09-3



それから。


思うよりゆっくりと、少しだけ回り道をしながら歩いていたあたしと将臣君が梶原邸についたのは、もうすっかり日が傾くころだった。


なんだか今日は慌しかったけど、
いまは幾分か落ち着きを取り戻している。(と、思う。)


さて、今日の夕飯はどうしよう。
もうゆーくんが何か作ってるかなぁ?

そんなことを考えながら、門をくぐる。


居間にいた景時さんと白龍にただいまを言って、
望美を探しがてら、土間へ向かう。
(ちなみに将臣君とはそこでわかれた。)(夕飯まで寝るとか言ってたなぁ。)

案の定、そっちからはご飯を炊く匂いがしてきて、思わず顔が綻ぶ。
そして、この場には珍しいことに、その奥から望美がひょっこりと現れた。

こんなとこにいたのか。道理で探しても見つからないはずだ。
(だっていつもはさっきのメンバーの中にいるはずだから)




「あ、お帰り昴!どうだった?」
「うん、バッチリ儀式してきたよ!
もうね、あたしの背中はどんどん賑やかになってく。
それより、一緒に行けなくてごめんね。望美の方こそどうだった?」
「それがね!!じゃじゃーん!!なんと、先生も八葉だったの!!」
「え、ホント!?先生って、望美が会いたいって言ってた例の人だよね?
すっごい偶然!」



望美が身振り手振りをつけて、すごく嬉しそうに跳ねながら力説をする。
そりゃあ、会いに行った相手が新たな八葉だったなんて、びっくりもするし、ちょっと漫画染みてる。
世の中すごい偶然ってあるものなんだなぁ…

ん?確か、望美は『その人から話し掛けてくれて教えてくれた』って言ってたから…
もしかして、八葉だって事知って…?

…そんなわけないか。



「でしょでしょ!?あ、先生!丁度いい所に!」




意味も無い逡巡をしているあたしの前に現れたのは、
金糸の髪に映える碧眼が綺麗な、とても背の高い男の人。



「先生、この子がさっき話した天満昴、私の親友です!
昴、こちらはリズヴァーンさん。
私の剣の先生だから、先生って呼んでるよ。」
「リズ先生ですね!
はじめまして、天満昴です。よろしくお願いします!」




しゃきっと腰を折って挨拶をしたときだった。
…一瞬だけ、この人の切れ長の瞳が見開かれたような気がしたのは。





「!……お前は…」
「?はい?」




…え、なんだろうこの反応。
もしかして何か失礼だった?

いや、今回は何にもやってないぞ。(景時さんのときの失敗は生かしてるし!)

じゃあ、どこかで会ったことあるとか?
……ううん、こんなに印象に残るような人、忘れたりしないだろうし…。

……。
なにかあったのかな?
思い当たる節もなく、彼の顔をボーっと眺めていると、
ややあって頭の上から声が降ってきた。




「……いや、何でも無い。
昴、だな。よろしく頼む。」
「はい!
あ、もし迷惑じゃなかったら、望美と一緒にあたしにも剣のこと教えてくださいませんか?」
「…うむ。」
「わ、ありがとうございます!」




なんだ。やっぱりあたしの気のせいだ。
威厳があるけど穏やかで、落ち着いた感じの大人の男の人だな。


うーん、大人の、って言うより、どっちかっていうと…




「…っ!!」




一瞬にして脳を占めた、その単語。
同時に絞められたのは、胸の奥。




―――あたしはすぐに、それを否定した。




***




……私は知らない。

この、“天満昴”という少女も。
“四神の守人”という役職も。

幾百、幾千と運命を繰り返してきたが、この運命は見たことが…無い。

違う運命に来れたのか?それとも…

これは、まったくの新しい運命なのか?

分からない。だが。




ひとつだけ、確かなことがあるとすればそれは…

天満昴の存在が、この時空の運命を、大きく握っているということだ。





願はくは
それが吉事であることを………。





09:見えぬ先、

(その果ては闇か光か、)


re:2012.2.18




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