やばい。
少年を見た第一印象、これ。
どこがやばいってその見た目だ。まず髪型。黄緑の髪の毛を立たせているんだけど、でもその立ち方が尋常ではなくて、天に向かってぴんっと立つっていうか、例えるならソフトクリームみたいな。もう直立だ。どんなワックス使ってるんだろう。それから服装もなかなか奇抜で、グレーとオレンジのピチピチな服を着ている。
そしてそんな少年が空き地の隅に体育座りしている。やばいだろこれは!
けれど草むらを掻き分けてここにやってきたのは私なわけで。このまま「なんでもありません」と草を元に戻せばいいのか。それはそれで…気まずい。
「あの、」
そもそも私は、おせっかいなんだ。
「何してるんですか?」
少年は目を見開き、何かを言おうとしているのか口をぱくぱくさせている。かくれんぼしてます、とかだったらああそうでしたかと戻る
つもりが、
「…わからない」
「え?」
わからないってなんだ。私はどう返事をすればいいんだ。
「わからないとは」
「まず、ここはどこだろうか」
「は?」
どこって空き地ですが見てわかりませんか。
「えーと…迷子?」
尋ねてみても少年は何も言わない。ゆっくりと顔を下げてうつむいてしまった。
「わからない…何も思い出せないんだ…!」
ぶんぶんと首を振りはじめた。もしかして、本当にやばい奴に会ってしまったんじゃないのか…私よ。
「き、記憶喪失?」
「はっ」
それだ、というように顔をばっと上げた。いやいやいやいや。記憶喪失だなんて。噂の中二病とかいうやつかな。ありえないんだけど!
私の脳内コマンドは『逃げる』一択だった。
「そうですかー頑張ってください、それじゃ」
草をゆっくり戻して立ち上がる。
関わらないのが一番。
関わらないのが一番。
関わらないのが
「ま、待って!」
手を掴まれた。
「ごめんなさい!!」
私は咄嗟にエコバッグから(明日のお昼に食べるつもりだった)ジャムパンを少年に投げつけた。ジャムパンは彼の顔にクリーンヒットする。腕を掴む手の力がゆるんだ隙に背中を向け、全力で走った。ごめん少年まじごめん!!
私のジャムパンは犠牲になった。明日のお昼どうしようかな。