02-1 「はぁ……つまりここは、1184年、源平合戦の真っ只中っていうパラレルワールドで、 その男の子…白龍が、神子である望美をこっちに呼んだ…。 で、そのとき傍にいたゆーくんと将臣くんも一緒に飛ばされた……、てことであってる?」 「はい。……それにしても冷静ですね、天満先輩は…。俺はどうもさっきから取り乱してばかりで…」 京に戻る道中、ゆーくんど弁慶゙さん(…って、あの義経の家臣だよね?後の歴史書って適当過ぎるよ。どこが大男?)に大方の概要を説明された。 最初に流れ着いたあの場所は宇治川。で、義経さんが戦い… ってことは、あの時は1月、宇治川の戦いだったんだ。 ‥‥ぅわぉ、なんて無茶苦茶な世界。 「え?そんなことないよ。訳分からなさ過ぎて、逆に落ち着いてるのかも… それより、ごめんねゆーくん。ずっとおんぶしてもらっちゃって………、 あたし重かったでしょう?」 馬での移動以外、ゆーくんはずっとあたしをおぶってくれていた。 いくら『痛くないから平気だよ』と言っても、頑として首を縦に振ってはくれなかった。 見た目よりもかなり大変な乗馬も加えて、絶対ゆーくんの方が疲れてるのに…、心配性な所は相変わらずらしい。 「いえ、そんな! ‥‥‥むしろ軽いくらいですよ。きちんと食べてますか?」 「食べてるよー、ゆーくんのレシピ重宝してるんだから!」 「そ、そうですか‥‥‥」 「譲くんばっかずるいー、私も昴おんぶしたかったのに!」 そんな彼に感謝を込めて微笑むと、眼鏡に手をやり慌てたように視線を逸らされる。 彼は昔から照れ屋さんで、お礼を言われたりすると、すぐに赤くなる。 ゆーくんはホントに分かりやすいなぁ。 そう思ってにこにこしていると、望美から不満の声が上がった。 「いやいやいや望美さん?あなたには鞄持ってもらってたんだから。」 …何故にそこにに食いついたんだ? おんぶしてほしいってなら分かるけど、おんぶしたいって… それでなくとも、一緒に飛ばされた鞄を持ってくれているのに。 「…あ、そういえば。どうして昴はこっちに飛ばされたの? 鞄があるくらいだから教室に居たんだよね?」 「うん…それが、よく分からないんだよね。なんか頭の中ぐちゃぐちゃしてて、よく思い出せないの‥‥‥」 …そうなのだ。 望美やゆーくんは、あの渡り廊下で津波に呑まれ、気付いたらこの世界だったらしい。 あたしといえば、その時は一人教室に居て。 何が起こったのか、思い出そうとするけど、喉まで出かかってはすぐ引っ込んでしまう。 …もどかしいな…… 「昴…、大丈夫だよ!もうちょっと落ち着いたら思い出せるって!」 「そうよ、焦らなくてもいいの。今はゆっくり休養を取って?」 「うん…、ありがとう望美、朔」 沈むあたしに、明るく元気を分けてくれる望美と、優しく気遣ってくれる朔。 …朔は、これから住まわせてもらう屋敷の持ち主の妹さんで、黒龍、の神子。 望美が白龍の神子だから、二人は対なのかな。 こっちに来たばかりだけど、 …なんだか姉が出来たみたいで、すぐに仲良しになれた。 そんな二人に励まされ、心が暖かくなる。 …そうだよね! 大変なのはあたしだけじゃない。むしろ、いきなり神子宣言された望美なのに。 なのに一人で勝手に沈んでたりなんか出来ない…! よしっ!と、自分に喝を入れ―… 「ふふ、話に区切りが付いたところでいいでしょうか?」 「!!」 「うわぁ、弁慶さんいつの間に!?」 「一応声は掛けたんですが、あまりにも話しに熱中しているようでしたので…、 驚かせてしまってすみません。」 …―た瞬間。 いきなり後ろから響いた声に、思わず飛び上がってしまった。 「いえ!それより、なにか用があったんじゃないですか?」 「ええ。昴さん、こちらへ来ていただけますか?」 「え?あたし、ですか?」 「はい、忘れているようですが、薬師の僕としては見過ごせないので… 腰、痛みませんか?」 「‥‥‥‥‥‥あ。」 …綺麗さっぱり忘れてた。 京邸に着いたら、一度弁慶さんに診てもらうんだった。なにやってるんだあたし。人様がわざわざ診てくれるっていうのに。 すみません!と頭を下げ、あたしは弁慶さんの後に続いた。 *** 「動き辛さや違和感はありますか?」 「いえ、もうほとんど痛くはないですよ。」 「そうですか、ですが念のため、失礼しますね。」 「はい、お願いします。」 先程と場所を変え、日がよく差し込む縁側に近い部屋に来た。 きっと、ここが一番見やすいんだろう。 それにしても、広い屋敷。 一体何部屋あるのか。早く慣れないと、確実に迷子になる。 なんとも的外れな事を考えながら、あたしは着物裾に手を掛けた。 …そういえば、いつの間にこんな格好になったんだろう。 望美たちも和装になってたよね? でも、なんでスカートだけ制服のまんまなんだろう。 ‥‥和洋折衷? 「…っこれは……!?」 …どんどん逸れて行くあたしの思考は、弁慶さんの驚愕の声によって引き戻された。 「え!?な、なんですか、そんなに酷い痣になってるんですか!?」 少なからず焦りを孕んだ声色に驚き、首だけ振り返る。 「いえ、そうではなく‥‥。 ‥‥昴さん、失礼ですが、背中に刺青などは…?」 「は?刺青?…いいえ、全く。」 ………刺青? 「そう、ですよね。…では、これは‥‥」 「これ?」 何の事だろう。 思い当たる節もなく、頻りに首を傾げるあたしに、弁慶さんは違い棚から鏡を二つ持ち出し、うち、一つをあたしに渡した。 それを自分の前に持ってきて、合わせ鏡をすると。 「‥‥っきゃあぁぁぁぁぁあ!!?」 「天満先輩っ!?」 「昴!?どうし‥‥‥‥」 ―――間。――― あたしの悲鳴を聞き、駆け付けた三人。 しかし。何故だか皆は、開けた御簾に手を掛けたまま固まってしまった。 「何やってんですか弁慶さぁぁぁんっ!!」 「弁慶ど、の…!?」 …と思ったら。 望美は、飛び掛かるような勢いで声を荒げるし、 朔はその目を大きく見開いてい唖然としてるし、 …ゆーくんに至っては、未だに硬直状態だ。 ‥‥‥? そこで、改めて自分の今現在の格好を思い返してみることにする。 えーっと。…腰を診てもらう為に、帯を緩めて、着物の裾を上げて(ほら!病院で心臓の音聞いてもらう時の、背中から、みたく)。 で、背後の弁慶さんは、何かを確かめるようにあたしの背中に触 れ て‥‥‥ 物凄い誤解を受けてる!? 「ああ!違う違う落ち着いて三人とも! 弁慶さんじゃなくて、これ!…あたしの背中‥‥!」 あたしは誤解を解くべく、慌てて彼等に背を向けた。 「…背中、ですか?…っ、な!?」 「なに、これ‥‥!?」 皆の視線の先。 それまで何も無かったはずの場所に刻まれている、 …―紋様。 「…どうやら、文字のようですね……”守”…?」 「”守”?」 「ええ……、この中心の模様です。」 「…あ、これ…草書?」 どこかで見覚えがあると思ったら、現代で言う゛草書体゛に酷似している。 でも、どうしてこんな…… 「神子、どうしたの? ――あ…!」 「白龍?」 この騒ぎを聞いてか、三人から少し遅れて白龍がやって来た。 そして、紋様を目にするや否や、幼いその顔を目一杯綻ばせ、 …あたしの背中に抱きついた。 「みんな、”そこ”に居るんだね!よかった、みつかって! 昴が、守人なんだね。」 02:歯車は、廻り出す。 (あの、とりあえず背中仕舞っていいかな? 恥ずかしい……) 09/5/2 re:11/5/4 |