次の日、吹雪が特訓場に連れてきてくれたわけだけれど、そこは雪でできた深いハーフパイプみたいな場所で、その特訓というのが、
「……スノボ?」
疑問符を浮かべる雷門イレブンをよそに、吹雪はヘルメットを着用している。
「さっきの試合で思ったんだけど……キミたちにはスピードが足りてないよね」
風丸が表情を強張らせた。気にしてた事なのかもしれない。
「スピードを身に付けるには、自分も風になればいいんだ」
言うと、地面を軽く蹴り、斜面を滑っていった。風にマフラーが流れる。すごいです!春奈がぱちん、と手を合わせた。
「みんな、お願い!」吹雪が叫んだ。一羽たちの立つほうとは反対、ハーフパイプを挟んだ向こう側にはいつの間にか白恋イレブンがいた。そしてなぜか彼らの前には、巨大な雪玉。
それが、吹雪めがけて転がってきて───
「危ない!」
円堂が叫ぶ、その瞬間に吹雪が高く跳んだ。雪玉を飛び越えて、軽やかに着地。続いてやってくる雪玉も右へ、左へと避けていく。
やがて雷門イレブンのもとに颯爽と戻ってきた。
「雪がボクたちを風にしてくれるんだよ!」
「なるほど……速くなればなるほど感覚が鋭くなる。そうすると自分のまわりがはっきり見えてくるという原理か」
鬼道の呟きに、吹雪は軽く頷いた。そしてふにゃっとした笑顔のまま、「みんなもやってみて」と指を差した。その先にはヘルメットと膝当てとスノーボードがずらりと並べられている。
それを見た皆はそこに集まりわいわいとヘルメットやらを着けはじめた。
*
よーしいくぞー!円堂が意気込んで滑り出した。が、
「わ、わあああ!?」
ばたばたと両腕を振り、そのまま転んだ。それを見て慌てて追いかける風丸も同じように転ぶ。
「むずかしく考えないで、こういうのは楽しんだほうの勝ちなのさ」
2人を起こしながら吹雪が言う。すると染岡が突然顔を上げた。
「おい、待てよ。オレたちは努力と根性で苦しい特訓を乗り越えてきたんだ!それを、楽しんだほうの勝ちだと?ふざけんな!」
「うーん、努力とか根性だとか……疲れるなあそういうの」
「んだと!?」
「あ、そうだ。みんながボクのやり方に合わせる、っていうのはどう?」
「何言ってんだてめえ!」
今にも飛びかかりそうな染岡。その後ろで鬼道がぼそり。
「確かに、白恋は吹雪の能力を活かした1トップのフォーメーションだった……だが吹雪、雷門は違う。染岡と2トップを組むんだ」
「そんなこと、急に言われても……」
ふにゃり、が苦笑いに変わった。確かに、いきなり自分のサッカーのスタイルを変えろと言われても難しいかもしれない。辺りの空気が沈む。
「──俺は、吹雪に合わせてみる」
沈黙を破ったのは、風丸だった。
「風丸!」
「俺たちは強くならなくちゃいけない。それなら、練習するしかないだろ」
渋い顔をする染岡に一羽が近付き、肩にぽんと手を置いた。
「まずはやってみたらどうかな。不満を言うのはその後」
「…………」
ちっ、と軽く舌打ちをして「勝手にしろ」と言う染岡。それを見た円堂はまだまだ続けるぞ、と言ってまた滑りはじめた。そして向こうのほうでまた、転んだ。
「感覚が鋭くなる、か……」
一羽は皆の滑る様子を見て、くるりと振り返りヘルメットに手をかけた。ダッフルコートを脱いで秋に渡す。
「持ってて」
「一羽ちゃんもやるの?」
「うん。本当に効果があるのか、実際にやってみないとわからない」
スノーボードを足に固定させる。一羽さんって意外にアクティブなんですね、春奈が言いながら背中を押した。
ざっ、斜面を一気に滑り降りる。これだけでもスピードに体が追い付けなさそうだったが、そこはなんとかこらえて、ハーフパイプの底に着いた。速さのせいで周りは真っ白、何も見えない。
「大事なのはバランス、重心、それから、」
さっきの吹雪の滑りを思い出しながら呟くと、目の前に丸い雪玉が広がって、そのまま激突した。ばたん、仰向けに倒れると視界にたくさんの青いヘルメットが増えていく。
「水原!大丈夫か!?」
「集中力……」
「は?」
円堂と一之瀬に支えられて起き上がると、吹雪がふにゃふにゃと笑っていた。
「水原さん、やったことあるの?」
「ううん。ないけど」
「じゃあ始めて?すごいね、フォームもいい感じだったよ」
「ありがとう」
そりゃあ、吹雪の姿勢を真似したからね。
「もっと楽しんでいこう。楽しめば、体も自然についてくるよ!」
一羽は「はあ、」と曖昧な返事をしてまた滑り出した。
そんなこと言ったって、楽しみ方がわからないからどうしようもないじゃないか。
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