目を覚ますと身動きがとれなかった。もこもこした何かに包み込まれているようだ。目の前には、低いドーム型の天井。

ああ、寝袋。思い出した。もぞもぞと手を胸の前まで持ってきて、ファスナーを奥にやった。ゆっくり起き上がると、隣で眠る春奈が寝返りをうつ。外はまだ薄暗い。

(……しばらくこんな生活を送るのか)

ほんの少しだけ、研究所のふかふかベッドが恋しくなった。





朝日もすっかり昇りきって、みんなはマネージャー陣の作ったおにぎりを頬張っている。
そんな中で、目の覚めるようなホイッスルの音が響いた。瞳子が腰に手をやりながらにやりと笑って言う。

「みんな、出発よ!」



走るキャラバンの中、春奈が立ち上がり「新しい情報が入りました!」と言った。いつも頭にある赤ブチ眼鏡をちゃんとかけている。

「響木監督の言う通り、北海道の白恋中に強力なストライカーがいるそうです。名前は、吹雪士郎」

これが写真です、と差し出された写真を見る……が、見事にピンボケしていてよくわからない。

「噂では熊殺しの吹雪、と呼ばれているそうですよ」
「熊殺し……おっかないッス!」
「でも、仲間になってくれれば頼もしいと思うぞ」
「……そうッスねぇ」

(熊殺しの吹雪……か)

どんな奴だろう。


気付くと窓の外は真っ白な雪景色だった。白恋中も近いぞ、と運転手の古株さんが言う。

「……古株さん、止めてください!」

円堂が何かを見つけたようだ。円堂たちはキャラバンを降りていった。
窓から見ると、彼らの中心には見慣れないジャージを着た少年がいた。少年を連れてキャラバンに戻ってくる。

「瞳子監督!こいつ、遭難してるみたいなんです。入れてやってもいいですよね」
「ええ」

水原、隣いいか?と円堂が訊いてきた。頷くと、一羽の隣に芥子色ジャージの少年が促されて座る。一羽より小柄でガタガタと震える姿は、なんだか頼りない小型犬のようだった。




「……ふう、もう大丈夫だよ。ありがとう」

秋が持ってきたココアを飲みながら、少年はふにゃりと笑った。

「ところでおまえさん、どこまで行くんだ?」

古株さんが訊ねる。

「……蹴り上げられたボールみたいにひたすらまっすぐに」
「いいなあその言い方!おまえ、サッカーやるのか?」
「うん、まあね」
「そっかー、じゃあ……」

円堂が話そうとしたところで、キャラバンが大きく揺れた。窓を覆う黒くて大きな何か。春奈が叫ぶ。

「く、熊ぁぁ!!」

車内はぐらぐら揺れる。そんな中、隣に座っていた少年が立ち上がりキャラバンを飛び出した。

バシュン、サッカーボールを力強く蹴るような音が響く。ゆっくり窓を覗くと熊がゆらりと倒れていくところだった。皆が呆然とする中、キャラバンに戻ってくる少年。

「もう大丈夫だよ」

ふにゃりと笑う。それを見た土門と一之瀬が、まさかなぁ、と顔を見合わせた。
少年はちらりと外を見る。

「あ……ボク、もう降りるね」
「え、もういいのか?」
「うん。ここからは歩いて行くよ」

そう言うと、そそくさとキャラバンを出ていった。ふわふわと少年のマフラーが揺れる。


何だったんだろうな、あいつ。塔子が言葉を残し、キャラバンはまた走り出した。





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