北海道に来てから数日経ったわけだが。
ザッ、と雪の上に擦れる音が足元で鳴り、一羽は真っ白な斜面を滑る。頬に当たる冷たい風の刺すような痛みをこらえながら、ただ一点をまっすぐ見つめていた。
何かが近付いてくる音、それを感じた一羽はぐっと身を低くしてから、自分の身体をバネのようにして高くジャンプをした。
少しふらつきながら着地して、後ろを見ると巨大な雪玉。
「よっしゃ」
「一羽ちゃん、前!!」
秋の声ではっと前を向くと、アナザー雪玉がこちらに向かってきていた。慌てて体重を後ろにかけ、なんとか雪玉を避ける。が、そのまま仰向けに倒れてしまった。
目の前に広がるくすんだ水色の空をなんとなく眺めていると、視界に青いヘルメットが映る。吹雪だった。
手が差し出されて、それを取り起き上がると、吹雪は少し上目遣いでふにゃりと笑った。
「いつもボクが来ないと起き上がらないでしょ」
「まあ……ぼーっと」
吹雪は一羽の服に付いた雪をぽんぽんと叩いて払う。今の動きすごかったねー、と呟く吹雪の後ろを円堂が盛大に転がっていった。円堂はすぐに起き上がり「避けたぞー!」と叫んでまた滑っていく。
「みんな、だんだん上手になってるよ」
「そうだね」
「喜ばないの?」
「別に……練習すればできることができるようになっただけでしょう。いちいち喜ばなくても」
ふと吹雪の動きが止まり、ぽかんと一羽を見つめる。そして、突然笑いだした。
「水原さんって、なんだか面白いよね」
「今のどこに面白い要素があったの」
一羽がむすっとして吹雪を睨むと、吹雪は「ごめんごめん」とまた笑った。
「ファニーじゃなくてインタレスティングの面白い、だよ」
「ふーん」
いまいち意味がわからなかった一羽が適当な返事をすると、今度は吹雪が少しむすっとした顔で一羽を見た。
「水原さんって笑ったことある?」
「は?」
「キャラバンのみんなも水原さんが笑ったところ見たことないって言ってたし」
なんで聞き込みしてるんだ。
「そんなのどうでもいいでしょ」
言って、視線を吹雪から外す。あ、そうだ、と吹雪が弾んだ声を上げた。
「それなら、ボクが水原さんのこと笑わせてみせるよ」
一羽の腕にそっと吹雪が触れる。体が強張る。見てないからわからないけど、きっと吹雪は今もふにゃふにゃへらへらと笑っているんだろう。一羽はスノーボードを着け直して吹雪に背を向けた。
「水原さん?」
「そういうの、いらないから」
言ってまた緩やかに滑り始める。吹雪はそれを見て、なぜだか嬉しそうに、ほんの少し口角を上げた。
突き放すのは嫌い、それでも、深く関わりたくないなら仕方ないこと。もやもやとした何かを胸に残しながら、一羽は意識を目先の雪玉に切り替えた。
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