*こっそりいただきました続編です





ふつうじゃないの





エルヴィンには不可解だった。
なぜリヴァイがなまえに執着するのか?

「お前、職権乱用はやめろよ」

エルヴィンが笑うと、リヴァイは別に、と笑った。
この間中庭で見てしまった彼の、眠っているなまえへの内緒のキス。
“職権乱用”は、以前彼がなまえをリヴァイ班に入れたいとエルヴィンに話したことを指していた。

「あいつは、見込みがある。それとあれとは別だ」
「あれって、何のことだ?リヴァイ」
「できればもう少し訓練と経験を積ませたい」

エルヴィンは意地悪く言ったが、リヴァイには軽く受け流されてしまった。





「エ、エルヴィン団長、ご依頼の書類をお持ちしました・・・」

団長室にやってきたなまえがおずおずと、書棚から本を取ろうとしていたエルヴィンに書類の束を差し出した。

「ありがとう。助かったよ」

彼の部屋が物珍しいなまえは、室内を遠慮がちに、しかしきょろきょろと見回した。

「何か変な物でも置いてあるか?」
「い、いえ、団長室にお邪魔したことなんてないので、こんな風になってるんだなって・・・すみません」
「今日は中庭で昼寝をしないのか」
「えっ・・・」
「読書か昼寝か、知らないが」
「そうですね、両方かもですね・・・」

なまえはバツが悪そうに頭をかきながら笑った。
何気なく、エルヴィンはその両手でなまえの行く手を遮り、書棚にその背中を追いやった。
190cmの彼に至近距離で見下ろされ、なまえはたじろぐような表情を見せた。
普通であれば男が女に迫っているような体勢だが、なまえはそのようには捉えていないようだ。

(リヴァイは、何でこの子を・・・顔じゃなく雰囲気が、昔のハンジに少し似てるか・・・?)

エルヴィンはなまえをしげしげと見て思った。
このような状況にも全く怯えていない。
キスをされたり、抱きしめられたりするのでは、何ていう考えにも及んでいないようにみえる。
リーダー格というわけでもないが、挙動不審というか、天然というか、物怖じしないというか、怖いもの知らずというか、大物というか・・・。

エルヴィンは、おもむろになまえの頬に手を当てた。
すぐにでもキスできそうな距離まで顔を近づける。

「・・・な、何でしょう・・・?」

それでもなまえは不思議そうな顔をするだけである。

(・・・ほら、こんな女、簡単にどうとでもできる)

エルヴィンは彼女を見つめる目を離さないが、彼女もまた、その不思議そうな瞳を離さなかった。

「・・・君は、自分のキャリアについてどう思う」
「キャリア?」
「上を目指しているのか?討伐数と補佐数はなかなかのものだが」
「あ・・・いえ、生き残れば、自動的に上にいくのだと思ってました。死ねば、このままです」
「・・・・・・ぶっ」

全くオブラートに包まぬなまえの言動に、とうとうエルヴィンは吹き出した。
声を上げて笑う目の前の自分の組織のトップに、なまえは理由が分からず、困惑した。
そして、彼が吹き出した時に自分にかかった彼の唾を少し気にする風にした。

「あ・・・すみません、何か変なことを言ったでしょうか・・・」
「いや・・・よく分かった」
「はぁ・・・」
「君はさすが調査兵団に属する兵士だ。上官にも劣らぬ変人だな」
「は!変人!・・・そ、そんなことはないと思います。私はとりえも目立つところも特にない、面白みのない人間かと・・・」

もういい、とエルヴィンは腹を抱え、なまえを解放した。
一体、この子はリヴァイとどんな会話をしているのだろうか。
いや、そんなに話したこともないのかもしれない。
なまえは自分の前で笑い転げる上司を不思議そうな面持ちで眺めていた。

「もう、行っていい。ご苦労だった」
「は、はっ・・・。」

なまえは首を傾げると、小さく礼をして、部屋を出た。


おわり(こっそりつづく

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