ティアはオズとエコーに追い付けなかった。すでに2人の影すら見えない。

「もっと……女の子をいたわりなさいよ……!!」

エコーも女の子だけどね……と付け足して、足を止める。

「もう、どこ行ったの!?」

気付けば随分と遠くまで来てしまったようだった。ギルバートの家もどこかわからないし。

「どうしろっていうのー……」

はぁ、とため息が漏れた、その時。

ド ン ッ

突然、背後から轟音。それと同時に襲ってくる悪寒。
このかんじは、

「チェイン……?」

何かが崩れる音が聞こえて、ティアは眉をひそめた。間違いなくこのチェインの感じはアリスではない。自分の勘を頼りにチェインの気配を辿り、路地を縫うように歩く。しばらく歩いたところでふと、もうひとつチェインが増えた感覚がした。この感覚には覚えがある。

「アリスだ……!」

アリスが力を解放している。そう思うと、次第に足も速くなっていった。



路地を出ると、そこでは──

「だめだっ……、アリス!!それ以上攻撃するな!!」

巨大な黒うさぎになったアリスが飛び上がっていた。それを大声で制しようとするオズ。
そしたその先には気持ち悪い芋虫みたいな生き物が地面に横たわっていた。

「ふざけるな!!この私を馬鹿にした罪──……その死を以て償わせる!!!」

アリスは叫んで鎌を振りかざす。と、

「……、」

また何かを感じた。
チェインではない、それは
懐かしい『あのひと』の姿──

「……やめろ……っ、アリスゥゥゥゥゥウ!!」
「…………な……!?」

オズが耳を突くような大声で叫んだ。すると、パンッと弾けるようにアリスの姿が少女のものに戻る。

「うっ……!?」

まるで上から何かがのし掛かっているように、地面にべたっと貼りついて動けなくなるアリス。歯を噛み締めながら、オズのほうを見つめていた。
一方のオズは違法契約者を睨み付ける。そこで、ティアは違法契約者の顔をしっかりと見た。

「……あなたは……!?」

汚れた服を着た不気味に笑みを浮かべるその男は、さっき少年が渡した写真の中で微笑んでいた
フィリップの父親だった。

オズが男に近付く。

「来るなぁ!!」

男は銃を取り出してオズに向かって撃った。
それはオズのすぐ横を掠める。

「オズ!!」
「どうして……こんなことに、なんで……あんたは違法契約者に──……!」
「うっ……あああぁあぁあ!!」

銃が乱射される。
その一発がオズの頬に当たった。

「は……はは……なぜ……チェインと契約したか……だと……!?決まってるだろう!!過去を変えるためだよっ!!」

男は狂ったように叫び続ける。

「あの時……友の言葉を信じたりしなければ……、家が没落することもなかった……。こんな惨めな思いをすることも、妻が病に倒れることもなく、フィリップだって……幸せにしてやれたんだっ!!」

ふと、雨が降ってくる。まるで、誰かの悲しみの気持ちを表したような雨。

「そうさ……私は……!息子のために人を殺してたんだよぉ!!!」
「──────!!」
「フィリップの……ためだと……?本気でそう思ってるのか……っ、あんたは!!」

さっきよりも鋭く睨みつけるオズの額に、男の銃口が向けられる。

「お……おまえに……私の何がわかるというんだ!!」
「だめ、オズ────」

ティアは手を伸ばし、オズに触れる。

すると、

「え、────!?」

何かが脳に流れ込んでくる感覚。それは初めてのことだったが、ティアにはなんとなくわかった。

「わたしの能力……!?」

他人の記憶や思考を読み取り、干渉できるチェイン『メリー』
それが、突然どうして──






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