彼女は目を開けた。どうやら仰向けに寝転がっているらしく、高いドーム型の天井が見える。
ここは、どこだろう。
「ティア……?」
声が聞こえた。まだぼやけている視界の隅に、白い影が映る。
「どうしてここに……」
輪郭が段々とはっきりしてくる。彼女の顔を覗き込んでいたのは、真っ白な少女だった。『白い』という事を除いてはその少女の顔に見覚えがあった。
「……アリス」
アリスと呼ばれた少女は、彼女の声を聞き怪訝そうに眉をひそめた。
「アリス、ここは?」
問いかけるが、少女は答えない。彼女は起き上がり、辺りを見回した。
部屋には、沢山の人形たちが並べられている。それから、アリスと自分を入れて4人の『人間』。だがそこに金色の髪を持った者はいない。
「……ジャックはどこ?」
ジャック、という名前を聞いた瞬間、少女ははっと目を見開いて表情を変えた。
「ジャック……ジャックに会わなきゃ。まだ訊きたいことがたくさん──」
振り向きざまに突然、頭を掴まれた。その力はものすごく強くて、振り払うことさえもできない。
「邪魔よ」
少女がぽつりと呟いた言葉、そのわずかに震えた声色に反するように頭がさらに痛みを増す。
「ねえ、ジャックを返して」
「アリ、ス……!?」
「ジャックの隣に居るのは私だけでいいの。だから、あなたはいらないのよ」
ギシッ、頭が軋む音がした。
「なんであなたが、」
「やめて……やめて、アリス」
少女の細い腕を掴み、引き離そうとするが、それも叶わない。ふふ、と少女の笑い声が聴こえた。
「そうだわメリー、お願いがあるの」
メェ、と鳴き声が聴こえた後、自然と目が閉じられてゆく。
思考も記憶も真っ白に塗り潰されたような感じがして、
「さようなら、ティア」
それでも、少女は笑っていた。
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