馬車の中で、鴉がさっき起きた出来事について話した。刻印の針が一周したら、違法契約者はアヴィスの最下層へと堕とされる。そして、オズはその違法契約者で──

「くそ!!」

アリスが側にあったクッションを鴉に投げつけた。それを鴉はさっと避ける。

「大体、そんな大事なことをなぜ今まで黙ってたんだ!」
「一度に全て話しても混乱すると思ったからだ」
「…………刻印を消す方法はないのか?」
「……一番てっとり早いのは、契約者とチェインの繋がりを断つことだな……」

鴉は一呼吸おいて、

「つまりおまえが死ねばいい。」

言い放った。

「却下だ!!」
「なら契約を解除する方法を探すかだ。どちらにせよおまえとオズを切り離す必要がある」
「あほか!それでは意味が……」

アリスはクッションを再び持ち、

「ないだろが!!」

鴉に投げつけた。そのクッションは、ばごっ、と音を立てて見事に鴉の顔に命中した。

「……っの バカウサギ!」

鴉からブチッ、と何かが切れる音がする。さっと取り出したのは拳銃。

「なら刻印のことは忘れて記憶探しに集中してろ!!」

アリスに向かって銃が放たれる。

「ピエロの下僕の分際で私に指図をするな!!」

しかしアリスはそれをひょいとかわした。そして睨みあう2人。やがて同時に横を向き、

「オズ!おまえからもなんか言え!!」

その矛先はオズへ。

「ん?ああ……まあ焦ってもしょうがないし、地道に記憶探してればいいんじゃないかなぁ」

のほーんと言うオズに、アリスと鴉の表情が険しくなり、

「……ッ」

ばっ、とティアのほうに振り返る。

「え……わたし?」

なんか言えオーラを放つ2人に、はあ、と声が漏れる。

「えーと……馬車の中でケンカしたら危ないと思うんだけど」
「…………」
「…………」

するとアリスはゆっくりオズのほうに向き直り──



「ってえ!?おちる、おちるってばアリスさん!!」

オズはアリスによって体を半分馬車の外へ出されている。

「何でオレだけなの?ティアさんはっ!?」
「んー、人徳の差じゃない?」
「……オレって人徳ないのかー……、じゃなくて!ブレイクが記憶探していいって言ったんだもん、それって、刻印の問題はあっちに任せていいってことだろ!?」

早口で叫ぶオズ。それを見たアリスがゆっくりと鴉に向く。

「……鴉」
「まあ、そんなところだろうな」
「そうならそうとはじめから言え、クズが!」

オズを踏んづけていた足を離す。

「とりあえず、わたし逹は記憶探しをすればいいんだよ。ね、アリス」
「む……まあ、そうだな……」

ティアが諭して、まだ少し膨れっ面のアリスが応えた。



「……!」

オズは目を覚ました。

「あ、起きた?もう屋敷に着いてるよ」

散らかった馬車の中を掃除しているティア。オズは馬車の扉を開けたが、扉を開けた姿勢のまま動かなくなった。

「オズ!」
「鴉……」

どうしたの、とティアが声をかけようとしたら、少し向こうから鴉が歩いてきた。パンドラの役人と話していたようだ。

「どうやら中で問題がおきたらしくてな。様子を見てくるからちょっと待ってろ」
「あ……うん、わかった〜」

オズと会話を交わした鴉は、役人と一緒に屋敷の中へと入っていく。
姿が見えなくなったのを確認したティアは、よし、と小さく呟いてで馬車を出た。

「あれ、ティアさん、どこに……」

オズが聞くと、ティアはしーっと人差し指を口元に当てて、鴉の歩いていった方向に走っていった。



時を刻む大きな時計、
それを見上げる鴉。

「……なんだ、ちゃんと動いてるじゃないか」
「異常なんてどこにもないね」
「ああ……ってお前!?」

いつの間にか後ろにティアがいた。ぴっ、と敬礼をするように手をおでこに当てている。

「や」
「何でここに!?」
「うん、ちょっと気になったから」
「お前なあ……いいから早く戻──」

カタッ、とどこからか音が聴こえた。それに気付いて辺りを見回す鴉とティア。カタカタカタ、しだいにあからさまになっていく音と、2人を取り囲むのはぎこちなく動く人間たち。その手には武器を持っていた。

「何……え、ちょっと!」

鴉とティアの間に割って入るようにして武器を振り下ろす人間をギリギリで避ける。

「どういうこと!?」

後ろを追いかけてくる人間たちから逃げ回るティア。鴉との距離がだんだん離れていく。

「待て!くそ……っ」

後を追おうとする鴉だが、人間たちに遮られて進めない。

「これは……ドルダムの人形遊びか──!」






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