08-2 「ほら、いつまでもふて腐れてないで!挨拶しよう?」 「いや、別にふて腐れてねぇよ。」 その後。相変わらずどこか釈然としないらしい将臣を、苦笑しながら宥める昴。 そんな、なんとも微妙な様子に痺れを切らしたのか、景時が声を発した。 「はははっ、でも急に飛び蹴りなんてビックリしたな〜 あ、オレは梶原景時!将臣くんだよね?聞いてるよ〜 こっちは朔。オレの妹なんだ。」 「初めまして、将臣殿。」 「ん、景時に朔だな。 ま、よろしく頼むぜ!」 景時を契機として、漸く自己紹介が始まったようだ。 兄に続いて朔も右手を差し出す。 「あ、さっき説明したけど、景時さんもゆーくんも、望美を守る八葉なんだよ。」 どうせちゃんと覚えてくれてないだろうからと、 一通り挨拶が終わった所で、改めて昴が八葉の紹介を始めた。 「へぇ、そうなのか。譲がなぁ…」 「な、なんだよ。」 「いや。んで、昴がその八葉ってヤツのリーダーだっけか?」 「…リーダー、って言えるのかは謎だけどね。」 あはは、と。どこか照れたように笑う彼女に将臣は目を細め、譲は頬を赤らめてそっぽを向く。 血の繋がった兄弟である二人の反応は、正反対。 …恐らくは反応だけでない。自分に対する理解も、彼女に対する認識も。 と、そんな彼等を見、ふと思い出したように昴が口を開く。 「で、将臣くんも八葉だよ。」 「………はぁ!?」 「えっ、嘘!?」 「だって、左耳の。それ宝玉でしょ?ね、白龍?」 それまでちらちらと彼の耳を見ていた昴は、漸く核心に触れた。 彼女の言葉で注目を集めたその場所には、 ―…確かに、濃紺色の宝玉が埋まっている。 「うん、将臣は天の青龍だよ。」 「やった、【兄弟で八葉】の予想見事的中!!」 小さな神様のお墨付きを貰った彼女は、図らずも自らの予想が的中したことに驚きながらも、手をぐっと握り喜んでいる。 白龍の言葉に驚きながらも、すぐに優しく微笑みながら望美に振り返る朔。 「気付かなかったわ。でもよかったわね、望美。」 「うん!」 暖かな微笑みでその顔を飾っている昴、望美。 けれども将臣の纏う空気は相反するものであった。 彼女たちを横目でちらりと見、ややあって、言いづらそうに将臣が口を開いた。 眉間には少し皺が刻まれている。 「あー、悪い。 …ずっとは一緒にいられねぇんだ。」 将臣の、その、一言で。 それまで和やかに微笑んでいた皆の顔が一瞬固まり、徐々に曇り始める。 予想だにしていなかった彼の言葉に、半ば聞き間違いかと将臣を見遣る昴。 望美は、ただただ驚きをその新緑の瞳に宿し、彼に問いただす。 「え!?なんで!?」 「八葉は神子を守る、一緒にいなきゃいけないよ。」 己が神子の言葉に続いて、白龍の純粋な正論が将臣に刺さるが。 それでもやはり、片手で白龍の頭に掌を乗せながら、困ったように笑う。 「そう言われてもなぁ、」 「どういう事だよ兄さん!」 戸惑い六割、怒り四割といった声色で将臣に詰め寄る譲。 …どうやら、彼の言葉が昴の顔を曇らせたことに対する憤りも無きにしもあらずのようだ。 そんな己のが弟の態度にわざとらしい溜息を零しつつ、将臣は頭をぼりぼり掻く。 「お前らがこっち来る前から、随分世話になってる人がいるんだよ。 そっちでの用事とかあるし、世話になりっぱなしじゃ悪いだろ?」 尤もらしい彼の意見に昴ははっとした。 そうだ。 彼は三年も早くこの世界に着いてしまっていた。その彼が、たった一人でこれまで生きてきたなどとは流石に考えづらい。 つまり、その間彼の世話をしてくれた―景時や朔のような存在が、将臣にもまた有るはずなのだ。 「っでも、」 尚も言い募ろうとする譲をちらりと見、昴はすっとその大きな瞳を閉じ、そして、ゆっくりと開いた。 …まるで、何かを察したように。 「まあまあゆーくん!仕方ないよ、そんな理由なら。 将臣くん、お世話になりっぱなしって性分でもないでしょ?」 「天満先輩…」 それでもどこか不服そうな譲に。 昴は思い出したように手をポンっと合わせた後、譲の口の前に人差し指をぴんと立てて断言した。 「それに、将臣くんが勝手にふらふら居なくなるなんて、今に始まったことじゃないよ。」 「おまっ…昴、」 途端に大げさにガクっと肩を落とす将臣と、ぽかんと口を開ける譲。 (あははー、ホント昴の言う通り!的を的確に射てるからなぁ。昴の指摘は!) 望美は思わず吹き出しながら、ふと横目で昴を見る。 彼女は一瞬目を伏せてから、確認するように言葉を紡いだ。 「…別に二度と一緒に行動出来ないわけじゃないよね?」 「あ、ああ。 用が無いときなら、会えれば一緒に行動出来るぜ?」 「…なら、大丈夫だよね、ね?望美!」 「うん、昴がいいならいいよ。 ちゃんと生存確認できたし!」 望美の意見を確認した昴は、先程の真剣な眼差しから一転。 へにゃっと彼女独特の表情を見せ、相も変わらず俯く譲の肩を叩きながら言った。 「てことで、ゆーくん、頼りにしてるよ!」 「っえ!?」 「だって、将臣くんこんなだし、ゆーくんのほうがよっぽどしっかりしてるもん! …ね?」 「は、はい…」 一瞬目を見開き昴を見つめた譲は、しかし再び顔を伏してしまう。 ただし、今回はうつむいても真っ赤に染まる耳が見えていた。 それを視界に納めると、昴はホッと肩をなでおろした。彼が兄に対し、何らかのコンプレックスを抱いていることを知っているのだ。 …もっとも、譲=照れ屋と認識している昴は、彼の耳が赤い訳を取り違えているのだが。 そんな幼馴染ズを静観していた望美は、 (…さすがすぎる。ナイスフォローかつ完璧なタイミングでの譲くんの扱いだ。 こんなこと惚れてる娘にさらっと言われたら、かなりクるんじゃないかなー。) …とか何とか思っていたそうな。 *** 「これで、青龍も天地が揃ったね〜。」 「あ、そっか。地の青龍は九郎さんだっけ。」 景時に続いて望美が言葉を付け足すと、はたと昴の動きが固まる。 …どうしたのだろうか? かと思うと、がばっと顔を上げて、どこか焦ったような表情で口を開いた。 「……望美。悪いけど、ちょっと外れていい?」 「え、どうしたの?もしかして具合でも悪い!?」 「あ、違う違う! あのね、将臣くんと神泉苑に行きたいの。」 「兄さんと、ですか?」 昴から、「将臣くんと」という発言が出た途端、譲が眼差しを鋭くしてじっと彼の兄を睨んだ。 その視線を受けた将臣は、眼を泳がせながら苦い表情をする。 …あのなぁ、俺にどうしろってんだ。 とか、そんなことを思っているに違いない。 「うん。今、九郎さんって神泉苑でしょ? だから、将臣くんに一緒に来てほしくて…」 「…あ、昴、もしかして契りの事かしら?」 「うん。さっきから早くしろって青龍が煩いんだよね… このままじゃいつまた乗っ取られるか分かんない 。」 「「「分かった。早く行ってきなさい!!」」」 ……、………。 二度目の犯行は許さない。いくら四神でも二度も昴の身体を乗っ取るなんて許すわけにはいかない! いろんな意味で!! 望美を始めに、一瞬で以心伝心の如く意見がまとまった一同は、あわてて彼女の後押しをする。 ただ一人、全く状況が分かっていない将臣は、うろたえながらも昴の後を追った。 「???おい昴、どういう事だよ。」 「えっと、…行きながら話すからとりあえず一緒に来て!」 08:さぁ、急げ! (ちょっと待って青龍!早まらないで!) (!?落ち着け昴!!) (気を許したら持ってかれるから無理っ!!) re:2012.2.17 |