その胸に香りゆく

「どうして私だけカップが違うの?」

 目の前に置かれたティーカップに一瞥し、私は思わず率直な疑問を口に出してしまった。私の発言に対して向かいの席に腰掛けていたヌヴィレット様は少しだけ目を丸くし、隣の席にいるクロリンデは「ふむ」と一言呟きそのまま黙り込んでいる。二人の前に置かれたティーカップは密集した小さな黄色い花が特徴的なミモザ柄をしているけれど、私の目の前にあるのは青いビオラが描かれた綺麗なカップだ。紅茶の用意をした当の本人は澄まし顔で斜め前の席に腰掛け、私の疑問に答えるかのようにこちらに視線を向けた。

「特に意味はないさ。強いて言えば、あんたに似合うと思った」
「……そ、そう?」
「……ふっ……くく……」

 腑に落ちない気持ちのまま返事をした私と同時に、隣のクロリンデが何故か耐えきれずに右手で口許を多い笑い声を零している。あなたってそんなに笑うような人だったっけ? それより、これが何を意味してるのかわかっているというのだろうか。視線を前に戻せばヌヴィレット様も訳がわからないといったような複雑そうな表情を浮かべている。

「本当に深い意味はないから気にしないでくれ」
「……ならいいけど。それにしても綺麗なカップね」

 もう一度カップに視線を戻す。残念ながら私は茶器にあまり明るくないから、このカップがただとても美しいということしかわからない。念を押すように意味はないと言われてしまうと、逆にその真意を問い正したくなってしまう。けれど、今は水の上から来てくれた二人の訪問者をもてなすお茶会なのだから、私は諦めて温かいティーカップに手を伸ばした。


 ***


「最後まで気付いてなかったな」
「うわ、クロリンデさんはわかったのか」
「少し考えれば気付く。それにしても、青のビオラか」
「それ以上掘り下げないでくれ、さすがに照れ臭い」
「直接言ってやればいいのに、あの子なら喜ぶだろう」
「こういうのは紳士の嗜みなんだよ」

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