どこまでも続く空間。ティアは当てもなくふらふらと歩いていた。
ここがアヴィスならば、きっと出口があるはずだ。そして、アヴィスから出れば何かが解る、なんとなくそんな気がした。たとえば、さっきの少女。彼女と会話していることが、ひどくデジャヴのような気がしてならない。あの子にもう一度会いたい、と思った。
考えていると、また音楽が聴こえた。同じメロディだった。音のする方へ走ると、そこには大きな亀裂と、そこに入っていくチェインが一体。
まさか、あれは出口──
「ちょっと、待って!」
ゆっくり閉じてゆく亀裂のわずかな隙間に腕を突っ込むと、身体が一気に吸い寄せられていく。
「げ、ええええ!?」
強い力に投げ出されるように宙を舞う感覚、そのすぐ後に顔面を強打した。ずざざざ。スライディングをするように床を滑る。
「痛い痛い痛い!」
顔を上げると、目の前にぼたぼたと落ちる何かの残骸。それは砂塵になって消えていく。最後にカツン、と固い音を立てて落ちたのは、鈍く金色に輝く懐中時計だった。見た事のあるような、懐かしいような、そんな感覚を覚えながら懐中時計を眺めていると、手が伸びてきた。懐中時計に手をかけた途端、それが突然光り出した。
眩しさに目を細めると、脳に直接、何かが伝わってきた。
「なに、これ」
『あなたは私の親友よ』
『あなたが望むなら、私は何でもするから』
『綺麗だ』
『……私が好きなのはあなたじゃないわ』
『偶然だね、私もだよ』
「っ!!」
胸が締め付けられるように痛い。なんだこれ、これは、
「──ティア」
どこからか、名前を呼ばれた。気付くと真っ白な空間にぽつりと立っていた。
「……誰?」
周りには誰もいない。見渡す限りの白に目が眩む。
「私の愛しいティア」
「誰なの……!?」
「怖がらなくてもいいよ。……まだ知るのは早いから、もう少しだけ待っててほしいんだ」
「……、」
頬に何かが触れた。チリン、と鈴が鳴る。
「覚えていて。私のことを」
甘い痛みが胸に広がっていく。ティアはゆっくりと頷き、目を閉じた。
*
(わからないんだ……オズ)
この声は、
(胸があつくて……涙が……とまらない…)
あの子の声だ。
(私の記憶は呼んでいたんだな……この中で……ずっと──……)
あの子と私の、
(やっと1つ……取り戻した……!)
記憶が、
「って……え!?」
身体を起こすと、そこは広間のような所だった。
目の前には5人。その中にはアヴィスで見た少年と少女もいた。少女が気付いたようで、はっとしてティアを指差した。
「ティア!なぜここに!?」
「あ……えっと」
ティアは立ち上がろうとするが、杖にそれを制されてしまう。
「おふたりは知り合いデスカ?」
「知り合いというか……さっき会ったんだ、アヴィスで」
杖を持った銀髪の男の問いに、アリスがかなり不機嫌そうに答えた。それを聞いて、男がぴくりと眉を動かす。
「ほほう、アヴィスで、ねえ……」
男は杖でティアの肩をぽんぽんと叩く。
「君は誰だい?」
「……ティア、」
じわり、やおら肩に焼けるような痛みを感じて杖から離れる。男はそれを見て小さく口角を上げた。それからにこりと笑って
「君はアヴィスから出られましたヨ」
と言った。
「まずは、着替えましょうカ」
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