暖を取る

 鉄で出来た水底のメロピデ要塞が夜になると気温が下がることを、私はここに来てから知った。もちろんあの北の雪国スネージナヤや東のドラゴンスパインに比べれば、その寒さも穏やかなものだけど。上着がないとうっすら冷えを感じるし、眠る時には毛布だって必要になる。故に、温もりを求めてしまうのは仕方がない。仕方がないのよ。

「……ナマエ」
「はい」
「それはな、流石に冷たい。あんた冷えすぎじゃないか?」
「あなたは暖かいのねぇ」
「こら、誤魔化すな」

 魔が差したというか、なんというか。あまりにも爪先が冷たくて寒かったから、つい隣にいる彼の足に自身のそれを絡めてしまい、今こうして怒られている。だってこの人、思ったより体温高いんだもの! 私が冷え性なのが悪いけど、隣にこんな湯たんぽがいるのも悪いのよ。
 咎められはしたけど拒否はされなかった私の足は、そのまま彼の足に絡んだままだ。

「もしかして、手もそうか?」
「昔から冷え性なのよね」
「……しばらくコーヒーは禁止な」
「や、やだ!」

 確かにカフェインが要因の一つなのは知っているけれど、それは私の血液みたいなものだから奪わないで欲しい! とはいえ正論をぶつけられれば為すすべもなく。
 露骨にしょぼくれている私の手はいつの間にやら彼の手の中へ。挟むように包まれ、むにむにと揉まれている。やっぱりこの人、暖かいなあ。うとうとしてきた。さすがに眠いかも。
 
「おいで」
「ん」

 誘われるままに腕の中へ。ここが一番暖かいから、もう一生手放せないかもなあ。おやすみなさい。

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