「二人ともお帰りなさい!なまえちゃん、今日はお友だちのところに行くって聞いてたから、あたしがご飯作ってるの。ご飯出来るまで新ちゃんとお喋りでもしててくれる?」
工藤家に着いたあたしたちを出迎えてくれた有希子さんのこの発言により、あたしはそのまま新一の部屋へと連行された。
ちなみに新一はまだ機嫌が直らないらしい。
蘭の家を出てから、ずっとピリピリしている。
『もう…いい加減に機嫌直してよ』
「なんでオメーはあいつらの味方ばっかすんだよ!?」
『だって、二人ともあたしの親友だし?』
「彼氏の味方はしてくんねぇのかよ?俺らが言い争いしてる間も、止めにも入らずに暢気に茶なんか飲んでやがったよな?」
『あれは蘭まで加わっちゃったから…あたし、新一と違って蘭の攻撃を避けるだけのスキルないんだもん』
「蘭がなまえを狙うわけがねぇだろ?それに、あんなもん、慣れりゃ簡単に避けれるっての」
新一、蘭からの攻撃に慣れる程、何度も蘭を怒らせたんだ…。
あたしは慣れる云々の前に、蘭を怒らせること自体遠慮したい。
「とりあえず、あいつらのせいでイライラしちまったから、ちょっとなまえで充電させてくれよな」
って新一はあたしを抱き締めた。
あたしで充電とか意味が分からないんだけど、とりあえず落ち着いてくれたらしいとあたしも素直に抱かれていた。
「でさ、イヴなんだけどな」
『うん?』
「俺、部活があっから一日中一緒にいるとかは出来ねぇんだけどよ」
『うん』
「俺の部活が終わったら一緒に駅前のイルミネーション見に行かねぇか?」
『いいよ?毎年すっごくキレイなんだって明日香が教えてくれたから、あたしも見たかったし』
「母さんたちもイヴは毎年二人でどっか行ってるから、飯も二人でどっか食いに行こうぜ?」
『そうなの?でも、そんなことしなくてもあたしが作るよ?』
「いや、なまえの手作りがイヤなんじゃなくてさ…なんかデートっぽいことしてぇじゃねぇか」
あたしを強く抱き締めて、新一がそんなことを言った。
向こうにいた時からデートって別にわざわざどっかに行かなくても、好きな人と一緒に過ごせるだけで嬉しいから、お家デートで十分だと思ってるあたしにはそのキモチはよく分からない。
『分かった。新一に任せるよ。あたしは新一と一緒に過ごせるだけで十分だから』
「…あんまり可愛いこと言うなよ。離せなくなんじゃねぇか」
『だって、好きな人と一緒に過ごせるだけで幸せだもん』
「なら、今も幸せか?」
『うん。すっごく幸せ』
そう言って、あたしも新一を抱き締めた。
こういうの改めて言葉にするのは恥ずかしいから、あんまり言いたくないんだけど、新一は時々確認してくるからいつも照れ隠しにあたしは顔を隠してしまう。
「なぁ、なまえ。こっち向けって」
『もうちょっとしたらね』
「今なまえの顔が見てぇんだって」
新一に体を離されて、まだ熱の収まってない顔を見られてしまった。
これももう定番になりつつあるから恥ずかしい。
新一はいつもあたしが照れてると分かると顔を確認しようとするんだから。
「なまえ、すっげー可愛い」
『恥ずかしいってば…』
「いつも俺ばっか顔真っ赤にしてんだから、たまには俺がなまえのそういう顔見たっていいだろ?」
たまに、じゃないから困ってるんじゃないか。
新一はいつも顔を赤くしてもあたしを抱き締めて誤魔化すクセにズルいよ。
『それなら、この前の写メだけで十分じゃん』
「なまえは中々そういう顔してくんねぇから、見たくなるんだよ」
そう言って、あたしの頬にキスをした新一。
新一は頬にはよくキスしてくれるけど、唇にはあまり…というかほとんどしてくれない。
それがちょっと寂しいんだとは恥ずかしくて言えないんだけど。
中1の恋愛なんてこんなものなんだろうかって思うし。
自分の時はどうだっただろうなんて思い返してみても、もうそんな昔のことなんか忘れてしまったから、新一に合わせようと思ってる。
「なぁ…なまえ」
『何?』
「たまにはなまえからもキスして欲しいんだけど」
『え?』
「なんか俺ばっかなまえのこと好きみてぇじゃねぇか」
そんなことを拗ねたように言われても困る。
あたしだってたまにはキスしてるじゃん。
まぁ、それは新一の先生たちへの愚痴を黙らせる手段に不意打ちで使ってるだけだけど。
「新ちゃーん、なまえちゃーん、ご飯出来たわよー!」
『はぁい』
返事はしたけど、新一はまだあたしを離してくれるつもりはないらしい。
こういう甘えた行為をしてくれる新一は可愛くて大好きなんだけど、早く下りないとせっかくの有希子さんのお料理が冷めてしまう。
『新一、ちょっと目閉じて?』
「ん?これでいいか?」
チュッ
軽いリップ音を立てて新一の唇をいただくと、新一はあたしを離してくれた。
「なっ…なななっ」
『あたしからキスして欲しかったんでしょ?じゃあ、ご飯食べにおりよっか?』
「こんな顔で母さんたちの前に行けるかよ!!」
ゆでダコになってしまった新一を置き去りにして、あたしはご飯を食べに下りることにした。
あたしからのキスなんて求めた新一の責任なんだから、あたしは知ーらないっと。
(君にちょっとした仕返しです)
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