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(番外編)新一side


ホントだったら来月だったはずが、父さんたちがアメリカに発つ日が早まって、なまえ風に言うなら、カウントダウンが始まった、らしい。
父さんも母さんもなまえのことすげー溺愛してっけど、なまえも負けずにあの二人のこと好きだからな。
だから、父さんたちがアメリカ行くまでは邪魔しないでいてやろうって思ってはいたんだ。
いたんだ、けど。


「ただいまー。母さん、なまえは?」
「なまえちゃんなら優作のところに居るわよ?」


またかよ…。
なまえは父さんたちと可能な限り一緒に居たいと言っていた言葉通り、学校が終わったらまっすぐ俺ん家に来て、ずっと父さんの部屋に居るらしい。
飯を作る時間になると母さんと一緒に飯作って、飯食った後は母さんと後片付けして、その後は父さんたちと珈琲飲んで、帰りは俺じゃなく父さんに送ってもらってる。
つまり、俺とは飯の時しか一緒に居ねぇ。
学校では蘭たちがやけになまえとべったりしてやがるから、俺は最近なまえ不足が深刻だ。
たかが一週間ちょいとはいえ、意外とキツイ。


「あれ?今日は母さん一人で飯作ってんのか?」
「なまえちゃん、優作の部屋から出て来ないのよ。明日には日本発っちゃうじゃない?だから、邪魔しちゃ悪いかと思って」


父さん父さん父さん…
なまえが父さんのことすげー慕ってるのは知ってっけど、それでもこうまで日がなべったりと父さんと一緒に居られっとさすがに俺の我慢も限界点が近い。


「あれ?父さん、なまえは?」


母さんが二人を飯に呼びに行ったから、てっきり父さんと一緒に来るんだとばかり思ってたのに、来たのは父さんと母さんだけだった。


「なまえ君なら泣き疲れて眠ってしまってね。今部屋に運んで来たところだよ」
「俺、なまえが起きてから一緒に飯食うから二人で食っててくれよ」
「新ちゃん、どこ行くの?」
「なまえんとこに決まってんだろ。父さんたちといる時は二人の娘でも、父さんたちと離れたら俺の彼女なんだよ!」


久しぶりになまえと二人になれるかもしれねぇ機会逃してたまるか!
明日まで待てばなまえと一緒に居れんのは分かってっけど、そんなの待ってられっかよ!!

寝てるって聞いてたから、静かになまえの部屋に入るとベッドですやすやと寝息をたててるなまえの髪を撫でてやった。
こうしてなまえに触れんのさえ久しぶりな気がする。
しっかり手入れされてる柔らかくてサラサラしてるなまえの髪は触り心地がいいから、いくら撫でてても飽きねぇんだよな。
寧ろ、もっと触っていたくなる。


『…ぃ』
「ん?」
『ごめんなさい…』


こいつ、何を謝ってんだ?
どんな夢見てんのか知らねぇけど、なまえはごめんなさいと言っては涙を流してるから、起こさねぇようにそっと指でその涙を拭っていた。
嫌な夢見てんなら、起こしてやった方がいいのかもしれねぇけど…今日学校で眠そうにしてたなまえに理由を聞いたら、昨日は父さんたちに渡す手紙を書いてて寝不足なんだっつってたから、起こすのは気が引ける。


「新ちゃん、なまえちゃん起きた?」
「いや。まだ寝てるよ」
「二人のご飯持って来たから、ここに置いとくわね」
「サンキューな」


母さんが飯を運んで来てくれて、しばらくしてからやっとなまえが目を覚ました。
泣き疲れて寝ちまうまで泣いてたせいか、瞳がまだ赤い。


『あれ?新一?』
「やっと起きたか」
『あれ?何であたし自分の部屋に居るの?あたし、先生と一緒だったはずなのに…』
「オメーが泣き疲れて眠っちまったから、ここに運んだんだとよ」


起きたばっかで、まだよく状況を把握しきれてねぇらしい。
けど、俺の話を聞いてなまえは自嘲的な笑みを零した。


『あたし、最後の最後まで先生に迷惑かけてたんだね』
「んなの気にすんなって。父さんのことだから、なまえに迷惑かけられて喜んでるだろうしな」
『うん…まさか嬉し泣きでこんなに涙が出るとは思ってなかったよ』
「え?」


てっきり父さんと別れんのが嫌で泣いてたんだと思ってたのに、違うのか?

なまえは詳しいことは何も言わずに父さんたちからもらったんだって言ってたブレスレットを撫でていた。
悲しいとも寂しいとも違ぇけど、なんかほっとけねぇ表情で。


『新一?どしたの?』
「オメーがずっと父さんと一緒に居たから充電が切れたんだよ」


そう言って誤魔化して、俺はなまえを抱き締めた。
んな顔すんなよ。
俺が傍に居てやっから。
でも、それを言ったらなまえに気を遣わせちまうような気がして言えなかった。
だから、抱き締めることしか思い付かなかった。

きっと父さんなら、こんな時、気の利いたセリフでも言えんだろうけど…


『新一、あたしも少し充電させてね』


いつもは俺が抱き締めるだけなのに、珍しくなまえが抱き返してきた。
ちょっとだけ、なまえが震えてんのが分かったけど、やっぱり何も言わねぇことにした。

大丈夫か?なんて聞いたら、こいつは大丈夫だよって無理して笑うに決まってんだから。
そんなことさせるくれぇなら、俺にしがみついててくれる方がいい。
なまえが落ち着くまで、いくらでもこうしててやっから。


『ごめん…新一。ちょっとだけ泣いてもいい?』
「んなことでイチイチ謝んなよ。泣き止むまで抱き締めててやるって」
『あり、がと』


泣き声を噛み殺す為に、俺の背中に回された手が、俺の服をきつく握りしめてた。
きっと声を出して泣いた方が楽だろうに、なんでこいつはこんなに我慢するんだろうな。

でも、そんなオメーだから、俺はほっとけねぇんだよ。
俺は黙ってなまえが泣き止むまでずっと強く抱き締めて頭を撫でていた。
大事な彼女が泣いてんのに、こんな時でもなまえがどうしようもなく愛しく感じるってちょっと不謹慎、か?


『ありがと。もう大丈夫だよ』
「そっか」
『ん…泣いてたから瞳にキスなんかしたらしょっぱいでしょ?』


んなことどうでもいいんだよ。
さっきからオメーにキスしたかったのをずっと我慢してたんだから。


『明日まで待ってね』
「ん?何をだ?」
『明日からのあたしの時間もキモチも全部新一にあげるから、先生たちのお見送りまでは先生たちのこと考えさせてね』
「わーった」


時間はともかく、父さんたちが日本からいなくなったって、なまえの心ん中を占める割合なんか減りゃしねぇんだろうけど、それでも俺の為に言ってくれてる言葉なのは分かってたから、頬にキスするだけで黙ってることにした。
少しでも、オメーん中での俺の存在が大きくなんなら、今はそれでいいからよ。



翌日、昨日散々泣いたとは思えねぇくれぇに、なまえはいつも通りに笑って父さんたちを見送っていた。
これなら今日は大丈夫そうだなって思ってたんだけど、父さんたちが見えなくなったから、帰ろうぜって言おうとした時、なまえの瞳からは大粒の涙が溢れていた。


『新一、あたしちゃんと笑ってお見送り出来たよね?』
「あぁ。さっきまでいつも通りのオメーだったぜ?よく頑張ったな」


ボロボロとなまえの頬を濡らしてる涙を拭いもせずに立ち尽くしてたなまえを抱き締めてやると、なまえは俺にしがみついて、子どものように声を上げて泣いてしまった。

あんだけオメーが慕ってた父さんたちと別れんのがツラくねぇわけねぇのにな。
無理してんのに気付いてやれなくて、悪ぃ。

なまえがやっと泣き止んだ頃には、父さんたちの飛行機が飛び立つところだった。
それを見てから帰りたいってなまえが言うから、一緒に父さんたちを最後まで見送ることにした。


『先生、有希子さん、ホントに今までありがとうございました』


なまえのその呟きはしっかり聞こえてたんだけど、聞こえなかったフリをしてなまえの手を繋いで帰ろうぜ?って誘うとなまえは嬉しそうに笑って頷いた。
これが無理して笑ってんじゃないといい。
この笑顔が心からのものであって欲しい。


『これからは新一と二人でご飯だね』
「そうだな」
『楽しみだな』
「え?」
『これから新一と一緒に刻む時間が楽しみだなって』


嬉しそうに幸せそうに笑ってオメーがそんなことを言うから、俺は思わずなまえを抱き締めてしまっていた。
充電したいっつって俺の部屋に来てから、散々抱き締めてんのに。


『これからは新一の隣があたしの居場所だね』


んな可愛いことばっか言われてたら、俺、いつまで経ってもオメーのこと離せなくなんじゃねぇかよ。



なぁ、これからは俺がオメーの笑顔守れるように頑張っから、いつだってなまえの傍に居てやっから。

だから、これからもずっと俺の隣でそんな風に幸せそうに笑っててくれよな。



中1編fin.


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