41.優しい口付け
結局あのまま全身に広がった恐怖に、思考がぐちゃぐちゃになっちゃって、何にも考えられなくなってしまったから、少しでも頭ん中を整理しようとしてたら学校を休んでしまった。
それに気付いたのは、夕方に園子からメールをもらってから。
携帯が震える度にあの二人からなんじゃないかってビクビクしてたから、いっそ電源切っちゃおうかとも思ったんだけど、万が一、先生たちから連絡があったら、また心配して駆けつけてくれるかもしれないと思うと電源を切ることさえ出来なかったんだ。
from:鈴木園子
sb:今日
無断欠席だったみたいだけど、大丈夫なの?
また体調崩しちゃった?
to:鈴木園子
sb:ごめん
色々考え事してたら、いつの間にかこんな時間になってたの。
倒れてるとかじゃないから安心して?
メールを返信した後、園子からすぐに電話がかかって来た。
もう放課後なんだ。
そういえば空はもう青から赤に色を変えている。
「考え事ってあんたまさか寝てないんじゃないでしょうね?」
『寝てない、けど…』
「はぁ…今度は一体何があったのよ?」
『園子の予感が的中したのよ』
「あー、例の彼にも告白されたの?」
『うん…また断らせて貰えなかった』
ホントはそれだけじゃないんだけど、あたしのせいで元々あったはずのストーリーを変えてしまったことが怖くなったんだ、なんて言えるわけがない。
「それだけ?」
『…冗談でしょ?って言ったら抱き締められて、キス、された』
「それで、只でさえパンク寸前だったなまえがパンクしちゃったってこと?」
『うん…』
もう、ホントに意味が分からなかった。
本来あるべきストーリーがネジ曲がってしまったことは、あたしという存在のせいなんだと思うと、どうしていいかも分からなかった。
だって、帰り方も分からなければ、あの夢が現実なら帰るべき場所すらあたしにはないってことになるんだもん。
元々、居場所なんてないのが当たり前だとは思っていたけど、ドコにもあたしの存在していい場所さえないんだと思うと、ホントにどうしていいか分からない。
「もうさ、いっそのこと、二人に告白されたこと忘れちゃって、別のこと考えたら?」
『え?』
「だって、なまえ、今のままじゃ身動き取れないでしょ?もう全然別のこと考えてさ、一旦二人に言われたこと忘れちゃいなさいよ」
『…そう、だね』
それがいいのかもしれない。
bestではないだろうけど、betterではある気がした。
二人には悪い気がするけど、無かったことにさせてもらおう。
これ以上問題が増えたら、ホントに身動きが取れなくなってしまう。
「ま、なまえがある程度落ち着いたら、マジックの彼のこと聞かせてよ」
『忘れろって言っときながら、話せって言うの?』
「誰も直ぐに聞かせろとは言ってないでしょ?」
『まぁ、そうだけどさ』
「それはそうと、明日は学校来れそう?」
『行くよ?休んでばっかもいられないしね』
「それなら良かったわ。新一くんはまた何かあったんじゃないかって今にもあんたんとこ行くって暴れ出しそうだったし、それ見て河野さん泣き出しそうだったのよ」
『…たかが一日休んだだけで、みんなオーバーね』
「あんたの場合は前例があるんだから仕方ないでしょ?」
悔しいけど、否定出来ない…
それじゃあ、また明日学校でねって園子は電話を切ってしまった。
でも、別のこと考えろって言われても、一体何を考えたら…あっ!快斗が来る前に、あたし、有希子さんに電話しようとしてたんだった!
そうだ。怜子さんにアメリカ行き後押しされて、余計なこと考えないで、一回真剣にアメリカ行きのこと考えようとしてたんだった。
ちょうどいい理由があったじゃないか!
思い立ったが吉日!
今度こそ邪魔が入らない内に連絡しよう。
『あ、もしもし?有希子さん、今大丈夫ですか?』
「あら、なまえちゃんからあたしに連絡して来てくれるなんて嬉しいわ!一体どうしたの?」
『前に先生から有希子さんがあたしの学校を探して下さってるって聞いたんですが、良かったらお話だけでも聞かせてもらえませんか?』
「もちろん、いいわよ!何校かオススメのスクールを見つけたのよ。いつかなまえちゃんに紹介しようと思ってたの!」
『それじゃあ、急で悪いんですが、明日の学校帰りに早速寄らせていただいてもいいですか?』
「ええ、分かったわ。資料準備して待ってるから!」
有希子さんは何だかご機嫌なまま電話を切ってしまった。
有希子さんがご機嫌だった理由は分からないけど、有希子さんのテンションが高いのはいつものことだし気にしなくていいかな?
よし、これでとりあえずは余計なことを考えなくて済む筈だ。
あたしが告白されたことなんて新一は知らないだろうけど、何だか顔を会わすのは気まずいから、新一の部活が終わる前に帰ったら大丈夫だろうし。
明日、お話聞くの楽しみだな。
あの二人のことを頭の隅に追いやっただけで、こんなに気が楽になるとは思わなかった。
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