路地。



「──お兄さん、お姉さん、お花を買ってくれませんか?」

ひとりの少女がオズとティアに花を差し出した。二人は顔を見合わせて頷き、それを受けとる。

「ありがとう!」

少女はにこっと笑った。



「おふたりはこの町の人?」
「ううん、違うよ」
「人捜しに来たんだけど、連れが迷子になっちゃって……今パパが捜しに行ってるところ♪」

「誰がパパだ」

うしろから黒髪の男、鴉が現れた。

「おかえり鴉ー」
「あ、アリス!よかったね見つかって!」
「……ったく手間とらせやがって……」

鴉の隣でアリス(例の迷子)がむくれている。

「あ、じゃあ私はこれで……」
「ああ、ちょっと待って!」

少女が去ろうとするのをのをオズが引き止めた。オズは少女に近付き、今買った花を少女の髪に付けてあげた。

「オレが持っててもすぐに枯らしちゃうもん。でも、こうしておけばさ……オレの中で君の姿と共に咲き続けるだろ?」
「どこのホストのセリフだそれは」
「わーオズかっこいー(棒読み)」



「全く……こいつが迷子になったお陰でとんだ時間の無駄だな」

鴉が呆れながら言う。

「何を言う!私は迷ってなどいないぞ!私から離れたおまえらが悪いんだ!!」
「アリス、それは言い訳にしか聞こえないよ……」
「なんだと!」
「大体、歩きながらきょろきょろするな!」
「仕方ないだろう!私にとっては初めて見るものばかりなのだから」

ぎゃあぎゃあとケンカを始めるアリスと鴉。呆れ果てた鴉が叫ぶ。

「あのなぁ……オレ達は遊びに来たわけじゃないんだぞ!」




「──成人の儀を行った場所へ?」
「うん。この時計を見つけたのはあそこだから……アリスの記憶について何かわかるんじゃないかなと思って。だめかな……?」
「いいですヨ」

オズとブレイクが話している。あ、オズの頭にチョップが命中した。そしてブレイクが大量の紙束をどこからか持ってきて、オズに手渡した。

「その資料の町では、違法契約者による殺人事件が多発していましてね。悪いんですが途中に寄ってパパッと犯人捕まえてきてくださーい」

オズの見ている写真をちらりと見る。凄惨な写真にぎょっとして、つい覗き込むように写真を見てしまった。子供にこんなもん見せるなよ、とブレイクを睨むと、ティアの視線に気付いたブレイクが何もないところからキャンディーの入った缶を出した。

「今ならせんべつにアメ缶をプレゼントー!」

ブレイクはほしい人ー、と缶をちらつかせる。それに食いついたオズがぴょーんと跳ねる。

「なんでそんな寄り道をしなくちゃならんのだっ」

ふと聞こえた声に振り向くと、(なぜか)椅子の後ろからアリスが叫んでいた。

「アリス……?」
「私の目的は記憶のカケラを探すことだぞ!」
「わかってますよ?だから……」
「近づくなこのピエロめ!!」

シャーッ、と毛を逆立てて威嚇するアリス。

「……オズ君、ティア君、私は彼女に嫌われているんだろうか」
「ばっかだな、あれはただの照れ隠しだって」
「そうそう。気にしちゃ駄目よ」

ひそひそと話し出す3人。

「おい、おまえら……なぜ意気投合してる」

「もう、アリスってばわかってないわね!」
「もしかしたらここに記憶があるかもしれないじゃん?」
「なに……?」
「オレの時計に入ってた記憶はアヴィスへの道を繋げた。そんでもって、そこから出てきたチェインに取りこまれちゃったわけだ……だったら、チェインがいる場所に記憶がある可能性を否定できない。そうだろ?」

オズの説明に少したじろぐアリス。

「いやぁ〜、オズ君は見かけによらず理解力があるねぇ」
『どっかのバカウサギと違ってな!』
「こらこら、ほんとのこと言っちゃダメだよエミリー」

ちなみに、エミリーというのはブレイクの肩の上に座っている人形のことだ。なぜか喋れるらしい。あの不気味さがとっても可愛い……と思っているのはティアだけのようだが。
おどけるブレイクに飛びかかろうとするアリスをオズがなんとか止める。アリスはわなわなと震えながら髪をかき上げた。

「ふっ……まあいい。私は心が広いからな!その任務とやらにも付き合ってやろう。せいぜい足を引っぱらぬようにするんだな愚民共!!」

女の子とは思えない剣幕で笑うアリス。

「一人じゃ戦えもしないのによく言う」

ぼそりと、すかさず鴉の鋭いツッコミが入った。「黙れ!」とまた毛を逆立てるアリス。そして、その隣でくすくすと笑うティアに「笑うな!」と叫ぶ。

ティアはごめんごめん、と笑ってふと横を見た。そこでは、ブレイクがオズに何やら耳打ちをしている。

(……あやしい)

口元に指を置いて、それをじいっと眺める。オズとブレイクの間に飛び交う、互いに探りを入れるような視線。
オズ、彼はなかなか厄介な子のようだ。








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