気付くと名前と一緒に歩道を歩いていた。
日射しが強い。太陽は俺たちの真上で照っているから今は正午くらいだろう。名前はつばの広い帽子をかぶっている。
眩しそうに目を細める名前の横顔を見て思った。俺は同じシチュエーションを以前にも体験したことがある、と。
自分の携帯を開くと8月15日だとディスプレイは言う。やっぱりおかしい、俺の8月15日はこれで3回目だぞ。いや、もしかしたら俺が覚えてないだけで本当はもっと8月15日を過ごしているかもしれない。なんだかぞっとした。
夏なんて嫌い。ふと名前が呟いた。その台詞にも聞き覚えがある。強い風が名前の帽子をさらった。
名前は慌てて帽子を追いかけた。どきりとした。その後どうなるかは何度も見たから知っている。車道へ出た名前は、
考える前に飛び出していた。名前の後を追い、その背中を力いっぱい押す。けたたましいクラクションの音、見るとトラックのフロントが眼前に広がっていた。
鈍痛、
○
歩道に投げ飛ばされた俺は身体を強く打ち付けた。足に激痛が走る。少し遠くに、髪の毛がボサボサで眼帯の破れた俺が間抜けな顔をしていた。ざまあみろよ、笑ってやると、向こうの俺は小さく微笑んで、その姿が陽炎みたいにゆらゆらと揺らめいて消えてしまった。「遅いよ」奴の口はそう動いていた。
ふと気付いた。あいつは、ついこの間までの俺だ。
目の前に見覚えのある靴が見えて、視線を上に持っていった。名前が立っていた。
「知ってる?蜉蝣の成虫の寿命はたった数時間なんだって」
何を言ってるんだ。早く救急車を呼べ、
「佐久間はどう?その足ここで失う?」
足、だと。そうだ、足を治さないとサッカーができなくなる…あれ、さっきまで痛かった足の痛みが消えている。なんだこれ。
「俺は、サッカーを、するんだ」
「だったらなおさら。その足はもう治ってる。早く起きてよ」
差し出された手に俺の手を置いた。
「『私』も、心配してるよ」
そんな声が聞こえて、俺の意識はブラックアウトした。
○
目を覚ましたときには、俺は病院のベッドに寝ていたわけで。
帝国サッカー部の奴らが俺のベッドを取り囲んでいるわけで。
隣では名前が泣きながら「足、もう大丈夫だって。またサッカーできるね!」と言ってるわけで。
「夢…か」
蝉は、もう鳴いていなかった。