07-2 ………―――あの時。 あいつがあの場に居合わせなかったことに、心底ホッとした。 あいつが、こんな危ねぇ世界に来なくて、本当によかったと思った。 一緒に飛ばされたはずの望美と譲を捜したが、どこにもいやしなかった。 だが、こっちに来ちまってることは確実だから、 生きてさえいれば、いつか会えるだろう。 …まぁ、こうなっちまったもんはしょうがねぇし。 何とかして生きてく事が優先だ。 そんな感じで、暫くはがむしゃらに過ごした。 ………だけど。 生活に慣れて、余裕が生まれてくると同時に、ある疑念が俺の中で浮上してきた。 ――もう二度と、帰れないんじゃないか…?――と。 その頃からだ。 あいつが頻繁に夢に出てくるようになったのは。 『昴、わりぃ! 古典の宿題見せてくんねぇか!?』 『もう、またぁ? しょうがないなぁ、将臣くんは。』 つい最近の事なのに、なんだか酷く昔の事のように思えて。 『助かったぜ。今度何かおごるからさ!』 『あ、言ったな!? 駅前の新作ケーキ3個くらいおごってもらおっと!』 『…太るぞ。』 『ひどい!!将臣くんそれは女の子には絶対言っちゃ行けないワードだよ!?』 ……もう二度と、 昴に逢えないんじゃないか…? ……その事実に気付いときから、どうしようもなく後悔した。 あの場に、昴が居なかったことを。 …俺は、 (アイツに危険な目に遭ってほしいのか?居なくてラッキーなんじゃねぇか) と。 何度も、そんな自分勝手な考えを否定したが。 時間を経る度に、否定仕切れなくなる。 ………逢いたいと、思ってしまう。 どうしようもなく。 *** 「そして、もうひとつのご報告ですが、安徳帝が――…」 「…―ああ、分かった。ご苦労だったな。」 「では、西国街道にて……還内府殿?」 「……昴?」 「はい?」 久々にやって来た京。 源氏の動向を探りつつ、目的を達成するにも、少しばかり時間に余裕がある。 たまにはゆっくり花見でもするか、と。 2、3人の兵に現状を確認しがてら立ち寄った仁和寺で、俺の瞳は。 桜色に包まれる、在るはずのない姿を捕らえた。 その影は、糸の切れた凧のように、ふらふらとその場を離れて行く。 「ちょ、ストップ!待てって…!」 「あの……」 「悪い!後だ! お前らは先に向かってくれ!」 「や、還ない……」 兵の呼び止める声にも構わず、 俺は、先程の呼び掛けで立ち止まった影に追い付くべく駆け出した。 風に靡く長い黒髪。 着物の下は、どう考えても見覚えのある学校のスカート。 ……―まさか ……まさか。 期待と疑惑に逸る鼓動は正直だ。 この近距離から見る後ろ姿に、もう間違いなんて無い。 「……昴!」 |