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バレンタイン大騒動!




その日、あたしは珍しく新一の家ではなく、自分の家で寛いでいた。
昨日新一に薦められた、もとい半ば押し付けられた小説を読んでいたんだけど、これが意外にも面白かったのだ。
この小説、トリック込んでるなぁと感心しながら、次のページを捲ろうとした時に携帯が着信を知らせた。

着信の相手はきっと彼なんだろうと思いつつも、別の人であるかもしれない可能性も考えて、念の為に携帯を開いた瞬間、あたしは早くもその行為を悔いた。
予想通りの名前がディスプレイに表示されていたからだ。


『またぁ!?』


ついイラつき混じりの声が出てしまったのは、決してあたしのせいではない。
ここ数日、あたしが一人の時を狙っているかのように、何度も何度も繰り返し電話を寄越して来るこいつが悪い。


「なぁ、なまえ、」
『イヤ』

「即答すんなよ!俺まだ何も言ってねーだろ!?」

『どうせ、』
「そう言わずに頼むって!年に1度のイベントだぜ?な?この通り!」

『しつこいっ!何回作らないって言ったら諦めるのよ!?』


通話ボタンを押した途端に甘えるような声でバレンタインチョコの催促をしてきたのはワンコこと、黒羽快斗。
お互い話を遮れるほどサクサク話が進むのはそれだけこの話が繰り返されてきたからに他ならない。
一刀両断に切り捨てようが、声を荒げようがワンコはめげもしない。
寧ろ、ワンコは諦めることを知らず、何度でもあたしに挑んでくるのだ。



ことの発端は1月もあと僅かとなったある日のこと。
壁に飾ってあったカレンダーを見ながら、もう2月かぁ、なんて呑気に考えていたらワンコから突然電話がかかってきた。
「諦めません!」宣言をした割に、クリスマスに可愛いプレゼントを貰っただけで、他には何も起こらなかったものだから、あたしはすっかり油断しきっていた。

そもそも携帯が着信を知らせた時に、相手が誰かも確認せずに出たのが間違いだった。


『もしもし?』
「よっ!久しぶり!」
『快斗?どうしたの?』
「じゃじゃーん!ここでなまえに問題です!」
『はぁ?』
「2月は目前!さて、2月のイベントと言えば何でしょーか!?」
『えっと…節分とバレンタイン?』
「ピンポーン!大正解!特に俺がなまえに答えて欲しかったのは後半のバレンタインの方なんだけどな」
『それがどうかしたの?』
「なまえの愛情たーっぷり!な手作りチョコくれよ!」
『…切るわよ?』
「え?あ、ちょ、待っ」



ってその時は即切りしたのはいいんだけど、ワンコのしつこいことしつこいこと!
まるであたしが一人で居る時が分かってるかのように、毎日毎日懲りずに電話をしてくる。
メールを返さないのも原因なんだろうけど、1日に何度も同じ内容の電話をかけられるこっちの身にもなれってんだ。
もう相手してるのも面倒になって留守電になるまで放置していたら、あのワンコわざわざ留守電に毎度ご丁寧にメッセージを残した上で、あたしが出るまでひたすらに電話をかけ続けてくる。

ここまで来ると迷惑以外の何物でもない。

その結果、今や着信履歴はワンコの名前で埋まってしまっているくらいだ。
この携帯、絶対新一にはしばらく見せられない。
知らない男の名前があたしの着信履歴を埋め尽くしているのを新一が見つけた日には、一体どんな質問攻めに遭うことか、考えるだに恐ろしい。


『だいたいねぇ、快斗には手作りチョコをあげる名目すらないんだからいい加減諦めてよね?友チョコだけは絶対に嫌だ!って言ったのは快斗の方でしょう?』

「バーロー!当たりめーだろ!?友チョコなんて、遠まわしに俺とはそれ以上の関係になる予定すらねーってバッサリ断ってるようなもんじゃねーか!俺はオメーのこと諦めるつもりなんて更々ねーんだよ!!」

『そんな堂々と“諦めません”宣言してる人に義理でもチョコをあげるとでも思ってるの?しかも手作りを?そんな微かでも期待させるような真似出来るわけないでしょうが』

「だーからっ!なまえが俺に本命チョコくれりゃ」
『馬鹿なこというのも大概にしてくれない?あたしには現在進行形で付き合ってる本命の彼氏がいるの。付き合いだして初めてのバレンタインなの。喜んでもらえるように精一杯心を込めて作る予定なの。そんな状態でなんで快斗に本命あげるなんて話になるのよ!?』


しつこいワンコに懇切丁寧に力説してはみたんだけど、多分無駄だろうということくらいは理解してるつもりだ。
このくらいのことで諦めてくれるんだったら、こんな毎日何度も電話して来ないだろうし、その電話が来るたびに1回の通話時間がどんどん長引いている現状になっているわけがない。


「なぁ、ちょっと質問してもいいか?」

『何?』

「そんだけ力入れて本命作るってことは、友チョコとかと同じもん渡すわけじゃねーよな?」

『当然でしょう?本命と友チョコを一緒にする女の子がどこにいるっていうのよ。ついでに言うなら、クラスの子にあげるヤツとサッカー部の皆に渡すものも別途で作るわよ?クラスメートでサッカー部にも所属してる子に同じの2個渡すわけにはいかないじゃない』


それに付け加えて、和葉ちゃんや服部くんに贈るチョコだって違うのを送る予定だったりする。
あの二人なら家族ぐるみの付き合いしてるんだから、ホールで送ったら分けっ子するかもしれないしね。
それなら違うものを送った方がいいに決まってる。

だから、今年のバレンタインは作る量も種類も半端ない。
ただでさえ忙しくなる予定なのに、その上、ワンコにまで構ってられるかっての。


「それじゃあ、勿論端数が余ったりするよな?」


電話の向こうでニヤリと笑った気がするワンコに内心舌打ちした。
目敏いヤツだ。それは手作り特有の最大の欠点でもある。
作るものにもよるが、渡す数ピッタリに作ることは難しい。
半端に残ってしまうことは勿論ある。

それでも、向こうの世界であたしのお菓子がバレンタインに売れ残った試しはない。
残ってるならこっちももらっていい?って配る必要もなく完売していたからだ。
寧ろ、「あれも食べたい!」と違うお菓子を食べ比べした子たちからリクエストが来て、追加に作るくらいだった。


「なぁ、その残りもんでいいから俺にくれねーか?」

『はぁ?』


ちょっと思考をワンコから外した途端に話がおかしな方向に進んでいた。


「なまえは残りもん処分出来るし、俺はバレンタインになまえから手作り菓子がもらえる。これぞまさに一石二鳥!!」

『残りものでもいいの?』


呆れたように返せば更に耳を疑うようなおかしな理屈が返ってきた。


「バレンタインはなまえの手作り菓子を遠慮なく強請れる年に一度のチャンスなんだぜ?見逃せるわけがねーだろ?」


ちょっと待て。このワンコ一体どういう認識してんだ。
バレンタインは女の子が好きな男の子にチョコをあげる、もしくは日頃の感謝を込めてチョコを配るイベントの筈でしょう?
間違っても人にお菓子を強要する日じゃない!


『でも、かなりの種類作るつもりだから、残り物って言っても結構な数になるかもしれないわよ?』

「イコール!いろんな種類のなまえの手作り菓子が食えるってこったろ?本命とは言え一つしかもらえねー彼氏くんなんかより、俺のが断然お得!寧ろ役得なこのポジションを見つけた俺を褒めてやりてーくれーだね!」


俺、あったまイイ!って言い出しそうなくらい上機嫌なワンコを誰か黙らせてくれないかな。

普通、バレンタインに余り物もらって喜ぶか?
仮にも諦めません宣言してる相手のチョコなのに?


「バーロー!だからこそだよ!通ってる学校が違うからって理由だけで普段菓子作っても俺には分けてくんねーだろ?そんななまえの手作り菓子が食えるんだぜ?しかも何種類も!こんな絶好の機会失ってたまっかよ!」

『はぁ…じゃあ、バレンタインはもう余り物で諦めてくれるのね?』

「なまえの手作り菓子が食えんなら、どんな名目だろうが大歓迎に決まってんだろ?大丈夫だって!どんだけ量があろうがなまえの手作り菓子なら俺いくらでも食える自信あっから!!」


誰もそんなことは聞いてない。
そう思いはしたんだけど、余り物で手を打ってくれようというんならもういいや。
これでしつこい催促電話からも開放されるだろうし、せっかくまとまった話を混ぜ返す程の気力も残ってないしね。


『じゃあ、15日に受け取りに来てくれる?』

「は?なんでバレンタイン当日じゃねーんだよ?」


そんなのバレンタインは新一とゆっくり過ごしたいからに決まってるでしょうが。
だけど、それをそのまま言うと煩くなるのは目に見えてるから、不機嫌な声を出したワンコに、


『嫌ならいいわ。余り物も誰かに配』
「嫌だなんてとんでもない!喜んで15日の朝一で取りに行かせていただきます!だから、怖ぇこと言うのだけは辞めてくれ!頼むから、俺にもなまえの手作りチョコ食わせてくれよ!!!」


誰かに配れば済む話だから、と最後まで言う前にすっごい勢いでワンコに会話を遮られた。
ここまで必死こいてバレンタインのチョコが欲しいなんて言われたのは前の人生を含めても勿論人生初だ。


『分かった。余りが出たらあげるの約束するから、もう迷惑電話は辞めてよね?』

「おう!」


こいつ、迷惑電話してた自覚あったんかい!
ってツッコミたかったけど、もう会話続けるのも疲れて来たから、あたしはそのまま電話を切ってベットに沈んだ。







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