青い春に起こりがちなあれこれ
ずっと冗談だと思ってた。
私の隣には切原くんがいて、そんな私達の数メートル先には同じ班のバカップルが手を繋いで歩いている。そのバカップルの彼女は私の親友だから、どれほど彼氏のことを好きかなんてことは毎日聞かされてたから知ってたけど、マジか。マジでやっちゃうのかそこのバカップル!

取り残された切原くんと私の間には何とも言えない雰囲気が漂っていて隣にいるけど目は一度も合ってない。と言うか、怖くて合わせられないって言った方が正しいけれど。


「修学旅行の自由行動のとき彼氏と回りたいんだけどダメ?」


修学旅行の班を決めて彼氏と同じ班になって喜んでいた親友が度々言っていた言葉である。その度に2人で行動したら私、切原くんと2人だから無理だと言ってたしバカップルだけど親友だし私のそんな気持ちは汲み取ってくれて4人で行動すると思ってたのに…

待ちに待った北海道。
今の私の気持ちは超ブルーだ。

ひしひしと隣からは切原くんの怒りのオーラが伝わってきて、どれだけ私が嫌なんだろうかと傷つく。も、も、もちろん私だって切原くんと自由行動で回るのは御免被りたいのが本心だ。同じ班だけど私と切原くんはあまり絡みがない。私が切原くんのことを怖いというイメージで見ているから話せないのだ。

こうなったらお互いに別行動するのが一番だと思う訳で。


「……あ…あの…切原くん」

「…ああ?」

「私達別行動する、よね?」

「………は?」


ひぃぃっと思わず声に出てしまうんじゃないかと思う位の威圧感に私は怖じ気づいてしまって目を反らした。うー、やっぱり切原くん怖くて苦手だ、な。

暫くの間その場に立ち尽くしていたけど不意に切原くんが歩き出して数分ぶりに顔を上げれば私が顔を上げるのを待っていたかのようなタイミングで切原くんが振り返って「なにやってんだよ?さっさと行こうぜ」と立ち止まる。

「え…あ、はい」

思わぬ出来事に敬語になってしまった私を切原くんは馬鹿にしたように笑って、そして当たり前のように隣を歩き出していく。どうしよう……話すことない。

「にしてもよー。あのバカップルほんとラブラブだよな。見てて鬱陶しいけど」

ずっと沈黙が続くんだろうと思っていた矢先、切原くんが私に多分初めて笑いながら話しかけてきてくれて内心ちょこっと安心した。私と切原くんの共通点と言えば同じクラスでお互いの友達同士が付き合っているってことくらいだと思うからあのバカップルの話はひとまず時間を少し潰せるかもしれないから。


「ラブラブ過ぎて私はちょこっと羨ましい…か、な」

「え?苗字さんあんなのに憧れてんの?」

「私彼氏いたことないからね。あんなにラブラブしてるの羨ましいんだ」

「…そ…うなのかよ」


話を振っておきながら切原くんは興味ないのか、あっという間に会話に一区切りがついてしまった。けど、それからは話が反れて切原くんがテニス部での出来事を事細かく話してくれてあまりの面白さに私はクスクスと笑ってしまう。


「こないだ部室でお菓子食ってたらよ丸井先輩がやってきて当たり前のように全部持っていっちまってさ。ありえねえっての。しかも丸井先輩やたら高いお菓子ばっか持っていくんだぜ。容赦なさすぎだっての」

「丸井先輩って大食いで有名だもんね」

「いやいや、大食いとかそんなの理由になんねえって」


身振り手振りしながら、そのときの状態を話す切原くんは必死そのものだ。「お土産選びも大変そうだね」と言ってみると固まった切原くん。そんな切原くんに「お疲れさま」と伝えれば軽く頭を叩かれてしまった。

ちょこっと調子に乗りすぎちゃったかも。


「そんときは苗字さんも一緒に選んでもらうからな」

「え、私が?」

「連帯責任だっての」

「うっわ。理不尽だ!」


さっきまでの私はどこへやら。あんなに嫌だと思っていた切原くんとすごく楽しく会話が出来ていることに我ながら驚きだ。それもこれも、全部切原くんが私に対して気を使ってくれてるから出来てるんだから感謝しなくちゃいけない。

もしかして案外いい人なのかもしれないな。なんて。


「お、時計台見えたぞ!」

「おー!ほんとだ!北海道だ!」

「昨日から北海道な」

「あ、そうだった」


くすくすとさっきから何か話す度に私は小さく笑ってしまっている。それは私がアホなのか。それとも修学旅行というテンションが私をそうさせてしまっているのか、なんて、もう答えは分かんないけれど普段の私よりも今日の私は幾分か饒舌だ。

時計台を写メっていると切原くんが地元の方にカメラを渡して、少し噛みながら「…一緒に写真撮んねぇきゃ」なんて言ってくれたから私の心拍数は一気に加速してしまった。

少し距離はあるけれど撮ってもらった写真を確認すれば、あまりにもぎこちない笑顔を浮かべた私達がそこにはいる。なんだか、これ……


「君達可愛らしいカップルね」


シャッターを押してくれたお姉さんが去り際に言った言葉に私達は目を丸くさせてどちらともなく、ぶつかった視線を思い切り反らし合って、また目を合わせるという何とも言えない時間が私達を包んでいく。

そんな空気に耐えられなくなった私が次の目的地に行こうと伝えれば、小さく頷いた切原くん。何も言わずに私の前を歩き出した切原くんを追って私も歩き出せば急に立ち止まった切原くんに思わず私まで足を止めた。


「なあ苗字さん、俺が苗字さんと自由行動回りてえからってあのバカップルに2人で回るように頼んだって言ったらどうするよ?」

「え?」

「…ようするに…だ、な」


目の前にいる切原くんの顔が徐々に真っ赤に染まっていくのが目に見えて分かる。私はと言うとさっきから心拍数がはんぱじゃない。

「切原くんじゃなくて…赤也って呼んでもらいてえんだけど」


切原くん…もとい赤也はそれだけ言うと私の手を握って歩き出していく。ふわふわ、ほわほわ、びくびく。色んな感情が私の中を巡って処理に着いていけない。

けど、

赤也の一面を知ってしまった私はこれから赤也と2人でいることに幸せを感じ始めちゃっているようだから多分、もう恋に落ちちゃったのかもしれない。


修学旅行で告白されるだなんて少女マンガ的世界だと思っていたけど、あまりにも甘酸っぱいこの気持ちは嫌いじゃない。
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