キャラバンの外でしばらく待たされて、やがてさっきのジャージに着替えたマネージャー達が出てきた。オレンジジャージの秋が顔の前で手をぱちん、と鳴らした。

「今から、ごはんを作ります!」

その言葉に、夏未は腕組みをしたままふっ、と鼻を鳴らす。するとキャラバンから台所のようなセットが展開された。

「このキャラバンには料理のための設備も完璧なのよ。さあ、何を作るの?」

自慢げに話す夏未を見て、残りのマネージャーは苦笑いしながらはんごうを取り出した。



一羽はアナログにはんごうでごはんを炊くマネージャーをぼーっと眺めていた。森の中からボールを蹴る音が聴こえる。ちゃんと練習してるみたいだな。
時々森を飛び出すボールを見ていると、秋と夏未がはんごうを持ってやってきた。

「一羽ちゃんもやろうよ!」
「私、監督補佐だし」
「同じようなものでしょ」
「…………」
「おにぎり、握ってくれる?」
「……わかった」

手に水を付けて、ごはんを手に取った。熱くないの?と秋が不思議そうに見つめるのに軽く頷いた。ほんとはまあまあ熱いけど。所詮見栄っ張りである。

「じゃあ、まだまだやらなきゃいけない事あるから、おにぎりは任せてもいい?」
「うん」

マネージャー達は、汚れたタオルとオレンジのボトルをたくさん腕に抱えて向こうに行ってしまった。マネージャーって大変なんだな。

(少しでもあの子たちの負担を減らさねば)

意気込んで、黙々とおにぎりを作り続けた。




「……ちゃん、一羽ちゃん!」
「え」

秋に呼ばれてはっと気付いた。机の上にはおにぎりの山がそびえ立っている。そして目の前には空っぽのはんごうが二つ。

「はんごう一個分だけでよかったんだけど……まあいっか」

作りすぎたらしい。

「……ごめん」

謝らなくてもいいよ、と笑う秋の後ろから、「おにぎりがいっぱいッス!」と声が聴こえる。それに周りもざわざわしてきた。よく見ると空はわずかに赤みがかっている。練習を終えた雷門イレブンが戻ってきたみたいだ。

「水原ちゃんってさ、クールっていうより天然なかんじじゃね?」
「言われてみればそうかもな」

などと土門と一之瀬が笑いあっている。また変なイメージがつきそうだ。

「みんなお疲れさま!おにぎりどうぞ!」

秋の言葉に、全員がおにぎりに向かった……ところで、「待ちなさい!」と夏未が立ちふさがった。
手は洗ったのかしら?と夏未が訊ねた瞬間、全員の掌が一斉に差し出される。夏未は少したじろぎながらよろしい、と告げた。おにぎりの山の前にみんな集まりだす。



ゆっくりと染岡と風丸に近付いてみた。もう怪我のことを心配する必要はないみたいだ。一羽を見た染岡は目を逸らし、「あーあー、おにぎりがうめぇや」とかなんとか、わざとらしい大きな声で言っている。

「そのおにぎり、私が作ったんだけど」
「なっ!?」

気まずそうな顔をして、口におにぎりを詰め込みはじめた。照れ隠しのつもりなのか。
おにぎりが口の中に押し込まれていくのを眺めていると、背後から水原、と風丸に声をかけられた。

「すまなかった」
「なんの話」
「俺たちの足のこと監督に言ったの、お前だろ。あの時試合に出たままだったら……冷静に考えたら、お前の言った通りだよなぁと思って」
「わかってくれたならそれでいいよ」
「……そうか」

風丸は満足げな顔をしてまたおにぎりを食べ始めた。おい!と、今度は染岡が私を呼ぶ。

「さっきは……悪かったな、その……熱くなっちまったっつーか、だな」
「うん、私も少しムキになってた。お互い様」
「……ああ!」

にっと笑う染岡。良い笑顔だな、そう思いながら自分の頬に軽く手を添えた。



空が暗くなっていく中で、楽しそうな笑い声が森の中によく響いた。





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