ティアはアリスと路地を走っていた。

「もう追ってこないから……大丈夫かな……」

2人はだんだん走る速度を遅くしていく。

「ティア」
「なあに?」
「勝ったのは私なのに、なぜ逃げなきゃいけないんだ」
「うーん……ケンカは避けたいのよね」
「賭け事はケンカとは違うのか?」
「……うーん」

話しながらゆるゆる歩いていると、路地の隙間に人影が見えた。

「ねえ、あれ、オズじゃない?」

その隙間から、なんとなくこっそり覗いてみる。

「おまえもギルも、オレにとって大切な息子なんだ!」

そこではオスカーがオズとギルバートを抱き締めていた。

「……お取り込み中かな」

眺めていると、不意にティアの服の裾がぐいと引っ張られた。見ると、アリスがうつむいて首をゆっくり横に振っている。

「どうしたのアリス」
「…………っ」

ティアが訊ねると、アリスは何も言わずにティアに背を向け路地の奥へと走っていった。

「アリス!?」

ティアはアリスの走っていった方向とオスカーたちを何度か交互に見てから、

「……ああもう!」

路地の奥へ走った。



「アーリースー!」

名前を呼んでみるが返事はない。これで何度目だろう。声は虚しく路地に反響した。

「はあ……」

1人で探すのは大変だ。諦めて戻ろうかな、と身を翻したその時。


チリン、

「────!?」

背後からぞわりとした何かと、鈴の音。自分の鈴ではない、ほんの少し自分のものより低い音だった。ティアは返した身体を向き直して、ゆっくりと歩みを進めた。
しばらく歩いたところで、何かが落ちているのが見えた。

「リンゴ……と」

見慣れた人形が転がっている。

「エミリー……?」

エミリーを拾い上げる。

「なんでエミリーがこんな所に……」

チリン、

「……っ」

また、鈴の音がした。ティアはこの悪寒に覚えがあった。蟲のときに感じたものと同じだ。この勘が正しければ、

「……誰?」

チェインが近くにいる。

「隠れてないで出てきなさい!」

背中をぞわりとした何かが駆け抜けた。素早く振り返ると、そこでは黒い影が宙に浮いていた。ずるずるとティアに近づいてくる。

『ティア……!』
「!?」

瞬間、影がティアの目の前に大きく広がる。

「な、んで」

なんでわたしの名前を知っているの?
その問いが言葉に出ることはなく、ティアは影に呑まれた。






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