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「なまえちゃんの手作り菓子、何度食ってもやっぱうめーな!!」

「ったく、サッカー部ばっかズリーよな。工藤がいるってだけでしょっちゅう差し入れもらえんだからよ。しかもこんな美味いもん!やっぱ俺もサッカー部に入っときゃ良かった!」

「なまえは俺の彼女なんだから、彼氏に差し入れしたって別におかしかねーだろ?」


なまえがクラスのヤツらに配った菓子は早速食べられているらしく、クラス中から同じような会話ばかり聞こえてくる。
ったく、だから他のヤローにやるの嫌だったんだよ。


『ねぇ、新一』

「ん?どした?」


なまえの手作り菓子が食えて浮かれてるヤロー共にイライラしてた頃、なまえが俺の席にやってきた。
昼休みはずっと河野たちと一緒にいるから、俺から会いに行かなきゃなまえとは喋られないのが常だったから、なまえが俺に会いに来てくれたってだけでさっきまでのイライラも吹き飛んでなまえに笑いかけた。


「なまえちゃん、今日は菓子ありがとな!これ、めちゃくちゃ美味かったぜ?」

『ホントに?ありがとう。放課後はサッカー部にも顔出すから楽しみにしててね?違うの作って来てるの』

「マジで!?ヤベー、今から楽しみなんだけど!さっさと放課後になってくんねーかな?」

「それで?なまえは何か俺に用があって来たんじゃねぇのか?」


俺の前で他のヤローと楽しそうに喋ってんじゃねーよ!
しかもそんな嬉しそうな笑顔を誰彼構わず振りまくな!
害虫が増えんだろーが!!

なんてことは勿論なまえに直接文句言えるはずがねぇから、俺は無理矢理話を戻した。


『そうそう。新一に聞きたいことがあって来たの』

「俺に?なんだ?」

『引退した3年生の先輩たちがいる教室、教えてくれない?』

「は?」

『現役のみんなには放課後部活で渡せるけど、引退しちゃった先輩たちには渡せないでしょ?だからこれから持って行こうと思ってるの』


ちょっと待て。
サッカー部の奴らに渡すってのは聞いてたけど、もう引退した3年の先輩たちにまで渡す気だったのかよ!?

きっと俺が何を考えているのか顔に出ていたんだろう、なまえは不思議そうに首を傾げながら言葉を続けた。


『だって、今年1年散々お世話になってるのに、渡さないわけにはいかないでしょう?』


なまえがこういう性格だってのは分かってる。
いや、分かってたつもりだった、けど…どんだけ配れば気が済むんだよ!?


「分かった。俺が代わりに行ってくる」

『え?でも、あたし自分で渡したいんだけど…』

「そんくれーわーってるよ。だから、今日の部活に顔出してくれって頼んでくっから。頼むからオメーは教室から一歩も出るんじゃねーぞ?いいな?」


なまえにくどい程教室にいるように言い渡してから、俺はすぐに3年生の教室がある階を目指した。

別になまえにサッカー部の先輩たちと会われるのが嫌なわけじゃない。
そう、サッカー部の先輩に限れば問題ないんだ。
先輩たちだってなまえのことを相当可愛がってたから、引退すんのが嫌だ、なまえと会えなくなるのが寂しいって引退する時の送迎会で口々になまえへ言ってたのもまだ記憶に新しい。

ただ、3年の先輩たちの中にもなまえを狙ってるヤローが少なくないのを知ってるから来させたくなかっただけだ。
なまえがチョコの入った袋を持って、3年生の教室巡りなんかしてみろ。
すぐさまヤロー共に取り囲まれて身動き取れなくなるに決まってんじゃねーか!


「先輩ー!久しぶりです」

「工藤?どうしたんだ?3年の教室になんか用でもあんのか?」


引退するまで部長だった先輩の教室に迎えば、先輩はすぐさま俺を見つけてくれたけど、訝しげな声を出した。
当たり前だ。俺が3年の教室に来たのは今回が初めてだし、普段なら用なんてあるわけがない。


「先輩、今日何の日か知ってます?」

「は?バレンタインだろ?それがどうしたんだ?」

「なまえがサッカー部の皆に配る用のチョコ用意してんですけど、引退した3年の先輩たちにも渡したいっつってて。それで、今日の放課後、部活に顔出してもらえないかと思って。出来れば他の先輩たちにも声かけてもらえると助かるんですけど」

「お前、ホントにいい彼女持ったな!まさか引退した俺たちの分までチョコ作ってくれてるとは思わなかったぜ!」

「あ、いらないんならさっきの話聞かなかったことに」
「バカ野郎!俺らが引退してからというもの、なまえちゃんの手作り菓子がどんだけ恋しかったと思ってんだ!」


元部長と話してたら他の先輩に首を固められた。
しかも、俺らがじゃれてる間に元部長は既に引退した先輩たちに全員集合のメールを送信していた上にその全員から返信まで来ていたらしい。
相変わらず、なまえが関わるとこの先輩たちは動きが早い。


「んじゃ、今日の放課後マネージャーも含めて引退したメンバー全員で部室行くからなまえちゃんに伝えといてくれよ!」

「分かりました。なまえも先輩たちに久々に会えて喜ぶと思うし」

「ってか、なんでわざわざ工藤がここに来たんだ?なまえちゃんなら、俺らのとこまで配りに来てくれそうなもんなのに」

「だから!それをそのまま実行しようとしてたから阻止して俺が来たんですよ!先輩たちに配るだけなら心配いらねーけど、3年の教室をチョコの詰まった袋持ってなまえがうろついてたら危険だから!」

「あー、なるほどな。工藤っていう彼氏がいようがお構いなくなまえちゃん本気で狙ってるヤツなんか俺が知ってるだけでも片手じゃ足りねーくらいにはいっからなぁ」

「確かに、なまえちゃん一人でこの階くるのは危険だよなぁ。俺らの教室回ってたらどこ連れてかれるかもわかんねーようなヤツに拉致られる可能性もあるしな」


「ま、頑張ってお前がなまえちゃん守ってやれ」って先輩たちに肩を叩かれて俺は先輩たちの教室を後にした。
ったく、先輩たちですらなまえが一人でここをうろつく危険性に気づいてるっつーのに、なんで肝心の本人は危機感すら持ってねぇんだよ。

クラスでチョコを配った時も大騒ぎだったけど、部活でもまた大騒ぎになるんだろうなと考えただけでため息が出てきた。

俺にだけチョコくれりゃそれでいいってのに!
何が悲しくてなまえが他のヤローにチョコ渡してるとこなんざ見なきゃいけねーんだよ!!





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