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46.別れと始まり


週末に工藤家にお泊まりするようになってから、寝る前の時間は新一の部屋かあたしの部屋で二人でのんびりと過ごすのが恒例になっている。
今日はあたしの部屋で過ごしていたんだけど、さっきから新一があたしを離してくれない。
いや、原因は分かってるんだけどね。


『新一、いつまでこうしてるつもりなの?』

「ん?とりあえず9日分充電し終わるまで、かな」

『別に新一と一緒にいる時間が全くなくなるわけじゃないでしょ?』

「いや、でもちゃんと充電しとかねぇと、俺、なまえが父さんと一緒に居る時間、邪魔しちまいそうだからよ。充電してても父さんにヤキモチは妬くだろうけど…ガマンくれぇなら出来る、と思う。たぶん」


もう苦笑いしか出ない。
ご飯の後、先生たちと一緒に過ごせる時間にカウントダウンが始まったから、先生たちがアメリカに行くまでは出来るだけ先生たちと一緒に居たいんだけどいいかな?って新一にお願いをしてから、ずっとこんな調子だ。


「でも、出発日を入れても後9日しかねぇし、なまえのキモチは分かっから、今までみてぇには邪魔したくねぇんだよ…だから、今はもうちょいこのままで居させてくれな」

『うん。分かった』


あたしのキモチを優先してくれようとしてる新一のキモチは十分伝わったから、今は新一の気が済むまでこのままでいようとあたしも新一に体を預けて楽な姿勢になった。
たぶん、明日からはホントに先生と有希子さんにべったりになっちゃうだろうし。
でも、新一には悪いけど、先生たちが日本を発ったら今までみたいに一緒には居れないんだから、せめてそれまでは出来るだけ一緒に過ごしたい。


『先生たちがアメリカに行ったら、新一との時間も増えるだろうし、ちゃんとその時間は大事にするから…だから、今はワガママ言わせてね?』

「わーってるよ。オメーがワガママ言うなんてこと自体珍しいんだし、それまではちゃんとガマンすっから」


だから、俺と二人の時だけでいいからこうさせててくれって新一の腕が一層強くあたしを抱き締めた。
新一に抱き締めてもらうのはあたしも好きだし、この腕の中に居るのは安心する。
先生とは違う安心感だけど、きっとこれが親と恋人の違いなんだと思う。
先生と会わなかったら、あたしはその違いすら知らないままに過ごしてたんだろうな。


「なぁ、なまえ」

『なぁに?』

「父さんたちの出発日が決まって、そっちに気がいっちまうのも分かんだけどさ…せめて、俺と二人で居る時くれぇは俺のことだけ考えててくれねぇか?」

『え?』

「今、父さんのこと考えてただろ?」


どうして分かったんだろう?
あたしが先生のこと考えてる、なんて。


「なまえは自覚してねぇのかも知んねぇけどさ、オメー、父さんに見せる表情だけ違ぇんだよ」

『そうなの?』

「おう。だから、父さんのこと考えてんだなってのは顔見てりゃ分かるし、俺はオメーが父さんに笑いかけてるのを見る度に嫉妬してんだよ。その笑顔を俺にも向けて欲しいってな」

『え?そんなに違うの?あたし、先生といる時も新一といる時も普通にしてるつもりだよ?』


特別態度を変えてるつもりは、あたしにはない。
まぁ、その“普通”が二人で違うのかもしれないけど…。
新一がそんな風に思ってたなんて知らなかったな。
だから新一は、あたしと先生が二人で話してると何かと理由をつけては乱入して来てたのか。


「なぁ、なまえ。俺らと初めて食事に行った日のこと、覚えてるか?」

『新一が先生たちにからかわれて、ずっと不機嫌だったヤツでしょ?覚えてるよ?新一、途中から喋らなくなっちゃったんだよねぇ』


懐かしいなぁってあの日のことを思い出してると、新一が予想外なことを言って来た。


「あの日、父さんと3人で母さんの支度が出来んの待ってただろ?俺、あん時ずっとなまえのこと見てたんだぜ?」

『え?』

「俺にはそんな笑顔してくれたことねぇじゃねーかって悔しかったんだよな」


あの時はあたし、新一ともそんなに仲良くなかったし、ずっと誘われてた外食のお呼ばれだったから嬉しくてテンション上がっちゃって、先生と話すのに夢中だったのだけは覚えてるけど…新一がずっとあたしを見てた?え?何で?


「レストラン着いた途端になまえが夜景見てはしゃいでるの見て、こんな無邪気に笑ったりすんのかって思ってた。あん時はまだ教室でのオメーしか知らなかったからな」

『えっと…』


急にそんな昔話をして、新一は何が言いたいんだろう?
さっきから予想外なことばかり言われてるから、懐かしそうにあの日のことを話す新一を見てても何が言いたいのか分からない。


「あの日に思ってたんだよ、俺。オメーのことでだけは父さんに負けたくねぇってな」

『え…?』

「まだあん時はほとんどまともに話してすらなかっただろ?だから、これから仲良くなればオメーに近付けて父さんに向けてるような笑顔を俺にも向けてくれんじゃねぇかって思ってたんだ」

『…』

「でも、結局彼氏になった今でも、まだ一度もあの笑顔を向けてもらえねぇから、やっぱり父さんには勝てねぇのかって悔しいんだよ…」


そう言って、新一はまたあたしを抱き締めた。
先生にだけ向けてる笑顔っていうのがどんな笑顔なのかは分からないけど、抱き締めてもらってる腕の力強さで相当悔しいんだろうなっていう新一の想いは伝わって来た。

先生に負けたくないって思ってたのは、あたしのことを好きだって自覚してからじゃなかったんだ。
まだ、クラスメートだから顔見知りって程度だったあの頃から、あたしと仲が良かった先生に嫉妬してたんだ…。

え?ちょっと待って。
新一って、そんなに前からあたしのこと意識してたの?

だって、あの頃って蘭が新一のこと意識してたみたいに、新一も蘭のこと意識してたじゃない。あれ?


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