08-1






「ほぉ―…。そりゃまた、お前もとんだ災難だったなぁ。」
「んー、そうでもないよ。
ひとりだったらそうだけど、望美もゆーくんも一緒だもん。
逆に、来れて良かったよ。向こうに三人がいないほうがよっぽどイヤ!」


将臣の意見に、昴は頭を大きく横に振って唇を尖らせた。


「…なんつーか、昴らしいな。」




第八話




突然の再会から暫く、やっと興奮が冷めたらしい昴は、将臣に、
『何故自分がここにいるのか。』
『今までどうしていたか。』
を一通り説明し。
そして、
『望美と自分に宛てられた役目』
についてもあらかた話し終えた。


そう簡単に信じられるようなものではないが、タイムスリップしたという時点でも相当な超状現象。
さらにいうと、抜群の適応力を有する将臣であるから、あっさりと彼女の言葉を信じたのだった。


一緒に飛ばされたはずの望美と譲が向こうにいると聞かされ、
今は昴に案内されながら桜並木を並んで歩いている。


「そう?…あ、いたいた!望美〜〜!朔〜〜!!」
「あ、おい!」


――と、少し先に見知った影を見つけた昴は前振り無しに駆け出す。

その先には、桜よりも少しばかり色濃い髪を揺らしている少女。

昴に呼ばれたその少女――望美も、彼女の声に気付いたらしく、ホッとした表情で駆け寄って来る。


「昴!
遅いから心配したよ。もうちょっとで捜しに行くとこだったんだから!」
「え、もうみんな揃ってるの!?うわぁ、遅くなってごめんね…!
…でもね!望美もゆーくんも絶対びっくりするよ!!」
「?、何かあったんですか?」
「ありましとも!
…って、あれ?ついて来て無い?」


望美に続いてやって来た、朔、譲、白龍、景時の顔を交互に見渡し、改めて後ろを振り返るが、そこには彼女のお目当ての人物はおらず。

代わりにもう少し奥へ視線を動かすと、桃色に映える青い影が揺れながら大きくなってくる。
直に、その持ち主の苦笑いが耳に届いた。



「ったく…お前、急に走り出すなよな。」
「将臣くん(兄さん)!!?」


果たして其れは、あの津波の中で逸れ、離れ離れとなっていたその人物であったのだ。


見事に重なった望美と譲の驚愕の声と、大きく開かれた眼。
予想通りの反応に、昴は満足そうに微笑んだ。




…が。



次の瞬間。
ほんの数秒前まで驚きを宿していた彼等の瞳は、ともすれば怪しいとさえ表現できる色に変わる。
そして、将臣が片手を挙げて声を掛けようとしたときにそれは起こった。


「よっ!久しぶりだな。
見たところ元気そぐはっ!!



スザアァァァァァァ!!
(地面を滑る音)

すちゃっ。(着地の音)





…――――間――――…






「…っ痛ぇえ!!いきなり飛び蹴りはねぇだろお前ら!?
一応ここ感動の再会じゃねぇか!!」




……本人も豪語している感動の再会場面で将臣が頂戴したものは、
力いっぱいのハグではなく、力いっぱいの跳び蹴りであった。

息ぴったりの華麗な攻撃に、彼は…それは見事なスライディングを披露しました。

大声で非難する将臣に対して、望美も譲もけろっと……むしろ清々しいほどの笑みを浮かべている。


「だって、次会ったらこうしようって決めてたから。」
「なんでだよ!!?」
「自分の胸に手を当ててよく考えてみるんだな。」
「……何なんだこいつら……」


服に付いた土をぱたぱたと落とす将臣、ガッツポーズを決めている望美を見て、昴はくすくすと笑った。


「あはは、二人とも嬉しいんだよ。」
「…どこをどう見たらそう思えるのか不思議だぜ。」
「え―、分からない?」


そんな昴に対して、将臣は信じられないようなものを見る目を向ける。


「大丈夫!将臣くんは愛されてるよ。」


対する昴は、眩しいものを見るかのように目を細めて彼を見つめていた。


(…よかった。
望美もゆーくんも、あんなに生き生きした顔してる。)


恐らく、気付いてないのは将臣だけ。
その証拠に、先程の蹴りには驚いていた朔も景時も、今では優しい笑みを浮かべているのだから。









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