05-3










―――――間。―――――






「えっと…。
じゃあ、お願いします。」




数十分後。


激怒した望美と譲もなんとか平静を取り戻し、
喧しかった室内もしんと静まり返った。


「あの…なんかスイマセン。口付けとか…」
「え!?いいえ!俺はむしろう…(って何言ってるんだ俺は!)
じゃなくて、謝るのは俺たちのほうですよ!」
「?、何で?」
「だって昴ちゃん。
譲くんはともかく、会ったばっかりのオレにそんなことしなくちゃいけないんだよ?
それに…」
「それに?」



((…よりによって宝玉の位置が……))


右首筋と、鎖骨の間。



一歩間違えばものすごい誤解が生まれそうな位置である。

…もし。
襖を開けて、そんな光景が見えたら。

…全力で襖を閉めて駆け出す勢いである。



「…譲くん、代わろっか?」
「春日先輩!?」
「やだなぁ、冗談だよー!(半分)」
「???
えーーと、始める、ね。」



そう零すと、昴は静かにその大きな瞳を閉じた。


―――途端、場の空気が透き通り、厳粛なものへと変化する。

彼女に吸い寄せられるように部屋の中心に歩を進めた天地の白虎とは対照的に、
残されたものは自然と三人から距離をとる。



―――――リンッ…



響いた鈴の音を合図に、
それまで立っていた譲と景時が、何か見えない力に従うように、北面してスッと跪いた。


…天子は南面し、臣下は北面す。



刹那、三人が立つ点を結ぶように眩い光が漏れ出で。

その光に導かれるたかのように、昴はそっと瞳を、
そして、淡く色付く唇を開く。



…リン―――…



「……西天を司りし天地の虎よ。
汝等、我が身にして衰無し。
白輝・蓐収、
将の将たる証、
此処に示さん。」



…一言、ひとこと。


透き通る高い声で、
まるで謡うかのように言の葉を紡いだ昴は、
紫紺色に二人を映す。

そして、僅かに歩を進め、傅いたままの譲の前に来、
そっと腰を下ろす。


「…我、天の白虎。
乾と金の卦を以って
我が君に仕り候。」


鼻先僅か30センチ程の距離で、互いの眼を真っ直ぐに見、
譲がそれに応えるように言葉を返すと、
承ったと言わんばかりに昴は頷き。

そして、唇をそっと彼の宝玉へと運んだ。

それが済むと、今度は同じように景時の前に静かに座る。



「…我、地の白虎。
兌と金の卦を以って
我が君に仕り候。」


やはり同じように言葉を交わし、
そしてゆっくりと彼の鎖骨の間に口付ける。

そうした後、昴は再び初めの立ち位置へと戻り、スッと両手を胸の高さまで持ち上げる。

すると、譲、景時、両者の宝玉が目も眩むほどの目映い光を放ち出し。

そしてその輝きはやがて独立し、
昴の周りで孤を描く。
一通り旋回すると、
二つの光の玉は彼女の正面、腕を上げた位置へと吸い寄せられた。




「天地・陰陽、相交わりて相違無し。
八卦の理・万物の絆し
この躯を宿とし、その一切を背負わん。


我、此処を以って守人と為るを奏し奉る也。」





―――リンッ――…




最後の詞を紡ぎ終え、また鈴の音が響く。
その音とともに、宝玉から出現した二つの光の玉は、
昴の胸の内へとすうっと消えていった。




「………おわり、です。」


溢れんばかりの閃光も全て彼女の身に納まり。

あまりに神秘的な光景に呆気に取られていた者も、
その穏やかな声色に我に帰った。



「……な、なんか壮絶だった…!」
「え、そうかな?」
「うん、だって空気が違ったもん!
…それにしても凄い!みんなよくあんな台詞言えたよね!
照れたり噛んだりしなかったし…」
「あぁ、それがね、
あたしの意志で…っていうより、
"どうすればいいか知ってる自分"を見てるって感じだったんだよ。」
「ええ…、"宝玉が憶えている"とはこういうことだったんですね…」



昴も譲も、なんとも不思議な体験をした、と顔に書いてある。



「な、なんかさ。
さっきは全然そんなこと無かったけど、いざ思い出すと、なんだか凄く……
て、照れちゃうね〜〜、」



いくら誓いの儀とはいえ。
いくら無意識に動いていたとはいえ。

やはり改めて先程の行動を振り返ると、かなり気恥ずかしいらしく。
ははっと笑いながら、
景時は赤く染まった頬を指でぽりぽりとかいた。


「譲くん、どうだった?
大好きな昴からのちゅー!」

「なっ……!!?」
「?、どしたのゆーくん。」
「あ!や、いえ、なん、で、も……」



望美のその言葉で、先刻の光景がありありと蘇ったのか。
譲は、その顔をカッと真紅に染め上げたかと思うと…




ばたーーん!!



「えぇぇぇぇえ!!?」
「わ、ちょ、譲くん!!?」




……ぶっ倒れた。











06:儀式完了。(効用・卒倒他。)


(どうしたのかな、ゆーくん……)
(ふふ、譲殿も大変ね。
…昴は何か変わったことはあるかしら?)
(あ、うん。多分背中の模様が増えたよ!)







09/5/27
re:11/8/20



contop



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -