無防備な君に贈るキス | ナノ

 優しいキスを所望します

私は今日、一年付き合った彼に別れを告げようとしていた。

理由は彼の浮気癖が治らないから。

別れを告げるため彼を探して走り回れば、何とまぁ…



「…随分と楽しそうね」

「げっ、名前!」



最近よく一緒に居る所を見る女の子とのキスシーンに遭遇した。

私が同じ学校に居るの分かってる癖に大した度胸ね。



「ねぇ、アンタにとって私はどっち?」

「どっち、って何だよ」

「私が本命?それとも、――彼女が本命?」



私が本命だよ、そう言ってくれたら考え直そうと思った。

でも彼は、鼻で笑ったあと嘲笑うように私にこう言った。



「今はコイツが本命。お前の気の強い所好きだったけど、最近なんかウザくなってきてさ」

「そう、よくわかった」

「あ、あの…っ」



私は何か言おうとする彼女にニッコリと笑って



「そんな早漏、のし付けてあなたにあげる。でもその浮気癖には気を付けた方がいいわよ」



そう言って、私は足早にその場所を後にして屋上に駆け上がる。

あんな奴のために泣いてなんかやるもんか、そう思うのに涙が零れ落ちた。



「…っ、あんの早漏野郎、早漏のくせにっ、色んな女の子に手出してんじゃないわよ…!」

『ぶっ、――ははっ!』

「だっ、誰!?」



突然の笑い声に私が勢いよく振り返ればそこに居たのは

この高校で知らない人は居ない、不良と名高い亜久津仁で。



「なっ、何笑って…!」

「――お前、俺と付き合え」

「は?」

「聞こえなかったか」

「あ、あの…――っ!」



何を言ってるの、そう吐き出そうとした私の唇は亜久津によって強引に塞がれた。



「っ、んんっ!」



無理矢理に私の口内に入ってくる舌にその身体を引き離そうと力を込める。

けれど、男と女の力の差なんだろう…ビクともしなかった。



「もう一度言うぜ、俺と付き合え」

「…は、ふざけないでっ、アンタみたいな優しくないタイプ絶対お断り!」



そう、絶対お断りだ、アンタみたいな奴。

次に付き合うなら優しくて私を包み込んでくれるような人がいい。

もう、こんな風に傷付くのも泣くのもごめんだ。



「だったらどーゆータイプが好みなんだよ」

「優しくて私を傷付けない人。あと、他の子に見向きしないで私だけを好きで居てくれる絶対に浮気しない人っ!」



アンタには絶対無理でしょ、と言葉を吐き睨み付ければ

亜久津はニヤリと笑って、また私を引き寄せると噛み付くようなキスをする。



「ちょっ、人の話聞いてた!?」

「ちゃんとお前のタイプに当て嵌まってんじゃねぇか」

「は!?どこが…っ」

「俺は好きな女以外見ねぇし、浮気だって絶対ぇしねぇ。それに、――こう見えて惚れた女だけには優しいんだぜ?」



絶対に嘘だと思うのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう。



「半年前、お前ここで泣いてたろ」

「…半年、前…!なっ、何でアンタがそんなこと…っ」

「お前が俺がサボってた時に来たんだろ。…俺はその時のお前の泣き顔に惚れたんだよ」

「な、何それ…」

「一生名前だけを愛してやっから、俺を好きになれ」



ああ、ダメだ。だってこんなに一直線に愛なんて囁かれたからほだされてしまった。

コイツの言葉を信じてもいいかも、なんて思ってしまった。



「いっ、一個だけ条件…出してもいい?」

「何だよ、言ってみ?」

「ひとまず、」

「おう」

「…や、優しいキスを所望します、」



私がそう言えば、亜久津は一瞬だけ驚いたように目を見開いて

次の瞬間、驚くほど優しいキスを私の唇に落とした。




優しいキスを所望します
(これで満足か?)(私、我が儘だよ?)(知ってる)

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