「はあ、はあ」
少女はサッカーボール片手に通路を走っていた。この広い施設の中を全力で駆け抜けてゆく。もう限界は超えている。ただ、早くここを出なければという気持ちが彼女を走らせていた。
リンドウの慕情
角を曲がると、警備ロボットが3体立っていた。
『モノハ、発見』
『捕獲シマス』
「……どいて」
ロボットに向かってボールを蹴りつけると、ロボットは一瞬動きを止めた。その瞬間にロボットの間を抜ける。
(もう誰かに見つかってるみたい)
もう防衛用のボールはない。でも、出口はもうすぐ。そこまで行けばとりあえずは大丈夫なはずだ。
出入口の手前にあるホールまでやって来た。やっと出られる、そう思って走り出す。
「一羽」
「、」
よく知る声だった。ああもう、どうして最後の最後に現れるんだろう。一羽と呼ばれた少女がゆっくりと振り返ると、そこには赤髪にオレンジのダウンジャケットを着た少年がいた。
「ヒロト……」
「どこに行くの?」
「……」
答えられない。というより彼は答えがわかってて訊いている。
「そこから逃げて、どこに行くつもりなのか訊いてるんだよ」
「……言えない」
「ふーん」
大体予想はついてる顔だった。
「逃げれば?」
「どうして」
「逃げたってすぐに捕まえるから」
「捕まらないよ」
「無理だね。キミはグランに逆らえない」
「……っ」
「早く行きなよ。じゃあね、一羽」
完全にナメられている。一羽は笑顔で手を振る少年、ヒロトを力いっぱい睨み付けた。
「私は、グランなんか大嫌いだ」
それを捨て台詞にして、一羽はヒロトに背を向け出入口に走った。
一羽が外へ出るのを見送ったヒロトは目を細め、ゆっくりと口角を上げる。
「モノハ……逃がさないよ」
*
やっと携帯の電波が通じるようになった。一羽はキーを操作して、携帯を耳元にあてる。
『もしもし』
「もしもし、瞳子さん」
『……一羽ちゃん?』
「はい。あの、お願いがあるんですけど───」
それが、少女の小さな反抗のはじまりだった。