さらさら、と、髪が風に流れる。

「風介の髪は綺麗だね」

名前は私の髪を梳きながら呟いた。

「晴矢とかヒロトとは違う、透き通った綺麗な色」

その髪一本一本、毛先の隅々までをいとおしそうに撫で続ける。

「わたし、風介がだいすきよ」

そう言って髪に口付けを落とした。



しばらく名前が動かないでいたので、どうしたと訊いてみると、

「うん、えっと…こんな事言ってもいいのかわからないんだけど」

と少し口ごもった。言ってみろ、と促す。



「あのね、風介の髪の毛、食べたいなあと思って」


驚いた。でも、彼女が食べたいと言っているのだから髪の一本くらいどうということはなかった。

「いいよ」

「ほんとう?」

「ああ」

「やったあ、ありがとう風介」


ぷつん、と髪の毛が抜かれた。三本ほど。一瞬痛みが走って顔が歪んだけれど、それは名前には見られてないみたいなので安心した。

見ると名前が私の毛髪をもしゃもしゃと口に含んでいるところだった。


「美味いのか?」

「ん…ぜんぜん」


口内に貼り付く毛髪に苦戦しているようで、口元がせわしなく動く。


「でもね、」





「なんだか、すごく幸せなの」


彼女が笑うなら髪の毛くらいいくらでも食べさせてやりたいと思った。



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