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四人でチョコを交換して、そのまま少し話していた時に重要なことを忘れていたことに気付いた。


『ねぇ、みんなの家族の分も作ってきたんだけど…もらってくれる?』

「え?あんたそんなもんまで作って来てたの!?」

『うん。三人には普段からお世話になりっぱなしだしさ。勿論園子のとこの使用人さんたちの分まではさすがに作りきれないから、ホントに家族用なんだけど…』

「ありがとう!なまえちゃんのお菓子、いつも好評だからお母さんたち絶対喜ぶよ!!」

「私もお母さん家に呼び出せる口実出来て嬉しい!お父さんもだけど、お母さん、なまえの手作りお気に入りで、なまえのケーキとかあると必ず来てくれるの!」

『そんな大層なもんじゃないから、あんまり期待されると逆に出しづらいんだけど…』

「そんなことどうでもいいから!それで?何作って来たのよ?」

『ん。これだよ』


紙袋の中から個別に入れてる紙袋を一つ一つ丁重にとって三人に渡した。
これで形が崩れでもしたら、あたしの苦労が台無しだからだ。
本当なら、学校終わりに三人に家まで取りに来てもらおうかとも思ったんだけど、あたしはサッカー部に顔を出すからいつ帰れるか分からない上に寄りたい場所もあるし、第一蘭も普通に部活があるだろうからと結局学校で渡すことにした。


「なまえちゃん、これ何?ロールケーキとかかな?」

『これはね、』
「ええい、気になるから開けちゃえ!」


明日香に説明しようとしてたとこだってのに、我慢出来なかったらしい園子が袋から取り出して箱を開けちゃったんだけど、そのまま驚いた顔をして固まってしまった。
自分で開けといてその反応はなくない?


「何よ、コレ!?」

『んー、簡単に言えばミルフィーユの応用みたいな感じかな?これはコーヒー味だから、ガトー・モカ・オ・ザマンドってとこ。ザマンドっていうのはフランス語でカリカリとした食感のアーモンド菓子のことを言うんだよ』


園子は説明してる間もキラキラした期待の眼差しでそのお菓子を見つめていたんだけど、いきなりガバッと箱を元に戻したと思ったらとんでもないことを言い出した。


「なまえたちに友チョコも配ったことだし、あたし今日早退するわ」

「え?ちょっと、園子!?」

「こんな美味しそうなお菓子があるっていうのに、放課後まで待てるわけないじゃない!」


どうやらお菓子を見て興奮状態な園子は、マジで帰るつもりらしく、さっき開けてた家族用のお菓子の入っていた袋にテキパキとお菓子を戻し、その袋にあたしたちからの友チョコまで入れて自分の席へ戻ろうと踵を返そうとしていた。

あたしのお菓子ならいつも食べてるでしょ?って呆れてたんだけど、蘭からも「なまえも黙ってないで園子止めてよ!」って瞳を向けられたので、仕方なく園子を足止めするのを手伝うことにした。
お菓子を喜んでもらえたのは嬉しいけれど、それを理由に学校をサボられても困るしね。


『園子帰っちゃうの?クラスの皆に配るヤツもちゃんと園子たちの分まで作って来たんだけどなぁ』


あたしのその言葉に足を踏み出そうとしていた園子はピタッと動きを止めた。
これで確実に園子は帰るのを辞めるだろうと確信を持って、あたしはわざとらしく残念そうに続きを口にした。


『違う種類作って来たし、園子なら貰ってくれるかなーって思ってたんだけど…いらないのね?』

「いるに決まってんでしょ!?」

『じゃあ、たかがあたしのお菓子ごときで早退するのは辞めてよね?クラスの皆へのチョコとさっきの友チョコがあれば、放課後までくらい我慢出来るでしょ?』

「はぁ。分かったわよ。降参!あたしの負けよ!なまえのお菓子貰えるチャンスを振ってまで早退なんか出来るわけないじゃない」


園子が完全に早退するのを諦めた様子を見て、蘭は「良かった」と呟いて安堵の息を吐いてたけど、あたしは園子の態度に満足気に笑っていた。
園子に言うことを聞かせようとしたら、あたしのお菓子で釣るのが一番楽なのよね。

けど、時間帯が悪かった。
今日がバレンタインだからか、あたしたちだけじゃなく皆登校してくるのが早くて、いつも遅刻スレスレの子たちまで含めてあたしのクラス全員が教室にいたのだ。
しかも朝のHRまでの時間もまだ十分にある。
その状況を確認すると、園子はなんの躊躇いもなく、クラス中に響き渡る程の大声を張り上げた。


「みんなー!なまえがクラスの全員分、チョコ作って来てくれたんだって!」

『ちょ、園子!?』


園子の突然の行動に慌てて止めに入るが、もう遅い。
さっきまでチョコのやりとりやなんやらで賑やかだった教室内が一瞬にして静まり返った。


「なまえの手作りチョコ要らない子は無理にもらわなくていいわよ?残った分はあたしが全ー部!持って帰るから」


ニヤリと笑って言った園子の台詞にクラス中から速攻でブーイングが来た。


「鈴木!テメー何独り占めしようとしてんだよ!?もらうに決まってんだろ!?」

「そうだよ!園子ちゃんたちはさっきなまえちゃんから友チョコ貰ってたじゃない!それで十分でしょ!?あたしたちのチョコまで取らないでよね!!」

「残念でしたー。さっきなまえから貰った友チョコとクラスの皆に配るチョコは違うんだって。それならあたしも貰うに決まってんでしょ?あたしだってなまえのクラスメートなんだからさ」

「鈴木はいつもみょうじさんからの手作り菓子食べてんだろーが!!ぱっと見ただけで美味そうな菓子囲んでいい匂いクラス中に漂わせながら楽しそうに食べてるお前らがどんだけ羨ましかったと思ってんだ!?今日くらい俺たちにもみょうじさんの手作り菓子食べさせろよな!!」


園子はこの状況を楽しんでいるみたいで飄々としてたけど(寧ろクラスの皆を煽ってさえいたけど)、次々と園子に食いかかる勢いで文句を言ってるクラスの皆にあたしは唖然としていた。
そりゃあ、たまにお菓子を学校に持ってきてはお昼に明日香たちと4人で食べてたことは何度もあったけど、それ皆見てたの?

え?何?あたしのお菓子って意外と需要あるの?

元々あたしはクラスの皆と特別に仲がいいわけでもない。
基本的にはいつも明日香たちと一緒にいるんだから、貰ってくれたらそれで満足だったんだけど、受け取ってもらえなかったらそれはそれでいいやと思ってたから、想定外もいいとこなこの展開に頭がついていけず、あたしは園子たちのてんやわんやな騒ぎを呆然と眺めていることしか出来なかった。


「なまえ!俺に一番にくれ!」


軽く放心状態だったあたしの元に駆け寄ってきたのは新一だった。
新一にも渡す約束はしていたのでクラスの皆の分を入れていた紙袋からほぼ無意識にチョコを新一に手渡すと、新一は喜んでそれを受け取ってくれた。


「工藤!テメーはみょうじさんから本命チョコもらえんだから、それまで受け取る必要ねーだろうが!!」

「ウッセーな!なまえがクラスの皆にもお礼チョコ配りたいっていうから、テメーらにチョコ渡すの許可してやったんだろうが!本来なら俺以外の男になまえの手作りなんか食わせてやる気も義理もねーんだよっ!俺もそれ貰う約束でテメーらにチョコやるのを渋々、あぁ、ホントに渋々!許可してやったんだぜ?文句あんならテメーは食うな!」


今度は皆(主に男の子から)のクレームに新一が食ってかかった。
男の子たちとのやり取りが徐々に加熱していく中で、あたしはチョコを受け取りに来てくれた女の子たちにチョコを笑顔で手渡していた。
だって、ああなった新一は誰にも止められない。


「これ可愛いー!ラッピングまで本格的なのね。ホントにありがとう!」

『ううん。喜んでもらえたなら良かった』


クラスの皆に作ったのはプチフール、とまではいかないけど普通のマフィンよりは小さめのショコラケーキ。
それ一つじゃさすがに寂しいから、一人当たりケーキを2個にして、隙間にはしっとりしたケーキとは対照的にサクサクで口溶けもいいクッキーを詰めてラフィア素材の箱に入れてみた。

サッカー部には夏場にあげたマフィンの中にチョコのヤツも含めて渡してたから、クラスのサッカー部の子達がそれを食べていても被らないように、少し品を変えてみたのだ。
こっちの方がちょっとリッチな味がすると向こうでも人気だった商品なので、口に合わないこともないだろうなって。

女子に配り終わる頃、新一と盛大に口喧嘩してた男の子たちも受け取りに来てくれたんだけど、皆大袈裟なまでに喜んで受け取ってくれたから、あたしも終始笑顔だった。

そんなことをしていたら、クラス全員に配り終わった頃には朝のHRの時間が迫っていた。




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