特訓を始めて2日目の夜。まだスノーボードに慣れない雷門イレブンは夕食を食べるために白恋中の校舎にいた。

「ちゃんと30回噛んでくださいね!」

そう言いながら春奈が夕食を出した。瞳子の指示で、皿にはほんの少しの食べ物しかない。それを見た壁山が項垂れている。

「……あれ、風丸くんは?」

ふと、秋が声を上げた。席がひとつだけ空いている。まだ練習してるんだろ。土門の言葉に秋はうーん、と顎に手を当てた。

「もうご飯の時間だし、そろそろ呼びに行ったほうがいいよね」
「私、行こうか」

一羽が小さく声をあげた。

「え、でも、」
「マネージャーはマネージャーの仕事を頑張ってよ。どうせ暇だし」
「そうね……」

秋は少し視線を迷ってから、じゃあお願い、と笑った。

「任せて、絶対連れてくるから」







風が強い。
ダッフルコートに身を包んだ一羽は、ハーフパイプのところにやって来た。静かな雪原に、スノーボードを滑る音が響く。一羽はそれをしばらく眺めていた。
やがて一羽に気付いたのか、スノーボードが止まり、風丸がこちらに手を軽く挙げた。スノーボードを抱えて向かってくる。対峙して、風丸がなんだ水原か、と笑う。

「そろそろ練習は終わりにしよう。夜ごはんの時間だし」
「いや、もう少しだけここにいる」

夕飯は後で食べるから、と言う風丸の腕を一羽が突然掴んだ。風丸は目を丸くして一羽を見る。

「ど、うした」
「だめ。戻ろう」

ぐっと強く見つめると、風丸は掴まれた腕と一羽の顔を順に見て、わかった、と少し諦めたような返事をした。



「でもさ、風丸の思うことは自然だよね」

風丸の少し前を歩く一羽が口を開いた。は?風丸は間の抜けた声を上げる。

「エイリアに勝ちたい。そのためにもっと力をつけたい、だから一人で練習なんてするんでしょう」
「……ああ」
「その気持ちわかるよ」
「え、」
「私も、追い付くために必死だったからね」

なんの話だろう。風丸が考えている間にまた一羽は喋りだす。

「でも、ごはんは皆で食べなきゃ」

雪を踏み締める音が耳を包む。

「独りの寂しさを覚えちゃいけない」
「なんか、やけに喋るな」
「普段余計なことを言わないだけだよ」

一羽の声は淡々としていた。けれど、それはなんだか一羽自身にも言い聞かせているような、そんな感じだった。

「お前、自分の家は──」
「知って何かいいことでもあるの」
「……いや、」

風丸はそれ以上何も言えなかった。一羽の言い方が、さっきの諭すようなそれとは違っていたから。
どうしてこんな事を思うのか、自分でもよくわからないけれど、ただ彼女について何か知りたい、とひどくそんな気分になった。





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