった。

「いいですよ。」

なまえは真面目な顔でそう答えた。
エルヴィンは逆に不安になった。
この女には、貞操観念というものがないのかと。

四つ目、五つ目・・・とうとう、なまえのシャツはすべてボタンが開けられてしまった。

「じゃあ・・・いいな?」
「・・・はい」

なまえは神妙な面持ちでそう答えると、おもむろに自分がインナーとして着ていたキャミソールをゆっくりと持ち上げた。

(それは自分で、脱ぐのか)

エルヴィンが思った瞬間―――――


「これです。絶対誰にも言わないでください。」

「・・・・・・は?」

「私の、秘密です。」

「は?」

エルヴィンはもう一度聞いた。

「でべそなんです、私。家族以外に、誰にもおへそは見せたことがありません。」

「・・・・・・・・・・・・」

「エルヴィン団長。絶対に内緒にしてください。もし誰かがこのことを知っていたら、それはエルヴィン団長のせいです。私はあなたに物凄く怒るでしょう」

「・・・・・・・・・・・・」

「だから、私にも見せてください。エルヴィン団長のヅ―――――――」

「ぶっ・・・!!!!!!」


エルヴィンは、盛大に吹き出した。
そして、腰が抜けるかと思うほど、笑った。
笑いすぎて息ができない様子で、とても苦しそうにしていた。
なまえは、それを不思議そうに見つめていた。
そして、先日に続き、またも自分にかかった彼のつばを気にするような素振りをした。


「お、前は、・・・本当に、変、人だな・・・!!」


笑いの合間に、窒息しそうになりながら、エルヴィンが言った。
なまえは訳が分からず、頭をはてなでいっぱいにしながら、とりあえず彼を静観していたが、次第に不満そうな表情を浮かべた。

「・・・エルヴィン団長、私は約束を果たしました。だから、エルヴィン団長も見せてください」

「なまえ、すまない――――お前は恐らく誰かに、俺がカツラだと言われてここに来たんだろう」
「・・・はい、そうです」
「じゃあ、ひっぱってみるといい。これは、生まれて初めて他人に許可することだ。君には、特別に許可しよう」

い、いいんですか!?となまえは興奮した面持ちで言った。
ああ、と彼は言い、その大きな体を曲げて、なまえに頭を差し出した。



ぎゅっ。

「痛っ・・・!」



エルヴィンは唸った。
そこまで強く引っ張られるとは思っていなかったのだ。

「エルヴィン団長・・・取れません・・・」
「いたた・・・そりゃ、取れないだろう。俺はカツラなどではないのだから」
「・・・・・・・・・!!!」
「誰か、まあ、察しはつくが、お前はそいつにからかわれたんだよ」
「そんな、そんなわけはありません」

なまえは確信に満ちた瞳でエルヴィンを見つめた。
彼女はその代償として今までずっと隠してきた自分の秘密を初めて他人に打ち明けたので、決して信じたくなったのだろう。

「残念だったな、なまえ。お前の希望に応えてやれなくてすまなかった。これからは、悪い大人のいたずらに気を付けるように」

エルヴィンは余裕の笑みを浮かべながら、自分を棚に上げてそう言った。

「そんな・・・そんな・・・!」

なまえは泣きそうに、わなわなと唇を奮わせた。

「さ、いい子だから服を着なさい。私も男だ。秘密はちゃんと守ろう。」

エルヴィンは自分がボタンを開けたシャツを、一つ一つ、また閉じてやった。
そして、呆然としているなまえに、また、自分が外した固定ベルトを着けてやった。

なまえはしばらくその場で棒立ちになっていたが、エルヴィンが扉を開け外へ促すように手をやると、魂が抜けたように、その場を後にした。






「・・・兵長」

とても暗い面持ちで、なまえはリヴァイの元に戻った。
彼女はまるで、世界に裏切られたかのような表情を浮かべていた。

「戻ったか」
「・・・兵長は、私のことを騙したのですか」
「何だと?」
「エルヴィン団長は、ヅラではありませんでした」
「そんなわけはない」
「私、引っ張らせてもらいました。エルヴィン団長の髪を。確かにくっついていました。生えてました――――間違いないです」
「とことんバカなやつだ。あいつのヅラは、最新型で分かりにくいようになっているんだ」
「えっ・・・」
「そうして何人も言いくるめられてきた。だからお前をやったのに。お前も騙されたんだな」

彼は冷たく言った。

「そんな・・・」

「お前には失望した」
「・・・すみません、兵長・・・」
「俺が最後に見込んだお前がミスをした今、もうエルヴィンの真実に辿り着く者はいない――――完全に、その道は絶たれた」

リヴァイは両手を口の前で組むと、しばらく黙りなまえを冷徹な目で眺めた。

「・・・私、もう一度行って来ます」

なまえは右手をギュッと握ると、決意を持った表情で、彼にそう言った。

「いや、いい。もう手遅れだ。ヤツはもうお前に対して対策を講じているだろう」
「・・・・・・・・・」
「お前には、罰が必要だ」
「・・・罰・・・」

リヴァイは徐にデスクの引き出しを開け、網のような物を取り出し、机の上に置いた。

「・・・・・・?」
「それをお前の体に当ててみろ」
「・・・こうですか?」
「いや、逆だ」

それは、網タイツの水着版のような代物だった。
形としてはワンピースタイプの水着だが、腰骨のあたりから首元まで穴が開いているようになっており、腹から胸の谷間までが全て露出するようになっている。
これを着ても肌は全く隠れない。むしろ網でしかできていないのだから、露出したままとそう変わりはない。

(・・・いいじゃねぇか・・・)

リヴァイはなまえに自分の顔が見えないよう口の前で組んでいた両手に額を押し当て、ほくそ笑んだ。
それを当てているなまえを眺めただけで、彼の下半身が疼きさえした。

「なまえよ、それを着るんだ。今、ここで」
「今、ここで・・・ですか?」
「ああ。すぐにだ」

彼は性急に要求した。

「でも・・・」

リヴァイは席から立ち上がると、なまえに近付き、その腰に手を回した。

「手伝ってやるよ、俺が。特別に」
「えっ・・・」
「自分の体を晒すのが恥ずかしいか?」
「・・・・・・・・・」
「それなら、俺もお前に見せてやるよ。お前と同じように」
「えっ、兵長もこれを着るんですか」
「それは1着しかない」
「お前が俺にその姿を晒すなら、俺もそれなりに覚悟がある。見せ合いっこだ。いいな?」
「見せ合いっこ・・・」

なまえは考え込み、自分に当てていた水着のようなものを眼前に掲げた。

「・・・・・・・・・兵長」
「何だ?」

リヴァイは彼女の腰に回した手を自分へぐいっと引き寄せた。
二人の体が密着するが、なまえはやはりたじろがない。
リヴァイはこのまま、目の前にあるなまえの頭へキスを落とそうかと考えた。

「兵長・・・これは・・・お受けできません」
「・・・何故だ」
「私は自分の犯した取り返しのつかないミスをとても申し訳なく、また、自分でも深く後悔をしていますが、これはできません」
「・・・お前は、俺を2度も失望させるつもりか」
「いえ・・・これを着用することは、私にとって人生に係わる程の重要な問題を孕んでいます」
「・・・それなら、俺がお前の人生を保障してやらんでもない」
「そういう問題ではないのです、兵長・・・」

なまえは唇をわなわなと震わせ始めた。
この水着のようなものを着用すれば、彼女の秘密であるへそが晒される。
先ほど生まれて初めて他人に晒した自分の体の秘密を、またもここで晒すわけにはいかなかった。
そして、大変申し訳ありません!となまえは深々と、珍しく俊敏に、大きな声で、頭を下げた。

「・・・ならば、いいだろう」
「・・・・・・・・・」
「この“罰”は、持ち越しだ。いいな?」
「・・・はい・・・」

なまえは小さく頷いた。


「今日はもういい。また指示を出す」


リヴァイは席へ戻ると、その椅子にどかっと座り、なまえから視線を外したまま、足を組んだ。
なまえは分かりました、と言うと、おずおずと簡単にたたんだ水着のようなものをリヴァイの机の上にそっと置いた。
そして、申し訳なさそうに小さく礼をし、部屋を出て行った。

(惜しかったな・・・一体何が引っかかったんだ、あいつに)

リヴァイは窓の外を眺めながら人差し指でトントン、と、自身の額をつついた。


おわり

back