席替えから一週間がすぎた。クラスは新しい席にすっかり馴染んでいるみたいだ。なんと、わたしにも話しかけてくれる子がいた。驚きだ。


英語の宿題をし忘れていたことに気付いたわたしは授業中に内職をしていた。こういう時にいちばん後ろの席は便利である。しかし宿題は終わらない。さすがに土日のぶんをすべて終わらせようとするのは無謀だったかな。

結局午前中に終わらず、わたしは昼休みに賭けることにした。ちなみに提出期限は昼休みが終わるチャイムが鳴るまでである。




隣のクラスで弁当を掻きこんで、すぐさま自分の教室に戻ってきた。冊子を開き、電子辞書を机の隅にセットして宿題を始めた。


ガタン、と教室のドアが力強く開けられる。ドアを開けた人物はわたしの隣の席に座る女子に駆け寄った。ちらりと見ると、例のわたしと席を交換した女の子だった。彼女の瞳に涙が溜まっているのが見えて、つい二度見してしまう。

「どうだった?」「ダメだったよ…」「そっか…、理由聞いた?」「ほ、他に…好きな人いるからって…」「え、涼野くんに!?」「うん、」「ええええ」

筒抜けだよ…わたしがいる事気付いてないのかな、やっぱり空気系女子なんだねわたしって。
どうやら泣いてる子が涼野くんに告白した、けどフラれたらしい。ひとしきり慰めた後、すぐに話は涼野くんの好きな人についてに切り替わった。まあその辺はあまり興味がないので(知らない名前ばかり挙がるので)聞き流すことにした。



昼休みはあと15分。残っている宿題はあと4ページ。いける!


教室のドアが開く音と、隣の女子のあっ、という声が聴こえてつい顔を上げた。涼野くんとその友達の南雲くんが教室に入ってくるところだった。隣にたむろする女子たちがひそひそと話しはじめる。

「聞いてあげようか?」「ええ、でもそんな」「大丈夫、南雲くんに聞くから」「うーん…」「それイエスかノーかどっち」「はっきりしないなら聞いちゃうよ」だから筒抜けなんだってば!


「南雲くん、ちょっとー」

1人が南雲くんを呼んだ。パタパタとスリッパが擦れる音が近付いてくる。

「どうした?」「ねえ、涼野くんの好きな人ってだれ?」「は?オレに聞くのか」「うん!教えて!」「…知らねえよ」「えーマジで?」「マジで」「じゃあ涼野くんの好きなタイプとかは?」

ぴたり。会話が止まった。どうしたんだろうとまた顔を上げる、と、南雲くんがこっちを見ていた。(正確には顔を前に向けたまま目線だけがこっちを見ていた)目が合って、驚いて視線を宿題に戻す。


「お前らみたいな奴はあり得ねえな」

南雲くんは吐き捨てるように言った。途端に周りの女子がぎゃあぎゃあと騒ぎはじめる。ううう女子ってこわい、なんて考えながらもわたしは必死にシャープペンを動かす。


「名字さん」

話しかけられた。今は1分1秒を争うんだぞ、と思いながら声のした方を見ると、なんとそこには南雲くんがいた。わたしに何の用だ、っていうかどうしてわたしの名字を知っているんだ。

「はい…?」
「それ、昼休みまでじゃねーの」
「は」

…知ってるよ!だから今頑張ってるんじゃないか!
などと言い出せるほどコミュニケーション上手でないわたしは、えーと、その、あの、と連呼していた。もういいからわたしに構わないでくれるかな!

「もう諦めろよ」
「でも、……」


わたしの蚊ほどの声はチャイムに掻き消された。

「え…」
「じゃあな」

南雲くんはにこやかにわたしに背を向ける。途中で涼野くんに何か話しかけてから教室を出ていった。



「…なんなの、あいつ…!」

南雲くん、呪うぞ。





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