今日はすがすがしくて、とても心地良い天気だ。
彼の高い鼻をそよ風がかすめる。
調査兵団本部2階の回廊を歩いていたエルヴィンがふと中庭を見やると、なまえがこちらに背を向け、花壇に腰掛け読書をしているのが目に入った。

「なまえ!」

声を掛けると、なまえはキョロキョロしていたが、やがて自分の背後・上から声がしていることに気付き大きく振り返ると、エルヴィンに手を振り小さく会釈をした。

(またそんなところでうたた寝して、泥だらけになるなよ…)

エルヴィンは苦笑した。

なまえは天気のいい日に、中庭で読書をするのがどうやら好きらしい。
たびたびその光景を見かけていたが、ある日、本部で泥だらけのなまえを見かけた。

「何だ、それは」
「え、えへへ…エルヴィン団長。花壇の淵に座って本読んでたら、居眠りして、花壇に突っ込んじゃって…」

よく見ると、なまえの頭には花びらがついていた。

そ、そうか…とエルヴィンは軽く相槌を打ち、なまえとすれ違った。
変な女だな、と呆れたが、変人揃いの調査兵団ではまぁ普通かな、と一人納得した。

(それなりに優秀な兵士だしな)

飛び抜けてではないものの、生存率が極端に低いこの調査兵団で生き抜いているだけのことはある。
なまえはそれなりの実績は持っていた。

そういえば、この間リヴァイがなまえを自分の班にほしいって言ってたかな、とエルヴィンは思い出す。
他の精鋭に比べたら実績が少なくとも、彼が見込むだけの素質が、彼女にはあるのだろう。
何しろ、真昼間に本部の庭で堂々と(図らずも)昼寝ができるほど、度胸がある。

エルヴィンは呆れたようにふっと笑い、ミーティングルームの扉を開けた。




1時間程が過ぎ、ミーティングの帰り道。
再び回廊を自室へと向かうエルヴィンは、中庭に視線を落とした。
どうやらさっきと同じ位置になまえはいるようだ。
その隣に、人影が見える。
少しずつ歩みを進めると、それがリヴァイであることが分かった。

(意外な組み合わせだな)

リヴァイはなまえを自分の班にほしいと言ったものの、なまえと直接の係わりがあるわけではなかった。
エルヴィンは興味を引かれて、二つの影をじっと見る。なまえのこくりこくりと揺れる頭の動きを見るに、どうやらまたも居眠りをしているようだ。
やれやれ、懲りないやつだとエルヴィンはその姿を見つめたが――――――

「あっ」

思わず声が出た。

なまえの隣に腰掛けていたリヴァイが、何と、無防備に居眠りするなまえにキスをしたのだ。
その光景が、エルヴィンの瞳にはまるでスローモーションのように映った。

驚き立ち尽くしていると、リヴァイがふと視線をこちらにやる。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


こちらに、何か伝えたいようだ。
声を出さずに口をパクパク動かしている。



“ い え ば こ ろ す ”



3回目くらいでエルヴィンはリヴァイの台詞を解読することができた。
エルヴィンは思わず吹き出して、「分かったよ」と言うように、手をヒラヒラと振ると、自室へと再び歩みを進めた。



こ っ そ り い た だ き ま し た


おわり(こっそりつづく

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